第3話「迷路での奮闘」
進んでいるとやがて道幅が狭くなっていく。天井は八メートルはあるだろう高さに、道幅は四人手を伸ばして並んでも余裕があった広さの場所から、四人で並んで丁度くらいの通路のような形になった時、急に足を取られた。
「うわっ!?」
流れる床で転んだ僕らは、そのまま流されていく。ハープーンを、後ろのリュックに引っ付け手を空いた状態にする。
「お前ら、気を抜くな!」
唯一転ばなかった王騎君に立たされ、流されていくと分かれ道が見えてきた。
「どっちに行く? 流れるから関係ないのかな?」
「とりあえず左に行くつもりでいてくれ」
通路の左に寄った僕らはそのまま左にいく、はずだった。
「キャッ」
瞳ちゃんが右の道へ転んだ。
「ヒトミ!!」
「な、何かに押されて、ああああ……」
鴎ちゃんが飛んだ。二人は右の道へ流されていく。
「カモメちゃん! ヒトミちゃん!」
「くそ! どうする!?」
「ヒトミは私に任せて! オウキ君を頼んだわよ、ミツル君!」
「わかった! カモメちゃん、ヒトミちゃん、気をつけて!」
いきなりピンチな状態に陥ってしまった。とにかく僕らは絶対はぐれないようにしないといけない。そこで少し思った。
王騎君が狙われていうという話を自分でしたのを思い出す。そして瞳ちゃんは、何かに押されたと言っていた。
分断が目的なら……、まず王騎君を一人にする。だが王騎君は一番前にいる。押しても皆そちらへ飛べばいい。ということは、
「ま、まずい!」
狙われるのは僕だ! 気づいたときには遅かった。考えてるうちに次の分かれ道がきていて王騎君は言った。
「カモメとヒトミに合流するために、右にいくぞ! ついてこい!」
「待って! ……あ!!!」
僕は、何かに押された。左の道へ行く。
「ミツル!!」
くっそおおおおおお! 僕は走った。流れる床に逆らって全力で走った。気づけば、王騎君もあちら側で走っている。
「手を伸ばせ!!! ミツル!」
僕らは必死に手を伸ばした。掴んで王騎君が引っ張る。左の道へ行った。
「ハァハァ、ありがとう」
「クソッタレ! 俺が狙いなら俺に来い!」
言ってるうちに流されていく。すると更に分かれ道が見えてくる。
「ミツル! 右だ! 右へ行くぞ!」
僕は頷いた。僕は構えた。右へ行こうとする。だが、
「ガァ! なんだ?!」
王騎君は左の道に押された。僕は慌てて左へ飛び乗る。だが、ここで気づいてしまった。これではいけないことに。
「オウキ君! これじゃやばい!」
「なんだ? 分断されないのが一番じゃないのか?」
「いや、実は……、あれ?」
僕は驚いた。隣に鴎ちゃんと瞳ちゃんがいたのだ。
「二人とも無事だったんだね!」
「ミツル君、オウキ君!」
僕は鴎ちゃんに触れようとした。だが、触れなかった。
「どうやら映像のようだな。それも高度な」
「悪趣味ね」
鴎ちゃんは瞳ちゃんの傍を離れないように手を繋いでいる。
王騎君はふーっと息を吐き再び尋ねた。
「それで、なんだ? ミツル。何がやばい?」
「うん、実は……。いや、待って」
「どうしたの? ミツル君」
鴎ちゃんが尋ねる。僕はこの映像がなぜ映されているかを考えた。伝えることで危険性が増すと考えたのだ。知らない方がいいこともある。
「鴎ちゃんと瞳ちゃんは絶対はぐれないようにして! 多分大丈夫だから」
「う、うん。わかったわ。ヒトミ! 気をつけるわよ」
「ごめんね、ウチがはぐれたせいで」
「俺たちも分断されかけた。気をつけてくれ」
鴎ちゃんは任せてと言ってグッドサインをした。そこで映像は消えた。その後すぐに僕は王騎君に早口で、僕の意見を言った。
「クソッ! そういうことか」
恐らくこの敵の狙いは本当に王騎君のはずだ。だから一番優先順位の低い女子二人は恐らく正解の道へ行く。僕らが行ければの話だが。
そしてここからが重要な点。僕が押された時、王騎君の道へ引っ張ってもらった。王騎君が押された時、僕がそちらへ行った。だがここで問題がある。もし敵の気持ちに立ったらどうするだろうか? 当然王騎君を一人にするよう仕向けるのだが、間違った道へ導くはずだ。
つまり僕らは、僕が押されたら僕が進む道へ。王騎君が押されたら逆方向へ行かなければならないのだ。
「ここからは根気の勝負だね」
僕は言った。
「やってやろーじゃねぇか!」
分かれ道がやってくる。僕らは奮闘した。分断されないよう、そして正しい道へ行くよう。
僕が押されたら、王騎君も僕も全力で走って僕が引っ張る。王騎君が押されたら、王騎君も僕も全力で走って僕が引っ張る。
僕の負担が半端なかった。でもそんなこと言ってられない。王騎君も全力で走っている。
それを何度か繰り返した。右にも左にもとにかく王騎君が誘導される逆を行った。
僕らは息も絶え絶えになっていた。流石に疲れる。と、そこで後ろから鴎ちゃんと瞳ちゃんの声がした。
「!? カモメちゃん! ヒトミちゃん!」
「オウキ君! ミツル君!」
僕は映像かとも思ったため、触れようとした。今度は触れられた。ムニッという感触がする。ムニ?
