第4話「海底ダンジョンについて」
ダンジョンを出た後、僕らは各自部屋に戻って届けられた遅い夕食を食べた。男子浴場に向かうと、時間も遅いせいか王騎君一人が体を洗っていた。僕は自然と王騎君の隣に座って体を洗っていた。
「ミツル」
「ん? 何?」
王騎君は前を向いたまま、僕に言った。
「ありがとな」
「え? な、なに?」
「お前がいなきゃ、俺は一人はぐれさせられて、あの迷路をさ迷っていたかもしれない」
「オウキくん……」
「だから、ありがとな」
彼はもう一度僕に礼を言ったあと、風呂に浸かった。僕も体を洗い終え、湯船に浸かる。僕は嬉しくて顔が変になってたから、顔を見られたくなかった。だから、前を向いたまま言った。
「お互い様だよ」
あの時僕が押された時、彼は走って手を引いてくれた。それが例え結果的に間違った道に引き込まれていたのだったとしても、あの行動をしてくれなかったら僕らは分断されていた。勿論僕も走ったけども。
そうか、と言った彼は風呂から上がり体を拭いて自分の部屋へと戻っていった。僕も部屋に戻った。今日はぐっすり寝れそうだ。
翌朝、目が覚めて体を伸ばす。部屋の窓から光が差し込んでいていい天気のようだ。
僕は時計を見た。短い針が十のところを指していた。
「嘘だろ……!」
大寝坊だ!! やばい!!! 僕はベッドから飛び降り、直ぐに着替えて準備をし部屋を出た。梯子を渡ってゆっくり行く暇はない。僕は鉤爪のついたロープでショートカットしながら教室へ急いだ。途中で王騎君と合流する。
「ミツル! お前もか!」
どうやら、王騎君も寝坊したらしい。仕方がないよ、昨日がアレだもん。とにかく二人揃って大急ぎで、教室のドアを開けた。
「すいません!! 遅れました!!!」
教室には当然先生と鴎ちゃんと瞳ちゃんがいた。授業をせず、復習をしていたようだった。
「ようやく来ましたか」
「すまん! 寝過ごした!!」
王騎君と僕は頭を下げた。先生はやれやれと言った感じで、とにかく座りなさいと僕らを座らせた。
「今、古代文字について空色さんと赤居さんに教えていたところです。赤居さんはとても素晴らしいですね」
瞳ちゃんは褒めらて照れていた。確かに最後の行き止まりの古代文字が読めなければ詰んでいた可能性もある。
「今はそれより全員揃いましたし、昨日の六道君の疑問に答えていきましょう」
王騎君が狙われる理由について、先生は語り出す。
「その前に、皆さんは魂というものが存在すると思いますか?」
可能先生は僕らに問いかける。それに真っ先に答えたのは王騎君だった。
「当然だ。魂がなければ俺は前世の記憶を保っているはずがない」
その設定、いつまで維持できるんだろうか? そう思いながら僕は手を挙げた。
「僕は魂とは、脳の電気信号の一種だと思っています」
これに鴎ちゃんは同調した。鴎ちゃんも脳の電気信号派らしい。
瞳ちゃんは、魂は確かに体の中心にあると思うと発言した。
「なるほど、では六道君と空色さんには、魂はあるものとして話を聞いてもらいます」
僕と鴎ちゃんは渋々頷いた。
「人には魂があり、エネルギーとして見えない力が放出されていると考えられます」
先生が言うには、魂としてのエネルギーは個人差があり、それぞれ大きさは違うものの一定の放出を続けているという。
そして海底ダンジョン内の敵はそれを感知することが出来て、エネルギーの大きなものを脅威として見る傾向にあるらしい。
勿論小さい者は、大きな者への揺さぶりとして狙われることもあるし、一概には言えない。
だがエネルギーの大きな者から崩そうとするのが基本なんだと言う。
「これらは私達の経験則からなる物で確実な事は言えませんが、海鳴君が狙われた理由としては十分でしょう?」
王騎君は魂が大きく狙われる。瞳ちゃんは……。
「ウチ、弱虫だと思われてるのかぁ……」
「ヒトミ、そんなことないわ。あなたにはあなたの良さがあるもの」
鴎ちゃんがすかさずフォローに回る。先生も頷いた。
「魂の大きさは、積極的か消極的か、行動派か慎重派か。色々な要素があり決まると推定されます。エネルギーが小さいからと言って、その人の能力が低いとは言えません」
多分だけど僕と鴎ちゃんは同じくらいだろうな。そう考えているとそれを読んだのか鴎ちゃんが言った。
「私の方が大きいと思うわ」
ムッとなったが争う意味もない。僕は、そうかもね、と流して話を進めた。
「昨日の件も納得が行きました」
「昨日さ、何があったの?」
