40話「カジノ」

 僕らは今、船旅の中にいた。シークルースクールから飛び出して、世界中を廻る旅をしていた。世界各国の首脳さんと挨拶回り。

 あのシークルースクールを制覇した僕らはどの国でも歓迎された。それが戦争発端国であってもだ。

 それだけ知名度を得た僕らは、戦争の悲惨さを伝えて回った。だが、中々上手くいかないのは承知の上だった。

 例えば、自国の民が迫害されているとか、自国の領土が侵略されているとか、それは大義名分だが、戦争をしていい理由にはならないと思う。

 例えばすれ違った人を殺したら殺人罪になるだろう? それと同じだ。すれ違った意見で殺して回ったら、犯罪者なのだ。対話が必要で、それは意識の相違でなかなか噛み合わなかった。

 僕らは有識者に話して回った。戦争は起こしてはいけないと。だが、戦争をしてる国の人々の多くはこんなことを言う。

「奴らが仕掛けてきたんだ」

 例えば奪いに行ってる国の人でもこんな声が聞かれるんだから、世も末だ。

 正しい情報を伝えても、それはフェイクニュースだと言われる。

 理由は簡単だった。情報の得方は様々あるが、一つの古い手段しか取れない人々が一定数いたせいだ。

 また複数情報を得る人々も、どれが真実か迷う。デモを起こす人は、正義という名の鉄槌を振り下ろすもの達に取り押さえられる。

 別にデモが正しいとも間違ってるとも言わない。だが、声の届かぬ政治ほど怖いものはない。

 独裁と言えるほどでなくとも、暴走した国を止められるのは結局防衛による戦争でしかないのかもしれない。

 人は死ぬ。戦って死ぬのが本望な人もいるかもしれない。だが家族が待っているのに帰らぬ人となるのはやはり間違っている。

 僕らは少しでもそれを止めたい。だから必死に映像と共に話して回った。

 僕らが持った映像をフィクションだと言う人はとてもいた。未来の映像は、有り得ない戦争を起こしていたからだ。核爆発を超える戦争。未知の兵器。次第に壊れる世界。

 それでもこれがシークルースクールで得たものだと言うと、信じられないがもしかしたら……、そう思う人はいてくれた。

 古代人が実は未来人だったということは極秘だ。だが、有り得る未来として映像を見てくれてる人が多く嬉しかった。

 声は大きくなり、政治へと届くだろう。そう感じた僕らはシークルースクールに戻った。

 報告も上々に、さて次は何しよう? となった。

「もうシークルースクールでやれることはないんだろ?」

 王騎君の問いに、イヴさんは笑った。

「一応、君たちが行ったことない部屋はあるんだけどねぇ」

 イヴさんのニヤリと笑う顔に悪意を見た僕は訝しげに問う。

「また、無茶苦茶な部屋なんですか?」

 それを聞いてイヴさんは爆笑した。

「ある意味命懸けだねぇ」

 イヴさんがあまりにも可笑しそうに笑うもんだから、こっちは調子が狂ってしまう。

「どんな部屋なんですか?」

 鴎ちゃんがイヴさんに尋ねる。

「行けばわかるわ」

 そう言ってイヴさんは、僕に黒の鍵を渡した。

「時間に余裕のある力のある人みんなで行きなさい」

 イヴさんはそう言って笑った。

 僕らは声をかける。集まったのは、僕、王騎君、鴎ちゃん、瞳ちゃん、天、桜華ちゃん、トリジアさん、可能先生、月詠さん(夏月ちゃんは預けてきてる)、家靖スクール長、源三会長、雷亜所長。

 想像以上に集まった。皆興味津々らしい。

 一階層から行けるらしいので、スカルを蹴散らし、扉の前に皆で立つ。

 黒の鍵を差し、扉を閉めると音と共に降りていく。雷亜さんがレーダーで調べていたが、どこまで降りるのかわからない。レーダーは不明を示した。やがて、音が鳴りやみ止まった。扉を開くと、そこは……。

