41話「ゲーム作り」

 ここは五階層研究町。僕は部屋に籠って何かしている王騎君を呼びに行った。瞳ちゃんから聞くと、ここ数日パソコンを前にずっとプログラムを組んでいるという王騎君。

 一体何を作っているんだろうか? 僕は部屋をノックした。返事はない。

 鍵がかかっていないことを確認し、扉を開く。そこには熱心に頭を悩ませながら、机でパソコンのキーボードを叩く王騎君の姿があった。

「いったいぜんたい、何をしてるのさ? オウキ君」

 彼にそう声をかけると、答えが返ってきた。

「俺のひとつの答えを出してみようと思ってな」

 それはきっと戦争をなくすための答えなんだろう。僕はなにか手伝えないか聞いた。

「そうだな、そろそろ出来上がりそうだから、トシゾウを呼んでくれ」

 僕は雷亜さんを呼びに行く。その間、瞳ちゃんがお茶を持ってきていた。鴎ちゃんも興味津々で見守っていた。

 雷亜さんを連れてくると、王騎君は最後の操作を終え、席から立ち上がった。

「トシゾウ、これを見てくれ」

「……お尻パンパンするわよ? それで、何かしら? これは……ゲーム?」

 それはパソコンで作られたドット絵のゲームだった。兵士のコマが沢山ある。マウスの矢印に兵士がついてきて、マウスをタップすると兵士が銃を撃つ。そして銃に撃たれた兵士は体力が減っていき、無くなると死ぬ。

 戦車や戦闘ヘリ、戦闘機などがあり、司令官になるとミサイルの指示なども出せる。

 王騎君の話では、自分が死ぬと一定期間操作不能になり、スタート地点に飛ばされる。兵士は今はNPCだが、オンラインで繋いだ人が操作して、ひとつの戦場にたくさんの人が操作するのだと言う。

「ふーん……。あなたがやりたいことは大体わかったわ。それで、このゲームの欠陥はわかってる?」

「ああ、リアリティの足りなさだ」

 これでも十分凄いと思うけどな、僕は。

「というか、ゲームなんて作れたんだ?」

「はっはっは! 俺は一応多才なんでな」

 その言葉は嫌味であるのに声色に嫌味らしさがなく、笑い飛ばす王騎君。

 それで、リアリティとは? と僕が思っていると、瞳ちゃんが言った。

「血は苦手な人がいるからいらないと思う」

「どうかしら? それこそ、戦争は嫌だと思ってもらうために必要なんじゃないかしら?」

 鴎ちゃんがそう言う。なるほど、このゲームは……。

「兵器の種類や世界観の大きさ。そういうのを組み込めばより良くなるんじゃないかな?」

 僕は少しだけワクワクしてきていた。もし、王騎君の作ったゲームが世界に出て、「戦争が嫌だ」と思って貰えたら……。

「お前ら何か誤解してないか?」

「え?」

 王騎君の言葉に僕ら三人は驚いた。雷亜さんだけが、何か分かってるようだった。

「誤解って? このゲームは戦争が嫌になってもらうために作ってるんだよね?」

「そんなわけないだろ」

 はぁ?! じゃあ一体、答えってなんだ?

「このゲームは戦争をさせるために作ってるんだ」

 なっ!? なんて言った? 戦争をさせるため? なんでだ!!

「またお前誤解してるぞ」

 王騎君はカラカラと笑う。瞳ちゃんは何か気づいたようにハッとした。

 僕と鴎ちゃんは混乱している。なんなんだ、勿体ぶらずに答えを教えてくれ。

「このゲームはな……、現実で戦争せずに、ゲームで戦争しろ! と世界に知らしめるために作っている戦争ゲームなんだ」

 僕はハッとした。そうか、そういうことか。

「それなら、お金の動きもリアルに出さないといけないわよねぇ?」

 雷亜さんが提案する。戦争は儲かる。その儲けを、現実にも適用されるゲームなら、戦争ゲームで戦争すれば現実世界は平和が手に入る。

「ゲーム内領地で承認欲求を満たせればいいけど……」

 鴎ちゃんが心配そうに言う。

「逆にゲームでイライラして争い起こさない?」

 僕も少し不安になる。

「その程度の争いを防ぐのは警察機関や軍しか無理だ。それでも規模の大きい世界をゲーム内に作って、リアリティとお金の両立を作れれば……、現実の戦争を止められるんじゃないかと思うんだ」

