第18話「瞳の想い」

 一月三日、休み最後の日。鴎ちゃんは満君とデートしてるそうだ。ウチも王騎君とデートしてる。恋人ではない、ただの仲間。それでもいい、ウチは満足してる。

 王騎君は色んな話をしてくれた。色んなところに連れて行ってくれた。

 どうやら休みの日にいつも色んな甲板に行っているらしく、全ての甲板の事を知り尽くしているらしい。店にも立ち寄るらしく、あの店は何が売っていて面白いとか、あの店のメニューは意外性があって美味しいとか、色々教えてくれた。

 駆け足で飛び回ったのでちょっと疲れた。でも楽しいし、それ以上に嬉しかった。王騎君と色んなことを共有出来るのが嬉しいの。

 ウチの事を気遣って少し休憩しようかと王騎君が言った時には十一時間が経っていた。朝七時からずっと駆け回ったのだ。喋りながらだったし仕方ない。百一つある甲板全てを周り最後に百番甲板に来ていた。ここには動力室がある。王騎君は中に入ってく。ウチもついて行った。

「よし、出来てるな」

 王騎君はタッチパネルの前で何か触っていたと思ったら、ウチの手を引き、前に立たせた。

 タッチパネルは暗号でロックされていた。もしかして……。

「影狼が作った暗号を再現してもらった。もちろん前より難解にしてもらってある。お前の腕を見せてくれ」

 ウチは、暗号を解いていく。以前解いたものの応用なので、操作は慣れていたしすぐに解けた。それを見ていた王騎君は言った。

「流石だな、ヒトミ。お前にはお前の才能がある。投擲もしかりだ」

 逆に自分には何があるんだろうかと悩む彼にウチは言った。

「オウキ君は凄いよ、ウチよりももっともっと才能に溢れてる。きっとどんな困難でもあなたなら乗り越えられる」

 すると首を横に振り、彼は笑った。

「俺は才能豊かな優秀な奴には敵わない。きっとどこかで壁にぶち当たり、そして死ぬ」

 死。それを聞いてウチは震えた。そんなことない、そんなことない!

 涙目のウチの頭を撫でる王騎君は話す。

「俺は前世で皆に助けられたから海賊王になれた。今回もそうだ、三人に助けられて乗り越えてきた。俺は一人では結局何も出来ない」

 それでも、と彼は目を細め言った。

「俺は立ち向かわなければならない宿命にあるんだろう。そんな予感がするんだ」

 このシークルースクールにいれば必ず乗り越えなければならない試練がやってくる。それを言っているんだろうかと、ウチは抱きついて言った。

「大丈夫。ウチも一緒に立ち向かう」

 そんなウチを右手で抱き左手で頭を撫でる王騎君。ウチは彼の胸に頭を埋めた。王騎君はウチから離れ、タッチパネルにパスワードを入れ、何かを操作した。

「行くぞ! ヒトミ!」

 外を見ると夕闇の中に花火があがっていた。明日からまた授業やダンジョンの冒険が待っている。ウチは王騎君の手をギュッと握り誓った。

「ウチ絶対オウキ君を死なせない! そして、あなたの初めてのお嫁さんになってみせる!」

 王騎君は笑っていた。ウチは本気だよ。絶対絶対叶えてみせるから。

 女子宿舎に戻って準備を整えた後、女子浴場へと向かった。脱衣所で鴎ちゃんに会う。鴎ちゃんはウチに上手くいったかを尋ねた。

 ウチはグッドサインをして、鴎ちゃんは? と尋ねた。顔を赤くしている彼女も上手くいったらしい。ウチは体をよく洗い、湯槽に浸かった。

 鴎ちゃんは髪が長く洗うのが長い。ウチはそこまで長くないので簡単に済ませるので鴎ちゃんより早く洗い終わるのだ。

 ウチはあまり長風呂するタイプではない。なので鴎ちゃんが洗い終わる頃には上がろうと思っていた。すると唐突に鴎ちゃんが抱きついてきた。

 「ヒトミー! どうしたらいいと思う? 私とミツル君、どうやって付き合っていったらいいんだろ?」

 そんなのウチに聞かれても。大体、今日は上手くいったんじゃないのかな?

「今日はね? 今日は大丈夫だったわ。でも私、誰かと付き合うの初めてだから……。この先どうしたらいいかわかんなくなっちゃった」

 ウチは思案して言った。

「いつも通りでいいんじゃない?」

 その言葉に鴎ちゃんは驚く。

「ほんとに? いつも通りでいいの?」

 ウチは頷いた。変に意識しなくていい。いつも通りでいいんだと思う。そうやっていつも通りを重ねて、特別な日を増やせばいい。ウチはそう答えた。

 そっか、と頷いた鴎ちゃんは、うんうんと首を縦に振り礼を言う。ウチはウチの意見を言っただけだよ。これが正解というわけでもない。

 皆それぞれの付き合い方がある。だからみんな違ってみんないい。存分に悩めばいいのだ。ウチはのぼせそうだったので風呂から上がった。そして宿舎に戻る。戻るまでに夜風の涼しさを味わい、宿舎に入って部屋に入るとハリネズミ柄のベッドに転がってハリネズミの枕を抱いた。

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