「こ、これ!!!」

 鴎ちゃんが声を上げた。

「うわぁぁぁあああ!」

 天と桜華ちゃんが叫び声を上げた。当然だ。その煌びやかな光景は誰もが夢を見る場所。

「カジノか!」

 黄金の部屋と言っていい。そのキラキラした部屋は入口から豪勢になっていた。入口には黄金マグロの柄が入っていた。

 ロボットが待ち構えていて、お辞儀をする。

「ようコソ、いらっしゃいマシタ」

 ロボットは機械的な手で手招きする。

「存分にお楽しみクダサイ」

 その前に換金する。専用のコインが必要らしい。

「現金と交換するのか? 持ってきてないぞ」

「一日に換金出来る分は魂のエネルギーによってカワリマス」

 つまり魂のエネルギーが大きければ大きいほど最初のコインが多いんだな。

 僕らは換金をしようとすると、ロボットに止められた。

「ゲームをスタートしますカ?」

「ああ! 当然だ!」

「了解シマシタ。魂エネルギーを変換シマス」

 王騎君の迷いない返事だったが、僕はイヴさんの台詞を思い出していた。

 ある意味命懸けだねぇ、そう言っていた。嫌な予感がする。

「ちょっとまっ……」

「計算が終わりマシタ、お受け取りクダサイ」

 僕が言い終わる前に、ロボットはコインを渡しに来る。仕方なしに受け取る。

「今更恐れるなよ、ミツル」

「そうよ、たかがゲームじゃない」

 王騎君に鴎ちゃんも賛同して言ってくる。

「ウチの、ちょっと少ないなぁ……」

 瞳ちゃんはコインの少なさに不満げ。

 それぞれがコインを受け取ると、ロボットは頭のボタンを押した。

「ゲームスタートデス」

 ガシャンと入口に鉄格子が降りた。

「なぁ、どういうことだ?」

 王騎君が尋ねる。まるで楽しんでるような口調だった。

「コレより、コノ精算機に一億コイン入れるまで脱出デキマセン」

 おいおいおいおい!!! 閉じ込められたぞ!

「食事やトイレ、休憩はどうするの?」

 月詠さんが冷静に尋ねる。

「生活に必要なものは揃っておりマス。何日いてもらっても構いマセン」

 ロボットが淡々と答えるのに楽しそうな王騎君は、最後に一つ聞いた。

「コインは脱出した後余ってたら持ち帰ってもいいのか?」

 王騎君はもう、脱出した後また来ることを前提に話している。

「構いマセン」

「よし! お前ら、最低でも二億は稼ごうぜ! 安心して他の奴らを連れてこれるようにな」

「全く。仕方のない子ね。ルゥ……いえ、オウキ君。あなた確か……」

「心配するな!」

 トリジアさんが何か言いかけて王騎君に遮られた。大丈夫か? 心配になるよ。

 今のところ一番コインを持ってるのは王騎君の、万コインが五十三枚の、五十三万だ。一番少ないのが万コイン十枚と百コインが四十枚の瞳ちゃん十万四千。

 僕はため息をついて、三十二枚の万コインを見つめた。これを増やさなきゃいけない。

 僕、ギャンブルやったことないんだけどな。

 とにかく、僕らはそれぞれの稼ぎ場へと向かうことにする。

 顔を見合せ、どこに行くか相談する。

 ロボットに尋ねながらまずどこから巡るか決めた僕らは、ルーレット、ポーカー、スロット、ブラックジャックの四手に別れた。

 天と桜華ちゃんは子供用スロットに向かい、可能先生が付き添ってくれた。スクール長と源三さんと雷亜さんがブラックジャック。トリジアさんと月詠さんと鴎ちゃんと瞳ちゃんがポーカー。僕と王騎君がルーレットだ。

 僕と王騎君は、ロボットがディーラーをするルーレットに来た。コインをルーレットチップに交換する。僕と王騎君はとりあえず十万ずつ変えた。大量のチップになる。

 僕と王騎君は悩む。僕が赤に置いた。それを見た王騎君が、じゃあと黒に置いた。

「何やってんだよ!」

 僕はキレた。おかしいだろ!? なんでだよ!!!

「スピニングアップ!」

 ディーラーロボットが玉をスローイングする。僕は慌てた。どうしたらいい?