鴎ちゃんは、顔を真っ赤にしていた。
「あっ! ごめっ、ぶふっ!?」
「馬鹿!」
僕は思いっきりビンタされた。瞳ちゃんも顔を手で覆っている。きっと顔は赤い。
「はっはっはっ。ミツル、お前元気だな」
「そんなんじゃないんだけど」
右手でぶたれて、左頬が痛い。多分手のあとがついていると思う。
「お前ら、気を抜くなよ」
そう言った王騎君はゆっくり立ち上がった。
「大丈夫? 二人共、汗だくだよ」
瞳ちゃんが心配してくれた。
「ほんとだ。何があったの?」
鴎ちゃんも気づいた。僕は説明しようか迷って、王騎君と顔を見合わせ言った。
「後で説明するよ。今は集中しよう」
だが分断はそこまでだった。流れ着いたのは……。
「行き止まり?」
最終的に何も無いところへたどり着いた。間違った道に連れてこられたのか?
僕らがなにか方法はないかと壁を探ったりしていると、奥の壁で瞳ちゃんが何かを発見した。それは文字だった。だが恐らく古代文字。
「困ったぜ! 俺は読めないぞ」
「私もわからないわ」
「ウチ読めるよ。ここに来る前に興味があって勉強したから。死にたくなければ上へ登れ、だって」
僕は壁の上を見上げた。どれくらいの高さがあるかわからないが、登るしかないか。
「オウキ君とミツル君が先に登って。私が殿をする」
「待て、今度は俺が殿を……」
僕は気づいていた。鴎ちゃんがスカートを抑えたのを。
「言う通りにしよう、オウキ君」
僕は左頬を少し押えながら言った。そしてハープーンを両手に、壁に刺しながら登っていく。登っていくと吹き抜けが見えた。
そして、全員で上がると目の前にとある部屋のような空間が見えた。そして何かを見つけた王騎君は走っていった。
「見ろ! 宝箱だ!」
王騎君は疑いもせず開けようとする。
「待って! 罠かもしれない!」
「その時はその時だ!」
王騎君は勢いよく宝箱を開けた。中には、
「おい、何もないか?」
「いや、待って」
隅の方に鍵があった。青い鍵が。
「ここに扉があるよ」
鴎ちゃんの方へ向くと確かに扉があった。
「この鍵をさしこめってことか?」
王騎君が言ったが、僕はもう嫌な予感しかしなかった。
全員で扉の前に立つ。僕はあえて、先生に渡された方の鍵で開けた。扉が開く。
「おい、待て。なんでそっちで開く?」
もうわかるだろ。同じなんだよ。青い鍵でここまで来て、青い鍵を見つけたのだ。形も一緒。
「行こう」
僕は呆れながら、皆が中に入ったあと扉を閉めて鍵を閉めた。音がして、恐らく上がっていく。
しばらく待っていると音が止んだ。鍵を開けて扉を開くと、先生が立っていた。
「おかえりなさい。成果はありましたか?」
僕は黙って青い鍵を二つ渡した。先生は笑顔になって言った。
「よく頑張りましたね。これでスペアが増えました」
僕はため息をついた。そりゃ沢山あるわけだよ。
「骨折り損のくたびれもうけじゃねぇか!」
「初級にしては大変だったでしょう?」
僕はもう泣きそうだった。僕と王騎君の様子を見て先生は拍手した。
「本当に何も成果はありませんでしたか?」
そこで僕はハッとした。
「先生、オウキ君が極端に狙われていたのが気になっていたんです」
先生はコクリと頷いた。
「そこに気づけた六道君は素晴らしいです。帰って明日授業で説明しましょう。実はもう結構遅い時間なんです。今は帰り道の心配をしてください」
ま、まさか? と僕は焦った。
「心配しなくても、スカルへの対処は先生がします。皆さんはちゃんと走ってついてきてください」
「待ってください! 歩いてはいけないんですか?!」
「問答無用。行きますよ」
「諦めろミツル。行くぞ!」
ヒィヒィ言いながら僕は走った。王騎君もしんどいはずなのに、元気にも見える。空元気かもしれないが。
スカルの対処は全部先生がしてくれた。流石と言うべき腕前でスカルを寄せつけなかった。
そうして僕らは海底ダンジョンを後にした。
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