第28話「僕らの冒険は終わらない」

 シークルースクールに来てから三年の月日が流れた。僕らは十八歳になった。鴎ちゃんと正式に籍を入れる。夫婦別姓で婚姻届を出した。

 今日は僕と鴎ちゃんの結婚式。五十番甲板のホールで、盛大に行われた。

 鴎ちゃんがウエディングドレスを着て、僕と歩いている。鴎ちゃんのおじいさんとおばあさんは涙を拭きながらその様子を見ていた。

 指輪交換をして、誓いのキスをする。

 披露宴は盛大に盛りあがった。可能先生がスピーチをする。僕らは先生にお酒をつぎ、色んな人に挨拶して回った。

 シークルースクール内での結婚は滅多にないらしいが、今回僕らの家族や親戚や友人は船に乗ってやってきてくれた。

 僕らの結婚を誰もが祝ってくれた。きっと天国の神楽舞ちゃんも、鴎ちゃんの両親も祝ってくれているはずだ。

 結婚披露宴を終え、片付けを手伝っていると僕の父さんと母さんがやってきた。

「立派になったな、ミツル」

 父さんが言う。結婚披露宴では無口だったくせに。

 母さんは、僕の頭を撫でて言った。

「あなたはもう大切な人を作らないんじゃないかと心配してたの。でも違ったわね。こんなに綺麗な人と一緒になるなんて」

 鴎ちゃんが前に出て言う。

「お義父様、お義母様。私、絶対ミツル君を幸せにしますから」

 幸せにする、それは僕の気持ちでもある。鴎ちゃんを絶対に幸せにする。不幸になんてさせない。

 僕らは着替えて皆を旅館に案内した。そこで鴎ちゃんのおじいさんおばあさんと、僕の両親に説明する。

 手紙で研究員免許を取ったことは僕らは書いた。だがそれがどういうことを意味するのかは書いていない。この先暫く手紙も書けないかもしれないということを僕らは話した。

 勿論上に帰ってきた時手紙を書くつもりではある。でも先生の話では一年潜り続ける例もあると言う。これからは今まで以上に連絡を取れなくなる。心配をかけるかもしれないが、絶対に生きて帰ってくるからと強く言った。

 鴎ちゃんのおじいさんは、それを辞めることはできないのかと言ってきた。

「僕は挑戦したい。ここの謎を解き明かしたいんです」

「私はミツル君についていきたいの。危険かもしれない。だからこそ傍にいたい」

 僕の両親は僕の決定を尊重してくれた。鴎ちゃんのおじいさんは渋っていたが、おばあさんに説得され了承してくれた。

 旅館には王騎君の両親らしき人と、瞳ちゃんの両親らしき人がいた。何やら揉めている。

「うるさいな。放っておいてくれ」

 王騎君はどうやら両親に責められているようだった。僕と鴎ちゃんも会話に混ざる。

「どうしたの?」

「親父とお袋が、俺たちも結婚しろとうるさいんだ」

 王騎君は勘弁してくれと言わんばかりに呆れた。

「ウチはオウキ君の意思を尊重したいから別にいいのに」

 どうやら、二人の関係を知ったご両親がそれならば研究員として行く前に結婚式を挙げてくれと頼んでいるらしい。

「そういう関係ではないんだよ、俺たちは」

「でも好きなんでしょう?」

 王騎君のお母さんはここぞとばかりに攻める。

「愛しているならたとえ子を産んでもらえなくても結婚すべきだ」

 王騎君のお父さんがそう言うと、王騎君は頭をかいた。

「愛していないとは言わないが、俺たちには俺たちなりのやり方があるだろ」

 これには瞳ちゃんのご両親が言いよってきた。

「君がそれで良くても私達はよくないんだ。ヒトミのためを想っているなら結婚を……」

 その言葉に瞳ちゃんが言う。

「もう! ウチらはウチらで考えてるんだから、勝手に割り込まないで!」

 そう言うと僕と王騎君と鴎ちゃんを連れて逃げ出した。僕は笑いながら言った。

「オウキ君も人の子だったんだなぁ」

「なんの子だと思ってたんだ?」

 ふふふと笑った鴎ちゃんは聞く。

「でも意外ね。オウキ君はヒトミを特別扱いしてないんだと思ってたわ」

 変わったんだよ、と王騎君は言う。それでも結婚はしないと言う。僕はそれならば、と提案した。

「お互いが好きなことの証に何かペアルックをつけたら?」

 王騎君はふっと笑った。そして右手を僕に見せた。瞳ちゃんも右手を見せてくる。二人の右手の中指には指輪が輝いていた。

 鴎ちゃんは呆れた。

「私は指輪には気づいていたわよ?」

 ちぇっ、どうせ僕はちゃんと見れてないですよ。

 僕らは旅館から出て風に当たった。家族は皆僕らの心配をしてくれてる。だが僕らの決めた道は、僕らが歩む道なのだ。

 だからこの選択に後悔はしない。そして絶対に生きることを諦めない。このシークルースクールの全ての謎を解き明かし、最奥まで辿りついた時、きっと僕らの冒険が終わるだろう。その冒険の終わりが来るまで、僕らは歩みを止めないのだ。

 次の日、家族や親戚を船に乗せ見送った後、僕は先生に尋ねた。

「六階層には何色の鍵で行くんですか?」

 先生は頷いて説明してくれた。

「六階層へは青の鍵、七階層へは黄色の鍵、八階層へは白の鍵、九階層へは赤の鍵、十階層へは金の鍵で向かえるそうです。その先もその順の鍵の使い方で下りれるだろうと推測されます」

 これは月詠さんに聞いた機密事項ですけどね、と僕に耳打ちしてくれた。そして全ての鍵のスペアを全員分鍵束に付けて渡してくれた。

「絶対に無くさないようにしてくださいね。勿論六階層以下でも手に入れられるそうですが、きちんと管理できないようでは、この先に行く資格なんてありませんから」

 僕らは先生に礼を言った。

 そしていよいよ旅立ちの日がやってきた。徳河スクール長と可能先生が五階層まで見送りに来る。

 先生は感極まって泣いていた。

「まさかまたここで見送ることになるとは……、皆さん本当に素晴らしい実力の持ち主です。誇りを持って挑戦してきてください」

 徳河スクール長は僕達全員に握手をして、背中を押してくれた。

 僕らは青の鍵でこの先へ向かう扉を開く。

「いってらっしゃい」

 徳河スクール長と可能先生が言う。

「いってきます」

 僕らの冒険譚はこれからも続く。この先の話は、またいつか誰かに語り継げたらいいなと思う。

 この底の見えないシークルースクールを攻略する日が来たら、皆に伝えよう。普通の人では体験できないようなこの場所の謎と不思議を僕らは解き明かす。

「行くぞ! おまえら!」

 王騎君の台詞に、おー! と片手を天に掲げ、扉を閉めた。

 またいつか上へ戻ってくるまで。

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