「おい、ミツル。何を怒ってる?」

「ノーモアベット!」

 ディーラーの掛け声。あ、もうダメみたい。

 結果は黒。王騎君は喜んだ。

「馬鹿か! 君は!!!」

「何を怒ってるんだ。勝負に一回負けたくらいで」

「君と僕とで勝負してどうすんだよ! 全員の総数を上げないといけないのに!」

 そんな僕に彼はこう言う。

「お前なぁ……。脱出とかそんなのは全員が全員やれる事をやってするもんだろ。今を楽しまなきゃ何も出来んぞ」

 そりゃあそうかもしれないけどさ……。

 僕は悩む。協力せずに対戦してどうする? だがこれはルーレット。ならばと、僕は言う。

「好きなようにやっていい。でも逆賭けするなら根拠を示して」

「根拠?」

 王騎君は聞きながら少し笑っている。

「同じチップを逆賭けするとかしたら結局総数は変わらない。勿論どの賭け方するのも自由だけど、赤と黒で賭けて同じチップを賭けた今の勝負は誰も得しない。君が嬉しいだけだ」

 なるほど、と頷いた王騎君はわかったと言ってくれた。

 その後、高い数字か低い数字かなどを予想したり、六つの数字に同じチップだけ賭けたり、四つに絞ったりした。

 王騎君は大胆に一点賭けして盛大に負けたり。ていうか王騎君、ギャンブル弱いな?

 僕も強くなかった。初心者だ。僕と王騎君は、楽しめたが全然前に進まない。焦りの感覚を覚える。何より、チップが減っていくようだった。

「どうすんのこれ」

「うーむ」

 ちょっと初心者すぎるんじゃないのか。

「よし、ここは一発賭けよう」

 その一言にヒヤリと汗をかいた。何をする気だ? まさか……。

「ディーラー! 赤に今あるチップ全賭け!」

「カシコマリマシタ」

「馬鹿ーーーーー!!! 取り消せ! 早く!」

 ディーラーがスピニングアップと言って玉をスローイングする。ノーモアベットの掛け声。ああ、もうダメだ。赤こい赤こい! こいこいこいこいこいこいこいこいこい!

 玉は……、黒に止まった。ガクり。

「ハッハッハ、そう上手くいかんか」

「なにやってんだよ!!!」

「なぁに、まだチップは交換出来る。全賭けしたら……」

 僕は気づいた。この野郎……。

「オウキ君、飽きてきてるだろ」

 ギクリという音が聞こえた気がした。勘弁してくれよ……。

「他の場所に行ってみよう。皆んなの様子を見に行こうよ」

 僕らはブラックジャックコーナーに行ってみた。

 そこは地獄と化していた。

 スクール長と源三さん、雷亜さん。スクール長と雷亜さんが勝ち越して、源三さんがめちゃくちゃ負けてたらしい。

「トシゾウやるな」

 王騎君の感心に、ため息をついた雷亜さんは、源三会長に言う。

「馬鹿オヤジ。早く降りなさいよ。アタシたちの稼ぎがパァよ」

「嫌じゃ! 息子に負けるなんて屈辱じゃあ!」

「ゲンゾウさん、意外な弱点がありますなぁ」

 駄々をこねる源三会長に、スクール長は笑っている。

「俺たちも参加していいか?」

「いいわよ? 勝てるならね」

「僕は遠慮しておきます」

 さて、ブラックジャックというものの、ルールを簡単に説明しよう。

 チップを賭ける、二枚カードを配られる。要求してから貰うカードも含めて、数字の合計が二十一に近ければいいのだが、超えてしまうと負けになる。十とジャック、クイーン、キングは全て十点札。エースは、一にも十一にもなる。ディーラーより二十一に近いプレイヤーは勝ちでチップを増やすことができる。最初に、エースと十点札で役ができると二十一でぴったり賞、「ブラックジャック」となり勝ちになる。

 少し長くなったがこんな感じ、さてどうだ?

