第17話「満の過去と、鴎の想い」
眠ると僕は昔の夢を見た。あの子の夢だ。神楽舞(かぐらまい)ちゃん。小さい頃から病院に通っていた。幼なじみで、いつも血の咳をしていた。僕を心配させまいと笑っている様子に僕は心から笑って欲しくて色んなことをした。時には手品なんかもした。拍手する彼女は笑っていたが、心からの笑顔だっただろうか?
最期に笑った笑顔は苦しそうだった。僕はベッドから飛び起きた。
「ハァハァ……、くそっ!」
過去は過去、わかっている。あの子は救えなかった、わかってる。僕が何でも出来るわけじゃない、わかってるさ!
もう二度とあんな思いはしたくない。ただそれだけだ。
一月二日朝。
私は満君のことを考えていた。瞳には満君のこと好きなの? と聞かれた。正直わからない。でも好きかもしれない。
王騎君は魅力的であるが、それとは違ういい所が満君にはたくさんある。だが異性として好きかと言われれば、まだ分からない点が多い。
付き合ってみればわかるかもしれない。そう思った私は満君を呼び出した。零番甲板。天気のいい今日は心地よい風が吹く。
満君は何の用か聞いた。私は声が裏返る。
「あ、あのね? えっと、その……」
「もしかして、告白?」
満君は笑って言う。どうやら冗談で言ってるらしい。
満君の不躾な質問に慌てた私は、
「ち、違うわよ!」
と、つい否定してしまった。満君、そういうとこは治した方がいいと思うわ。私は悩んでしまった。否定した以上告白しづらい。
私の言葉を待つ彼は、ただ私のことを見つめていた。そして私は言った。
「色んなことがあったよね」
改めて私達は振り返る。あれもあったこれもあったと話すうちに、ふと満君が言った。
「僕はカモメちゃんが好きかも」
「かも?」
私は聞き返した。
「看病されたときは嬉しかったし、ゴーレムのところでカモメちゃんがピンチになった時は焦った」
私はきっと顔が真っ赤になっている。
「僕はカモメちゃんとなら、素敵な関係になれると思う。でもね」
満君は真剣な口調で言った。
「恋人になってしまったら失った時が怖い」
いつかここで死ぬかもしれない。それは私も同じだった。だが彼から聞いたのはそれだけじゃなかった。幼い頃大切な、好きな人を亡くしたこと。そして誰かをまた愛して失うことが怖いこと。それを聞いた私はいてもたってもいられなくて叫んでいた。
「私はミツル君が好き!」
私は抱きついた。
「例えどちらが死んでも後悔なきよう付き合いたい! この気持ちは変わらないと思う」
満君は驚いた。
「さっき違うっていったじゃん」
「それはそれ、これはこれ」
そして私は返答を待った。満君は真剣な目で私の目を見つめ、一度目を閉じて考えた。そしてゆっくり目を開いてから、言った。
「僕もカモメちゃんと付き合いたい。やれるだけの事をやって一生大事にできるような関係になりたい」
私達は笑いあった。そして恋人になった。
その夜、瞳と女子浴場であった私は話をした。瞳は私たちのことを祝福してくれた。私は王騎くんと瞳のことを尋ねた。
「ウチは王騎君のこと好きだよ。でも王騎君は一人を特別扱いしないって」
でも瞳はそれで納得いっているようだった。幸せの形は人それぞれ。それでいいんだと思えた。
一月三日に私と満君は二人でデートをした。瞳は瞳で王騎君を誘ってみてオッケーを貰ったらしい。満君と二人きりで歩いていると、ちょっとドキドキする自分がいて笑えた。
二人でオシャレなカフェに入る。六十甲板の名物カフェらしくメニューも可愛い。運ばれてきたドリンクとスイーツは美味しそうだけじゃなくて、見た目も可愛らしい。
イチゴの形のマカロンとクリームソーダを頼んだ私は、満君の注文したものをマジマジと見つめた。
カモメの形をしたケーキ、スカイブルー色のジュース。満君は言う。
「カモメちゃんを食べてるみたい」
馬鹿みたいだと思ったけど、照れる私。ほんと……、馬鹿じゃないの?
「馬鹿じゃないの?」
あ、口に出して言っちゃった。満君は笑顔になって言った。
「こういう馬鹿みたいな毎日を暮らしていきたいよ」
その言葉に更に照れる私。頬が赤くなるのがわかる。熱い。
「次の店行ってみようか」
私はファッションショップで満君に似合いそうな服を持ってくる。満君は満君で私に似合いそうな服を持ってくる。
お互いがお互い持ってきた服を着て、似合うか言い合って楽しんだ。買い物袋は半分こ、男に荷物を持たせるという精神が私にはなかった。
お互いの荷物を部屋に置いて再び零番甲板で待ち合わせする。手を繋いで夕日を見ていた。
「綺麗だね」
満君がそう言うのに笑って私は言った。
「私の方が綺麗じゃない?」
「ははは、それ自分で言うの?」
気付けば顔が近い。少しずつ顔を近づけてくる満君。私は目を瞑った。唇と唇が重なり合う。唇を離した彼は言った。
「なんか、変な感じだ。カモメちゃんとこういう関係になるなんて」
「嫌?」
彼は首を振り言った。
「カモメちゃん、好きだ!!」
もう一度、今度は熱いキスをする。誰もいない零番甲板でキスを繰り返すうちに、私は体から火照っていた。やばい、満君が好き。
私は彼をギュッと抱きしめた。抱きしめ返された温もりに幸せを感じる。彼の心が冷えないようにいつまでも温めてあげる。私はそう決心した。
手を繋いで女子宿舎まで来たあと、男子宿舎に帰る満君を見送って部屋に戻った。私はベッドに寝転んだ。
「あ〜〜〜!! 彼氏ができたーーー!」
恥ずかしさで死にそうだ。私は中学時代あまり男子を相手にしなかった。言い寄ってくる相手はいくらでもいた。でも好きになれるような男なんていなかった。
そんな私に彼氏が出来た。でもこれからだ。これからどれだけ彼を大切に出来るか。
彼は大切な人を昔亡くしている。その穴も埋めてあげたい。私色に染めてしまいたい。そんなことを考えていた。
そういえば瞳は大丈夫だったろうか? 王騎君はなかなか手強そうだ。
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