 王騎君の答えに雷亜さんは頷いた。

「より世界を巻き込むゲームにした方がいいわ。大きな財産が動けば動くほど、戦争屋は食いつく」

 ただ、ここで問題があった。

「それを誰が作るか……、だね。あとサーバーはどうするの?」

「できればFPS(一人称視点シューティングゲーム)形式で、VRにも対応してるといいわね。作るのは、可能よ。ゲームシステムとかは任せるけどね。うちの技術者を貸すわよ」

 雷亜さんが無線で連絡を入れる。

「様々なプラットフォームで出来るようにしたらいいかも」

 瞳ちゃんが言う。手軽さも必要だ。難しいと躓く人もいるだろう。

「やっぱり血が出るかどうかは設定で選べるといいと思うの」

 鴎ちゃんはセンシティブな事の心配に、より注目している。

「多くの人が戦争ゲームに参加することになる。勿論しないのも選択肢の一つだ。だが、戦争屋の興味を引く必要はある」

「莫大な金の動き。これは悪の組織の興味も湧かせるでしょうね」

「そして、兵器に回す金を無くさせるのが目的だ」

 兵器はゲームの世界へ移る世の中になればいい。そういう願いが込められている。

「サーバーはどうするの?」

「実は宛がある」

 雷亜さんの問いに即答する王騎君。だが、それは悪手だ。

「イヴさんに頼むんだろ? でもここは海の真ん中で電波が……」

「不可能だと思うか?」

 僕は黙り込んだ。もしかしたら……、可能かもしれないのだ。頼んでみる価値はあるかもしれない。

「じゃあ、早速開発しましょ」

 雷亜さんはデータを持った王騎君と僕らを連れて研究室に入った。

 事情を聞いた研究チームが全員揃ってパソコンに向かい、ゲームを作る。時に案を出し合い、戦争屋を引き込むゲームにするべく作っていく。

 まずはキャラクター。三種類から選べるようになっている。リアル重視、デフォルメ、3Dアニメ。キャラ描写はいつでも変更可能で、選んだキャラ描写を元に、乗り物や兵器などの表現も変わる。

 次にシステム。基本プレイ無料だが、課金制で換金可能。ここがミソなのだが、どの国の貨幣にも変えることが出来るようにする。そうすることで、外資産業も育てるのだ。そして、ゲームの兵器をゲーム内通貨で買う。ゲーム内で人を殺せば殺すほど、一人殺せば一コイン貰える仕組みだ。逆に死ねば一コインを失う、ただし零より下にはならない。大きな兵器を使う人はこぞって狙われるだろう。核兵器もゲーム内に存在するが、かなり高額に設定する予定。

 ちょっと長くなったな。とにかく、ゲームで戦争して金を稼ぐ。そうすれば、この星で戦争がなくなるかもしれないという試みだ。

 問題はサーバー。同時に同じサーバーに接続できるだけの強いサーバー。そして、巨大な世界のデータを維持するサーバー。

 僕らは頭を悩ましたが、地域でサーバーを分ける案を見出した。そうするしかない。だが、王騎君は最後まで一つのサーバーで全てを担う案を曲げなかった。

「世界大戦への鬱憤すら晴らせるような、そんなゲームを作りたいんだ!」

 結局、不可能は可能はならないだろうと言うことで落ち着いた。だが、王騎君は明らかに諦めてなかったように見える。

 換金可能のため、稼ぎは持てないと思うだろうか? それは間違いだ。世界中からスポンサーを集め、広告を出す代わりに金を得る。そうして大きくなりすぎたお金は様々な学童施設に寄付される。環境問題にも使われる。そうやって、世界を正していくんだ。