 王騎君は早速失格になっていた。欲を出して二十一を超える。源三さんもそんな感じ。

「あなたなにしに来たの」

 雷亜さんに咎められる王騎君。

「こういう頭を使ったゲームもできないといけませんよ、オウキ君」

 スクール長も厳しい。

「気持ちはわかるぞい。挑戦が大事じゃ」

 源三さんが助け舟をだすが。

「いいからもうアナタたち降りなさい」

 二人は雷亜さんに叱られた。

「ミツルちゃんが変わってもいいのよ?」

「いや、僕は……」

 僕がブラックジャックに詳しいのは、理由がある。強いという意味ではない。むしろ弱い。よく、神楽舞ちゃんに付き合わされてめちゃくちゃ負けたのだよね。

 ちなみにポーカーも……、得意ではない。

「オウキ君、ポーカーのところに行ってみない?」

 みんなの様子を見てみたい。

「そうだな。すまんな、ちょっと行ってくる」

「そこの爺さんも連れてって」

 雷亜さんが目配せしてくる。

「嫌じゃ! 負けたまんまでいられるか! もうひと勝負!」

 源三さん、外の世界ではギャンブルしない方がいいですよ。

 僕と王騎君は、トリジアさんと月詠さんと鴎ちゃんと瞳ちゃんのいる、ポーカーコーナーに向かった。

 ポーカーはそれぞれ五枚配られたカードで役を作るゲーム。交換は一回。

 役のないブタ。同じ数字二枚のワンペア。ペアが二つでツーペア。同じ数字が三枚でスリーカード。五枚の数字が並ぶストレート。数字はバラバラだが、柄が全て同じのフラッシュ。スリーカードとワンペアの組み合わせでフルハウス。同じ数字が四枚でフォーカード。柄が全て同じで数字が並んだストレートフラッシュ。最強の数字並びのストレートフラッシュが、ロイヤルストレートフラッシュ。

 見ているとこのカジノのポーカーでは、カードを最初に配った後、交換するもしくはそのままで勝負するかを判断する。顔色を見たあと、ディーラーがまず賭け金を決める。それに対しコールしたら最初のディーラーの賭け金と同じだけのチップを賭けることになる。レイズするとディーラーの二倍の賭け金を賭ける。ドロップするとその時点で負けでディーラーの賭け金の半分を払うことになる。

 レイズに対してのみディーラーはそのまま受けるか更に倍乗せするかを決めれる。

 いくらでも倍乗せし合いをできるようだが、そこまでの無茶はしてないみたいだった。

 ディーラー相手にそれぞれが勝ったか負けたか。負けた場合自分の最終賭け金をそのまま払い、勝った場合自分の最終賭け金の倍を受け取る。

「見学? ルゥ……じゃなかった、オウキ君。そしてミツル君」

 トリジアさんは順調に勝っている。

「参ったわね。こんなに簡単に勝てるなんて」

 月詠さんも勝っている。大勝ちしている。理由は何かありそうだった。

「ロボットが強すぎるわ。ロボットの表情なんて見えないじゃない。全然勝てないよ」

 鴎ちゃんは苦戦している。確かにロボットの表情はわからない。

「ウチもだよ。役は作っているのに勝てない」

 瞳ちゃんは、申し訳なさそうに俯いた。

「何か秘訣があるなら教えてあげて貰えませんか?」

 僕がそう言うと、王騎君が僕を叩いた。

「そんなこと教わったってモノに出来るとは限らんだろ」

「そういうことよ」

 トリジアさんも頷く。確かにそうかもしれない。

「ここはトリジアさんと月詠さんに任せて、天と桜華ちゃんの様子を見に行こうよ」

 鴎ちゃんと瞳ちゃんは頷いて、椅子から立った。

 僕らはスロットコーナーへ向かう。子供用スロットで遊ぶ天と桜華ちゃんの様子を見た。

「可能先生、ソラとオウカちゃんの様子を見に来たんですけど」

 可能先生に声をかけると、可能先生は笑っていた。

「ははははははははは!!!」

 なんだ? 壊れてるのか? 何がどうなのかわからないが、僕らは奥へ進む。

 そこではコインが溢れていた。埋もれそうなくらいコインだらけな部屋に驚いたのもそうだが、スロットで遊ぶ二人は楽しそうだった。

「どうやっても絵柄が揃うんだ」

「ずっとコインが出るよ」

 二人はそう言う。なんだそれ?

 僕らは別の台でやってみる。全然当たらない。

「無駄ですよ、私も試しましたから」

 可能先生が笑う。

「ソラ君とオウカちゃんだからこそ、こうなってるように見えます」

 天才。なのかはわからないが、二人が楽しそうならそれでいい……、ん?

 あれ? これもうクリアするんじゃない?

「精算機に入れてみましょうよ!」

 いくらあるかわからないが、これなら!

 僕らは床中のコインをかき集めて精算機に入れていった。やはり一億は達成していた。

 凄いもんだ。未来の若者たちに救われた気分。自分の子供に助けられるなんて、僕もまだまだだな。皆も集まり、驚いていた。

 鉄格子が上にあがり帰れるようになった。

「オカエリになられマスか?」

 案内ロボットが尋ねてくる。そうだな、もう帰……。

「待ってくれ」

 王騎君が制止した。

「まだ遊び足りない」

 何を言い出すんだ君は。遊びなんて……。

「俺たちは、このカジノというダンジョンを攻略した。だが、折角の勝負の場だろ? 俺たち同士の戦いをしようぜ」

 そんなことできるんだろうか?

