おまけエピソード

おまけエピソードその一「満と鴎の喧嘩」

 ある日のこと。僕らが海底ダンジョンから帰った時の事だ。鴎ちゃんが顔面蒼白になって、慌てて戻ろうとしたのだ。先生が制止させて話を聞く。

「ヘアピンが……! ヘアピンがないんです!」

 見れば確かにいつもつけているヘアピンがない。あれは僕が最初の誕生日でプレゼントしたもの。鴎ちゃんは、戻って探すと言ったが先生が首を横に振る。

「諦めてください。恐らく探す余裕は流石にありません。今日は三階層に行きましたね? あそこは広い。どこで落としたかわからないのに、敵と戦いつつ探すのは不可能です」

 鴎ちゃんは涙目になった。僕は励ます。

「また買うよ」

 だがその言葉に怪訝な顔をした鴎ちゃんは、怒りのままに叫んだ。

「そういう問題じゃないのよ!!!」

 あまりの剣幕に、僕はびっくりして返した。

「じゃ、じゃあどういう問題なんだよ!」

「知らない!」

 鴎ちゃんは怒りのまま宿舎へと帰っていった。ええ? 何? 何なの?

「やっちゃったな、ミツル」

「な、なんで? 僕が悪いの?」

「いや、お前は悪くないよ」

「ミツル君は悪くないけど、ウチはカモメちゃんの気持ちがちょっとだけわかるかな」

「とりあえず今は帰りましょう。明日も海底ダンジョンに潜りますし」

 部屋に戻っても鴎ちゃんが怒った理由がわからない。明日謝ろう。そう思った。

 次の日、教室についてからも鴎ちゃんは無言だった。挨拶だけは返してくれたが空気が重い。先生が授業をし、海底ダンジョンに潜る時間がくる。

「今日は二階層で特訓ですね」

 その言葉に鴎ちゃんが咄嗟に反応した。

「先生! 今日も三階層に行かせてください!」

「……ですが、昨日大蛇を倒しましたので大蛇はいません」

「探したいんです……」

 先生は困った顔をした。僕はそこまで拘らなくてもいいじゃないかと思った。あれは物だ。また買えばいい。だが、鴎ちゃんの意思は固いようで先生が折れた。

「私は今日忙しいのでついていけません。あなた達があなた達の安全を自分で守りながら探すなら行っても構いませんよ」

「俺はそれでいいぞ」

「ウチも」

「わかった。いいよ、僕も」

 こうして三階層に降りることになる。勿論一階層で落とした可能性もある。スカルの相手をしながら探すがそれらしき物はない。三階層まで降りた時、僕は尋ねた。

「なんでそこまで拘るの?」

「……わからないならいい」

 その言葉に僕はムッとした。

「言ってくれなきゃわからないよ!」

 思わず怒鳴ってしまった。そこで鴎ちゃんのスイッチが入った。

「普通わかるわ!」

「なんだよ! 僕は普通じゃないって言うのか?」

「……もういい!」

 僕らは、巨大虫たちと戦いながら必死にヘアピンを探した。だが、大蛇が出る最奥まで行っても見つからなかった。

 諦めきれず、とにかく探そうとする鴎ちゃんに王騎君が言った。

「今日は帰るぞ」

 それは危険だから。鴎ちゃんもそれはわかってる。明らかに落胆し、トボトボ歩く。

「カモメちゃん、また買ってあげるから諦めよう?」

「……」

 僕にはなんでそこまで意固地になるのかわからない。おおよその予想はつく。だが、そんなもの……。

 ここで僕は叫んだ。

「カモメちゃん!!!」

「何よ……」

「何してる! カモメ!!」

「え?」

 鴎ちゃんは目の前に現れた巨大カマキリに気づかなかった。大きな鎌が振り下ろされる。僕は咄嗟に鴎ちゃんを庇った。背中を斬り付けられる。痛い。

 海底ダンジョンでは一つの油断が命取り。集中を欠けば例え雑魚相手でも死へ直結する。

「っ! ご、ごめんなさい!」

「話はあとだ、やるぞ!」

 王騎君が前に出て巨大カマキリを倒し、瞳ちゃんが僕の傷を診る。いつも念の為持っている救急セットで処置してもらった。

「……ごめんなさい」

「バカヤロウ! もし君が死んだらどうするんだ!」

 僕は本気で怒っていた。もう好きな人を死なせたくない。それが僕の意志だった。

「思い出は生きていればまた作れるんだ! それなのに!」

「その通りだわ……。ごめんなさい。私の我儘でミツル君に怪我させてしまった……」

 怪我で済んだからよかった。もしどちらかが死んでいたら絶対に後悔するだろう。僕らは海上に戻り念の為僕は医務室へ行き治療を受ける。

 宿舎に戻る前に鴎ちゃんを抱きしめた。

「怒鳴ってごめんね」

 鴎ちゃんは首を横に振り涙を流した。

「私こそごめんなさい。明日、ショッピングモールに行きたい。いいかな?」

 僕は頷いた。

 次の日、二人で五十番甲板のショッピングモールに行き、アクセサリーショップで前と同じカモメのヘアピンを買った。

「もし、また失くしてしまったら、また買いにこよう」

 僕のセリフに鴎ちゃんは頷く。仲直りして手を繋いでデートを楽しんだ。

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