 さて問題のサーバーだ。イヴさんが無理なら、世界中にサーバーを設置して分けるしかない。これだけ膨大な処理を行えるサーバーなんてこの世界にはない。最低でも一度に百万人の膨大なデータ処理に耐えられなければならないのだから。

 無理だろと思っている僕は、ここまで理想を作った後にため息をつく。

 虹の鍵でイヴさんのところに行くと、彼女が出迎えてくれた。

「やっときたわね。準備は万端よ」

 僕らはキョトンとした。王騎君だけが、喜んでデータの入ったメモリを渡す。

「これで上手くいけばいいのだけど……」

 イヴさんが不安そうに言う。

「大丈夫だ!!! 絶対上手くいく!」

 王騎君の言葉にニッコリ笑ったイヴさんは、付け加えた。

「一つのサーバーで全ての人を一つの世界に入れること……、可能よ」

「!!!?」

 僕も鴎ちゃんも瞳ちゃんも、あの雷亜さんでさえも驚いていた。

「未来の技術と、このシークルースクールの巨大なエネルギーならそれが可能なの。あとは世界に宣伝してくれるかしら?」

「タイトル決めなさい、オウキちゃん」

 雷亜さんに言われ、王騎君は悩んだ末こう名付けた。

「ワールドワイドウォーってどうだ?」

「悪くないわね」

 イヴさんはニッコリ微笑むと、すぐに作業に取り掛かった。そういえば奥の部屋を見たことがない。

「あの、作業見てたらダメですか?」

 僕は思い切って聞いてみた。

「……ふふふ、いいわ。散らかってるけどいいかしら」

 僕らは頷いて、奥に案内された。

 そこは未来の科学技術で出来ていて、何一つ理論がわからない。

「本来ならこの機械達も寿命を迎えるはずだったの」

 イヴさんが説明してくれる。ならこのロボットや機械はどうして動いているんだろう?

「これらの機械が動いてるのは、このシークルーという施設が魂エネルギーに満ちているため。そのエネルギーは不思議な現象を引き起こす」

 イヴさんと僕らは大きな機械の部屋に着いた。

「壊さないでと言う必要もないわ。ここの機械たちは壊れない」

 王騎君がそれを聞いて振りかぶる。おい! やめろよ! そう言おうとしたが時遅し、ハープーンが機械に当たる。だがビクともせずに稼働している。

「ここの機械は、あなたたちが戦ってきた六階層より下の巨大生物たちと同じ。ただ、あの子たちは私が作った仕組みの生き物だから、イレギュラーの存在である虎太郎君の血には負ける。ここの機械は虎太郎君の血でも壊れないと思うわ。でも念の為試さないでくれるかしら?」