「可能ですヨ、お好きなルールでお遊びクダサイ」

 それを聞いた王騎君は僕を指さしこう言った。

「俺はミツルにポーカーディーラー勝負を申し込む!」

 ポーカーディーラー勝負? なんだそれ?

 説明はこうだった。僕と王騎君がそれぞれディーラーになり、三人ずつとポーカーをする。

 僕の指名で、王騎君は鴎ちゃん月詠さん雷亜さんと勝負する。逆に僕は瞳ちゃんトリジアさん可能先生と勝負をするのだ。

 ディーラーとして僕も王騎君も持ち金を持って勝負する。王騎君と対戦する人は全力で僕を応援し王騎君を負かす。僕と対戦する人は全力で王騎君を応援し僕を負かすという仕組み。

 有利不利のないように、スタートは同じ。

僕も王騎君も百枚、他六人は十枚からスタート。先にチップの無くなった方の負け。こうして見ると、負けるの前提のように見えるが、恐らく搾り取られるのはわかっているのだろう。

 そして、罰ゲームの設定。これに可能先生が口を挟んだ。

「折角ですから二人とも女装しましょう」

 なんでだよ!!!

「それならこういうのはどうかしら? 負けたら相手の靴を舐めるの。百合の上下関係に見えて映えるわ」

 月詠さんの言葉にキレそうだ。

「勝った方がメイド服。負けた方がバニーガールで靴を舐めましょう。それでいきますか」

 いきますか、じゃないんだよ! 可能先生!

「衣装ってあるのかしら? ロボットさん」

 ないに決まってんだろ! 月詠さん!

「アリマスヨ」

 あるのかよ! そこはなくていいんだよ!

「それじゃあ決まったことですから、始めましょうか。私は見てますね」

 家靖スクール長ーーー! 見てますねじゃなくて、止めて!!!

「何やってるの、早く始めましょ?」

 雷亜さん、怒りますよ?

「ふむ。じゃあいくか、ミツル」

 なんでだよ!!!

