第26話「鴎ちゃんの家族」
今日は来客がやってくる日だそうだ。その訪問客に鴎ちゃんが驚いた。
「お、おじいちゃん!?」
どうやら鴎ちゃんの祖父が尋ねてきたらしい。
「こら、カモメちゃん。私のことはジィジと呼びなさいと言っているだろ?」
鴎ちゃんは慌てふためいた。
「なんで来てるの?!」
鴎ちゃんのおじいさんは、ふふふと笑って鴎ちゃんに抱きついた。
「お前に会いに来たんだよー! ジィジ張り切ってきたんだから、もっと歓迎しておくれ」
というか鴎ちゃんのおじいさん、顔がかなりの強面だ。瞳ちゃんが耳打ちする。
「とある組の組長やってる人だよ」
本職の方じゃないか。この表現で伝わるかわからないが、僕は震え上がった。もしかして……、ご両親も?
瞳ちゃんは首を横に振る。
おじいさんの息子である鴎ちゃんのお父さんは組を継がなかったそう。その時勘当したそうだが、事故で両親が亡くなって鴎ちゃんの親権者として、おじいさんが名乗りを上げたそうだ。
そりゃ心開けないわ。でもおじいさんの方は溺愛してるらしく、鴎ちゃんにべったりくっついていた。
「おじいちゃん! ちょっと離れてよ!!」
「そうですよ、離れなさい、あなた」
おじいさんの後ろから着物を着こなしたおばあさんが現れた。もしや……。
「おばあちゃんまで!?」
「これはこれは。お着きになられましたか、長旅大変だったでしょう。空色さんと積もる話もあるでしょうからカフェに案内します」
先生が後から現れてそう言った。僕は思い切って尋ねた。
「あの! 僕らも同席していいでしょうか?」
するとおじいさんが僕の方を向き言った。
「なんじゃ、この小僧は?」
鴎ちゃんはあたふたした。
「いや、あの、彼は……」
「僕らは同じ班の仲間です。カモメちゃんの小さい頃のこと色々聞きたいです」
僕は面と向かってハッキリと喋った。出来るだけ好印象に映るように。だが、それは無駄だったようだ。
「カモメちゃんや、男は選びなさい。こんな頼りなさそうな男ではお前を守れはしない」
失礼な話だ。だが僕は歯を食いしばって耐えた。
「見なさい、言い返せもしない。こんなひょろひょろな男を仲間と呼んでいては……」
「おい、爺さん。それはちょっと、」
王騎君が噛み付こうとした時だった。鴎ちゃんが手で制した。そしておじいさんを離し、言った。
「ミツル君はひょろひょろでも頼りない男でもないわ。ミツル君には何度も何度も助けられてきた。言い返さないんじゃない、優しいから耐えてるだけ。その大切な人をそんな言い方するならおじいちゃんと絶縁する!」
その強い言葉に、おじいさんはびっくりして震えた。
「す、すまん! 謝るから許しておくれ!」
「私にじゃなくてミツル君に謝って!」
おじいさんは慌てて僕の方に向き直り僕に謝った。僕は大丈夫ですと言ってお辞儀で返した。
先生がまぁまぁと間に入り、その場を収める。
鴎ちゃんはおじいさんとおばあさんに、僕らを紹介したいと言った。
カフェに着いてから、鴎ちゃんはおじいさんとおばあさんが来た経緯を聞く。どうやら送り出したのはいいものの、心配になって様子を見に来たという。
死者も出るというシークルースクール。仮に海底ダンジョンで死んだ場合、骨の一部を親族に送り、埋葬は海底ダンジョンでされる。そんなシステムだからこそ心配になるのもわかる。
鴎ちゃんの顔を見れて安心した二人は、カフェの席で鴎ちゃんから近況を聞いていた。ここでは電話ができない。だから手紙を書くしかない。その手紙も忙しい中送れてなかったのだ。まぁ僕も人の事言えず、親から手紙が来たくらいだからな。
おじいさんとおばあさんは、鴎ちゃんから話を聞き改めて僕らに礼を言った。
「先程は大変失礼しました。孫娘がよくお世話になってるそうで、ワシからも礼を言わせて欲しい」
