終わりの章2章
34話「トリジアとの邂逅」
そうして一年が経ち、僕達は海上へ帰ってきた。可能先生に報告しつつ、話をする。その話とは、十階層の下、十一階層であったこと。
体験するために進んでみることにした僕らは、月詠さんと雷亜さんに連れられ、そこまできた。
そこから先に進むためには、潜らなければならなかった。海底ダンジョンのエネルギーで、まるで空気があるかのように息のできる海の中を泳いで潜るのだ。
その先に十二階層がある……はずだ。十二階層への扉は砂に埋もれているのかわからないが、広大な空間から探さなくてはならないらしい。そして、十二階層の扉を見つけたものは未だいないらしいのだ。僕らは扉を探す。
その時、月詠さんにも雷亜さんにも予想不可能なことが起きる。
「やっと来てくれた」
海とはいえ喋ることの出来る中で、声が聞こえた。それは大きな人魚だった。下半身が鱗と尾びれでできていて、胸は貝殻で隠している。
「何?!」
全員が驚く。
「ルゥ。久しぶりね」
王騎君は口をあんぐりあけて、呆けている。
「まさか……、トリジアか?」
「王騎君?」
僕は、まさかと思った。
「この姿に転生して、何百年も待ったわ」
長かったと、彼女はそう言った。瞳ちゃんは、胸に握りこぶしを当て心配そうに見ている。
王騎君はトリジアさんの事を血の繋がっていない姉だと説明した。前世の……、最期に共に死んだ人。彼女も王騎君との子供が出来なくて、悩んでいたという。
「まだ、駄目よ。あなたにはまだたどり着けない。戻りなさい」
そう言うとトリジアさんは、トン、と人差し指で王騎君の頭を突いた。
「この先へ行くのならば、それ相応の力を付けて」
魂の力が見える、この先に行くには魂の力が足りない、そう言うとトリジアさんは深く深く潜っていった。
「帰りましょう」
月詠さんが言う。僕らは頷いた。王騎君は複雑な心境のようだった。それから戻り、報告をした後、研究町から海上へと戻ったのだ。
雷亜さんは海上へ行かなかったが、月詠さんは付いてきた。積もる話も終え、皆で零番甲板で風に当たる。
「まるで皆あなたを待っているようですね、海鳴君」
可能先生が言う。
「俺たちはまた潜る。その時何があっても……」
王騎君は、瞳ちゃんを悲しませない選択をしたいと言ったのだ。瞳ちゃんの手を握っていた。
「ありがとう。ウチは、嬉しい」
可能先生は、僕らに言う。
「これからどんな試練が待っていても、その選択が最善とは限らないかもしれない。それでも決して諦めないでください」
その言葉に月詠さんも頷いて同意した。
「大丈夫、私が付いてる」
「彼らのことは任せましたよ、ツクヨさん」
可能先生は月詠さんを抱きしめ言った。
「マサヒロ君、恥ずかしいわ」
月詠さんは照れて、笑っていた。
十一階層は息のできる海の中、砂に埋もれた扉を探すのだ。だが、途方もない作業の上、どこにあるのか分からない先のない作業。だから、誰もその先へたどり着いた者がいなかった。
扉自体が床にあるというのは他にどこにもなかったからだ。
床が動いてる可能性もある。探しても探しても一縷の砂を掴むように見つからない。
だが、トリジアさんが現れて変わった。彼女は魂の大きさが見えるのだという。
僕らは一度戻ってから考えた。魂を大きくするにはどうしたらいいのだろうか?
それは答えに出た。意識の差だと。強い意志の元に強い魂が宿るのではないかと。
実際筋肉を鍛えただけでは意志の強さはまだまだだ。途方もない過程の中で、常に魂も鍛えるのだ。だからこそ、やるべきことはわかっていた。
「考えよう。今一度、何をして、何を成して挑むのかを」
何日も悩んだ末、出た答え。それは王騎君が示してくれた。
「俺が呼ばれている気がするんだ。ならば、俺の過去を皆に知っていてもらうべきだろう」
王騎君は話す。それはトリジアさんとの思い出。瞳ちゃんの手をギュッと握った王騎君は真っ直ぐ見て話す。
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