 やれやれ、こうして僕はデス(?)ゲームをやる羽目に。王騎君の提案からめちゃくちゃになった。

 靴を舐めるのも嫌だが、バニーガールは絶対嫌だ。メイド服のがまだマシだ。

 絶対に負けるわけにはいかない。

「ミツル、最大賭け金は五枚でいいか? あと、ディーラーがドロップする場合、全員に二枚払うこと」

 最短で二回勝ち越せば潰せる。

「構わないよ。もし僕もオウキ君も全員の賭け金奪ったら、早い方が勝ちでいいよね?」

「それでいいぞ」

 ロボットが用意した二つのポーカー用の台。僕が一つの台の奥に立ち、もう一つの台の奥に王騎君が立つ。それぞれの対戦相手が並び勝負開始。

 僕はカードを配り、自分の役を見る。

 うん、変えれば良くなるかもしれない。

 交換をし、役を見て考える。ストレートが出来ていた。

「とりあえず一枚賭けるよ」

「……ドロップ」

 僕が一枚賭けると、瞳ちゃんはドロップした。どうやら役が上手く作れてないようだ。

「レイズ」

 トリジアさんがレイズ、上乗せ。僕はそのまま受ける。

「コール」

 可能先生は無難にコール、一枚で勝負。

 ちなみに王騎君は二枚で賭けていた。鴎ちゃんがドロップ、月詠さんがレイズ、雷亜さんがレイズ。

 結果を言うと、僕はトリジアさんに負けて、可能先生に勝った。瞳ちゃんからはドロップ分の一枚を受け取る。

 対して王騎君は、鴎ちゃんからドロップ分の一枚受け取ったものの、月詠さんと雷亜さんに負けて八枚ずつ取られていた。

 勝負の最中僕は全員の顔色を見ていた。

 瞳ちゃんはカードで顔を半分隠して読まれないようにしている。

 トリジアさんは目を逸らしながら少しだけ口角をあげている。

 可能先生は目が合うとニコリと笑った。

 王騎君は毎回悩んでいるようだった。

 鴎ちゃんも、うーんうーんと頭を抱えている。

 月詠さんと雷亜さんは、こちらを見るとウインクしてニヤリと笑っていた。

 その後も僕は瞳ちゃんと接戦、可能先生に勝ったり負けたりをしながら、トリジアさんに負け越した。王騎君は鴎ちゃんと接戦、月詠さんと雷亜さんに搾り取られる。

 結果は見えていた。トリジアさんがため息をつく。

「ルゥ……いえ、オウキ君。あなたギャンブル弱いの忘れてる?」

「そんなことはない! 俺はこれでも修行を積んだんだ!」

 その王騎君の言葉に雷亜さんが笑った。

「こんなことならあたしをライアと呼ぶように賭けておけばよかったわぁ」

「うるさいぞ、トシゾウ! クソ! お前らなんでそんな簡単に俺の役を上回る?」

 そう言う王騎君にトリジアさんは笑った。

「やっぱり気づいてないのね」

「マジックカードよ」

 月詠さんが言った。マジックカード……、まさか。

「イカサマか!?」

「馬鹿ね、ここのトランプは全部、裏の模様で数字や絵柄がわかるようになってるのよ」

 そういうことか。ならその仕組みさえわかっていれば、大勝することは容易だ。

 いや、容易とは言ったが、全カードの模様の差を覚えないといけないから、ある意味難しいとは言える。

「クッソーーー! じゃあなんで可能はそんなに勝ててないんだ?」

「私は気づいてもすぐに覚えるのには時間がかかりましたからね。ある程度はわかったんですが」

 そういうことか。探りつつだったんだな。これがスクール長だったら話は別だったろう。

 可能先生は天と桜華ちゃんに付いていたから、トランプの仕組みに気付くのに時間がかかったわけだ。

「さて、そろそろいいでしょう? 二人とも着替えてきてください」

 勝ったのに着替えないといけないのは屈辱だが、罰ゲームのためだ、仕方ない。

 僕は更衣室でメイド服に着替えた。鴎ちゃんにメイクなども手伝ってもらい、完全にルル(メイド服版)になった。

 用意された椅子に座っていると天が寄ってきて笑った。

「お父さん可愛いね」

 実の子供に女装見られる屈辱よ!

 やがて更衣室から王騎君、いや、キキが現れた。バニーガールだ。

「パパ凄い……」

 桜華ちゃんが見つめてる。

「では行きますわよ」

 キキが僕の靴をその手で上げる。舐める。

 なんだこれ? メイド服に女装した男にバニーガールの女装した男が靴舐める。

 なんだこれ?

「はい、じゃあ二回戦、いきましょうか」

「いかないよ!!!」

 可能先生にツッコんだ僕は、皆が笑う中、一人顔を真っ赤にして怒っていた。まったく、なんて日だ!

 メイド服とバニーガールの服はプレゼントだと言われて持って帰らされる。

 帰ろうとした時、扉が開いてイヴさんが現れた。

「楽しんでもらえましたか?」

 笑うイヴさんは続けてこう言った。

「子供たちには夢を、大人たちには大いなる試練を、そうやって人生を紡いでいく。その歯車がたとえ狂っていたとしても、歩む道は切り開く道であればいい」

「カジノで学ぶ必要はないですよ」

 僕がそう言うとイヴさんは手を叩いて笑った。

「賭け事はあまりよくないですが、頭を使ったこういう遊びは、きっと役に立ちますよ」

 それは駆け引き。相手との駆け引き。相手の心情を探り、こちらの有利になるカードを出す。

 なるほどね、と思わされた。政治だって、駆け引きだ。ポーカーのように相手の心を探りながら、ブラックジャックのようにあるラインを超えてはいけない。駆け引きに勝てば、自ずと平和は見えてくる。

「また遊びに来たい。ウチ、駆け引き学びたいよ」

 瞳ちゃんが真っ直ぐな目で言う。

「そうだね、また来ようよ」

 鴎ちゃんが、着替えた僕の手元のメイド服を見ながら言う。なんだよ、もう着ないよ。

「大丈夫だ。次は負けん!」

 もう勝負するのもやめて欲しいんだけどね。なんで勝っても負けても着替えるんだよ。

「お父さん、僕もいつか、駆け引きに勝てるかな?」

「私も駆け引きに勝てるようになりたい!」

 天と桜華ちゃんが笑顔で言う。

「大丈夫だよ。二人ならきっと、運命が味方してくれるさ」

 僕はそう言って、天の頭を撫でる。

 海上へ帰ると、太陽が登っていた。

「朝帰りか……」

 僕がそう呟くと、全員で笑ったんだ。

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