 王騎君もみすみすチャンスを逃すほど馬鹿じゃない。大人しく従っていた。

「もしかして、トリジアさんの魂を容れた巨大な人魚姫やトリジアさんの人間の体も……?」

 僕が疑問を呈したこの発言に反応したのは王騎君だった。

「まさか……」

「その通りです。そのことに関しては私のエゴです。ごめんなさい」

 イヴさんの謝罪に王騎君は拳を強く握っている。

「どの道俺とトリジアは死んでいた。俺だけが転生していたかもしれないのを、トリジアの魂も救ってくれてありがとう」

 王騎君は、きっと複雑な思いだったに違いない。それでもトリジアさんとまた会えたことを感謝したんだ。その思いはイヴさんに届いたようで、微笑んでくれていた。

「トリジアさんは今日は来てないのね?」

「オウキ君がヒトミに取られたから、恋人作るって張り切ってます」

 鴎ちゃんが瞳ちゃんの方を見る。

「ウチのせいみたいに言わないでほしいな」

 瞳ちゃんは頬を膨らませる。そして笑った。

「虎太郎はソラとオウカちゃんが見てくれてるしね」

 僕がそう言うと、そういえばとイヴさんが言った。

「虎太郎君は私が創ったモノではないのだけど、やはり不思議なことってあるものね」

 これには僕らは驚いた。ここまでの話から虎太郎もイヴさんが創った生き物だと思っていたからだ。

「恐らくシークルーが独自に生み出したモノよ。ここはまるで生き物の運命のように特殊だから。きっとアダム、いえオウキ君、あなたを導くために生み出されたのね」

 さて、そろそろ作業が終わる頃かと思う。イヴさんは機械のキーボードを打ち終わり、サーバーを組み終えた。

「ここから発せられる電波を外に出している無数のドローンに中継して飛ばしていくわ。それで世界と繋がるはず」

 これで、王騎君のひとつの答えが出る。これで戦争がなくなるかはわからない。もしかすると何十年も不具合や調整に追われるだけで徒労に終わるかもしれない。バグや不正利用で金を稼ぐだけの輩も出るかもしれない。

 でも、ひとつの答えなのだ。可能性を否定してはいけない。戦争屋がゲームの中で戦争してくれたら……、戦争がなくなるかもしれない。

 僕らは様子を見た。僕らも通信可能にして貰えたのでネットを見る。すぐさまニュースになってるようだ。

 そして、噂を聞き付けた戦争屋がゲームをしている。その様子を僕らはゲーム内で知った。ゲーム内の地図からゲーム内の戦争が広がってるのを知る。

 すぐに交換レートが低いことの指摘が多く寄せられた。だがあまり交換レートを上げすぎると、逆に経済の破綻につながりかねない。

 僕らはゲームの楽しさで人を離れさせないように努めた。王騎君も必死で考えていた。

 僕らは海上に戻り、零番甲板で海を見ていた。

「揺らぐ波のように、上手くいかないものだな」

 落ち込む王騎君に瞳ちゃんがそっと手を添えた。

「絶対なんてこの世にない」

 瞳ちゃんの言葉に鴎ちゃんも同意した。

「だからこそ生きていく価値があるわ」

 僕は海を眺め呟いた。

「僕はどこかで、世界を救えると思っていたのかもしれない」

「それはきっと誰もの願いよ」

 僕の答えに鴎ちゃんが言う。

「世界は人で溢れ、それぞれの想いがあるから自分の思うようにいかない。でもきっと、皆良い方向へと向かいたいと思っているはずだから……。叶えられるはず!」

 鴎ちゃんの言葉に僕らは頷いた。そうだ、まだ始まったばかり。世界を救う旅のような、僕らは勇者にでもなったのだろうか? 決して驕らずに、それでもその道を進むと決めた。だから落ち込んでばかりなんていられない。

 日が落ち、暗くなってきたので今日は六十四番甲板の旅館に泊まる。天と桜華ちゃんたちも旅館で疲れを癒してる。虎太郎が駆け寄ってきた。

「あ! おかえりなさい!」

 天が虎太郎を捕まえて撫でながら迎えてくれる。

「もー! 虎太郎もソラもすぐ走り出す! おかえりなさい、パパたち」

 桜華ちゃんも出迎えてくれた。家族たち揃って食事にする。はぁー! 癒される! そりゃそうだろ? 家族団欒の時が中々ないんだから。

 ここ最近ずっと籠ってたし仕方ないけどね。でもやっぱり、甘いかもしれないけど、こういう時間が一番大切だと思う。だからこそ……。

「今が大事で、未来に希望を見出したいからこそ……、僕らは抗うんだろうね」

 僕の台詞に、王騎君は笑った。

「俺たちにできることはまだまだあるはずだ。死ぬまで抗おうぜ」

 僕たちが世界にできること。それを考えていきたいと願いながら、ゲーム大作戦は幕を降ろした。といっても運営自体はイヴさんが引き継いでいるんだけどね。なんか任せっきりにしてしまって申し訳ないような気持ちになりつつ、僕は金マグロを口に運んだ。

「うん、美味い!」

 世界が平和になる日は来るだろうか?

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