「全くおじいさんは困った人だわ。皆さんありがとうね」
僕らは、いえいえそんな、こちらこそと頭を下げた。特におじいさん鴎ちゃんの話す内容の中から僕のことが気に入ったらしく、おじいさんは僕の肩を叩いて言った。
「さっきひょろひょろとか言ってすまなかったな。中々骨のある男だとわかったよ。どうだ? お前さんが良ければ、カモメちゃんの恋人に……」
その台詞に鴎ちゃんが顔を赤くする。僕も赤面しているのがわかった。おばあさんが笑う。どうやらおばあさんは気づいたらしい。
「カモメちゃんは優しい子でな。周りの皆の事を気遣って、他人のために努力できる子なんじゃ」
鴎ちゃんは照れつつ、私の話はもういいからと言った。どうやらおじいさんとおばあさんは一泊二日のつもりで来たらしい。
旅館に泊まるということで、鴎ちゃんも今日は女子宿舎ではなく旅館に一緒に泊まることにする。
おじいさんはよく喋っていた。鴎ちゃんの幼い頃の話、中学の頃の話。そして、おじいさんとおばあさんには笑顔を見せてくれなかった話。
おじいさんとおばあさんはいつも周りのみんなから聞いていた彼女の笑顔を想像していたという。
「そんなに笑わなかったかな。私」
きっと鴎ちゃんは、また失うのではないかと恐れていたんじゃないかと思う。心を開いて失ったら、悲しみが襲ってくる。それは赤の他人とはまた別のものだ。勿論友達も失いたくはない。だが、いずれ離れていくと割り切れば、そこまで深く考える必要はないのだ。
でも祖父母の二人は別だ。だから笑えなかったのかもしれない。
「でも今は、わたし達にも笑顔を見せてくれるわ」
おばあさんが笑顔で嬉しそうに言う。おじいさんは涙をハンカチで拭いて言った。
「ジィジ嬉しい」
二人と存分に話した鴎ちゃんは二人を連れて旅館に向かう。
僕は王騎君と瞳ちゃんに尋ねた。
「もしさ、僕がカモメちゃんの婿になったら、組を継がされると思う?」
ハハハと笑った王騎君は、僕の肩をポンポンと叩き言った。
「未来の組長だな」
勘弁してくれ。瞳ちゃんもクスクス笑っていた。
次の日、僕らはおじいさんとおばあさんを見送りに来た。おじいさんとおばあさんは、笑顔で船に乗って帰っていく。
帰り際におばあさんが鴎ちゃんにちゃんと手紙を書くように言った後、おじいさんに聞こえないように鴎ちゃんに言っていた。
「彼氏はちゃんと掴んで離さないようにね」
鴎ちゃんは、もう! と言いながらも笑っていた。船が出発し、外部障壁が張られる。僕はトビザメの処理をしながら言った。
「良いおじいさんとおばあさんだね」
鴎ちゃんは頷いた。目は潤んでいた。
「カモメちゃん……」
「本当は避けていたの。ここに来たのもそう。優秀だったから来たわけじゃない。この遠い海の真ん中で、誰からも忘れられて過ごしたいって思ってた時があるの」
でも変わったと鴎ちゃんは言った。それは僕らという大切な仲間ができて、気持ちが変化したのだと思うと言う。
僕は嬉しかった。心の変化のきっかけが僕らで、それもいい方向に向かったことがとても嬉しかった。
いつか胸を張って、鴎ちゃんの祖父母の二人に挨拶に向かえたらいいなと思う。
というか、結婚すること前提みたいに考えてしまったが、鴎ちゃんの気持ちを大切に末永く幸せにしてあげられたらいいなと思ったんだ。
僕らの日常は普通とは違う。これからも自分達を磨き上げて積み上げて、高みを目指していくのだ。
僕らには僕らのストーリーがある。それはきっと誰でも同じ。誰もが体験できないような、そんな物語をこれからも紡いでいけたらいいなと思った。
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