鴎ちゃんがズイと体を乗り出して聞いてきた。瞳ちゃんも興味津々だ。僕と王騎君は昨日の出来事を話した。分かれ道の奮闘。あれはホントにきつかった。
「私達、ホントに何もなかったわ。そんなことがあったなんて……」
鴎ちゃんは、ごめんと僕に謝った。
「私がヒトミについて行ったのは間違いだったのかしら?」
僕は首を横に振った。
「カモメちゃんがヒトミちゃんについて行かなかったら、最悪ヒトミちゃんだけ間違った道に誘い込まれた可能性もあるよ」
あれは最適解だったと思う。僕はそう述べた。
「ウチ、一人だったら心細かったと思う。カモメちゃんが来てくれて良かったよ」
それを聞いて鴎ちゃんはホッと胸を撫で下ろした。
「この先も海底ダンジョンへ潜ります。今日すぐに奥地には行きませんが、色々な可能性を考えて、どうするべきかしばらく話し合ってみてください」
僕らはとにかく王騎君を一人にしないことを話した。分断された時は僕と王騎君、鴎ちゃんと瞳ちゃんに固まるなど、話し合った。
「僕とヒトミちゃんとかのパターンも考えた方が……」
そう言うと鴎ちゃんが、ピシッと言った。
「胸を揉むような人とヒトミを一緒にできるわけないでしょ」
先生は、胸? と訝しげな視線を送ってくる。僕は慌てて言った。
「うん! そうだね!! ごめん!!! なんでもないです先生!!!!」
そうやって僕らで話した後、先生は更に海底ダンジョンについて話してくれた。
「海底ダンジョンはまるで恒星が輝くように、底からエネルギーが放出されていると言われています」
そのエネルギーを受けてダンジョンが成り立っているという。古代人が作ったこの塔のような海底から建つ海底ダンジョンの上にあるシークルースクール。名前は後付けらしいが。
その海底ダンジョンにいるスカル達は、この場所で亡くなった人を先生達が埋葬し、ダンジョンからのエネルギーに当てることで骸骨の魔物として、力のないものを追い出す役割をしているという。
そういう話は退屈なのか、腕を枕に眠る王騎君にチョークを投げ当てる先生。
「おい、可能。チョークは投げるものじゃないぞ!」
そう言ってチョークを投げ返すと、先生に当たる前に黒板に散らばり、馬鹿という文字になった。
「このチョークも特性の物質で出来ていて、投げる者の思考を読み文字として黒板に吸い込ませます。思考が乱れてますよ? 海鳴君」
王騎君は、ふん、と言ってそっぽを向く。先生はいくつかチョークを持つと空に投げた。散らばるチョークは、たくさんの文字になり黒板に散りばめられる。
「これはこういう使い方ができます。さぁ、ノートを取らなくて平気ですか? 直ぐに消しますよ?」
僕らは慌てて黒板の文字をノートにとる。王騎君は相変わらず寝ていた。
「クリスタルハープーンも、海底ダンジョンの産物です」
先生は僕らを教室から連れ出しダンジョンの入口まで連れてきた。中に入りまっすぐ進んだ昨日とは違い横道へ進む先生。
だんだん暑くなり、コートを脱いだ鴎ちゃんは腰にコートを巻いた。白いシャツ姿で胸元が目立つ。目のやり場に困る。
瞳ちゃんもローブを脱いだ。短パンに青い色のシャツには古代文字が白く描かれていた。
瞳ちゃんは「自分で印刷した」と言っていた。なんと書いているんだろうか? 僕も学生服を脱ぎカッターシャツになる。
王騎君は暑くても寒くても変えないようだった
鉱場と呼ばれる場所につくと、鉱務員さんと呼ばれる人がハープーンを作っていた。光る壁から棒状に削り出し、特殊な道具で先を尖らせる。
「削り続けてるんですか?」
「まるで再生するかのようにエネルギーが補完されるのですよ。宝箱は見ましたね?」
先生は、あれは鍵が取られるとまた鍵が再生するようになっていると言っていた。不思議なこともあるものだ。
「古代人が何を考えこの仕組みを作ったのかはわかっていません。ですが法則を知れば対処は出来るということです」
案内を終えたあと、帰ろうとする先生に王騎君は言った。
「今日は先に進まないのか?」
それには先生が笑った。
「今日は休みましょう。それに勉学も大事ですよ。今日学んだことをしっかり復習してください」
先生は寝坊助さんは特にしっかり復習してくださいと言っていた。僕と王騎君は頭をかく。今日の一日を終え、ベッドに横になった僕はあれこれ考えながらもすんなり眠りについた。
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