始まりの章、エピローグ
私は彼らにさようならとは言わない。きっとまた会える。彼らが奥底で死に絶える未来も有り得るだろう。そればかりはわからない。だが、彼らならきっと乗り越え、またここに帰ってくる。そう感じている。私に出来ることは、彼らがいつ帰ってきてもいいように誇れる教員であること。また新しい生徒がやってくる。その子らをビシビシ鍛えながら、六道君、海鳴君、空色さん、赤居さんが帰ってくるのを待つ。勿論、月見が帰ってくるのも楽しみに待とう。
彼らの物語は、これからも続くだろうが、それを語り継ぐのは彼らが帰ってきて土産話に花を咲かせてからだ。想像で語るには、私が行ったことのない場所だから難しい。彼らから聞く話を楽しみに待ちながらシークルースクールの上部で風に当たっている。
一体どのような冒険を繰り広げるのだろうか? きっとさらなる苦難が待ち受けているだろう。絶対大丈夫なんて言えないのがここ、シークルースクールの海底ダンジョンだ。迷うこともあるかもしれない。何があるか分からない。
私は彼らにさようならを言いたくない。もう会えないなんて、考えたくない。だからこそ無事でいて欲しい。帰りを待ち焦がれるこの気持ちは恋ではないが愛かもしれない。共に研鑽した日々を思い出しながら、毎日待っている。
時折、薬を取りに五階層まで降りた時扉を見つめる。今扉が開いて彼らが帰ってくるのではないだろうかと。何度見つめても開かれない扉は、私にはその先へ進む資格がない。教員免許を返上して、研究員資格を取ってもいいかもしれない。だが私はそれを選ばない。私が教えた子らが成長して、奥底へ降りていくのはとても嬉しいことだからだ。教師冥利に尽きる。だからこそ彼らの成長は嬉しかったのだ。そして、いつか彼らの夢の先にこのシークルースクールの謎が解き明かされる日が来たら、きっとそれは素晴らしいことだ。
彼らが旅立って一年は経った。今日は五階層で薬を取りに来る日。ふと、音が聞こえた。扉の方からだ。まさか! 私は扉の前に立つ。扉がゆっくり開かれた。中から現れたのは紛れもない彼らだった。私は涙を拭った。彼らは一段と逞しくなって帰ってきた。海鳴君は、相変わらずの調子で、私に語りかけた。
「久しぶりだな、可能」
彼らは研究員になったのだから、ここへ戻ってきたのも一時の休息だろう。それでも、私はこう言った。
「よく戻りましたね。おかえりなさい」
彼らは笑って言った。
「ただいま!」
彼らから語り継がれる物語はまたどこかで語れたらいい。
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