始まりの章4章

第24話「スクール長の思惑」

 今日は早朝からスクール長に呼び出された。一体何の用か、嫌な汗が吹きでる。

 スクール長は私が担当した海鳴君達の班にとても興味を示している。毎度報告するように言われているため報連相は怠っていないが、基本的に教員に生徒のことを任せてるのに海鳴君たちに関しては細かい報告まで求めている。

 彼らに一体何があるというのか。そういえば海鳴君は海賊王の前世の記憶があるという。それが真実か虚言かはわからないが、そのことが関係しているのかもしれない。

「失礼します」

「どうぞ、待っていましたよ可能先生」

 スクール長室に入ると立派な宝石が飾られてる。それらは今まで生徒達から買い上げた物だ。ゴーレムの部屋をクリアした者が寄付してきたもので、売れ残ったものを保存しているのだという。

 スクール長は佇まいを正して、私を部屋に迎え入れた。

 早速私は何の用で呼ばれたのか聞いた。だが、スクール長は話をはぐらかした。

「海鳴君達が来てもう一年経ちますね。あなたの指導のおかげもあって、順調に成長しているようで、安心しました」

「彼ら自身の実力ですよ。それより世間話をしにきたのではないのですが……」

 まぁまぁ、と焦らす私を落ち着かせる。

「彼らももう立派なシークルースクールメンバーです。今年度は生徒が入ってきませんでした。海鳴君達は功績から考えて百年に一度の才能を持っているのは事実でしょう。そこで私からお祝いをしたいと思いましてね」

 お祝い? スクール長が? 私は怪訝な顔をして尋ねた。

「一体何を……」

「明日の午後の授業の前に彼らを五階層に連れてきてください。待っていますよ」

そう言うと赤の鍵を私に渡した。

「五階層に……? でもあそこは」

「何をするかは着いてからです」

 そこで話が終わった。これ以上聞いても何もわからないだろう。私はわかりましたと頷いて部屋を後にした。スクール長が何をする気か知らないが、何もなく祝うだけであればそれでいい。

 五階層には冒険要素が何もない。障害となるものが何もないのだ。あるのは六階層にいくための扉、そして宝箱の部屋のみ。宝箱も今必要なものではない。

 私はスペアの赤の鍵を見つめ考える。五階層は教員が研究員となる人を見送る場所でもある。

 月見と最初に道を分けた場所だ。

 心配しても仕方がない。私は気持ちを切り替え、教室に向かった。五階層の話をすると、案の定海鳴君が食いついた。

「とうとう次の試練か?!」

「ああ、いえ、その……」

「皆まで言うな。冒険はいつだって何があるかわからないから楽しいんだ」

 これでは言うのも憚られる。あそこには特別な冒険要素はないというのに。

 私は苦笑いして、話を進めた。

「今日明日の訓練は中止です。明日午後に海底ダンジョンに向かい五階層まで潜ります」

「そんなに大変なんですか?」

「念の為ですよ」

 スクール長がなにか仕掛けるつもりなら、万全で挑んだ方がいい。私は今日はゆっくり体を休めるようにいった。とはいえ、筋トレなどのトレーニングは続けるようにいう。

「食事もしっかり摂るように」

 そうして授業を始める。今日の授業は、今まで一年間の復習。そしていずれなるであろう研究員のための予習。皆さんきちんと授業を受けてくださり、私にとって誇らしくもあった。

 そうやって、食事を摂った後の午後も訓練ではなく授業を行う。そのあと八十六番甲板のマッサージ店へと皆で向かった。

「皆さん日々トレーニングする中で自身のケアも怠ってないと思いますが、ここでプロのマッサージを受けて体をほぐしてもらいます」

 海鳴君達はマッサージ台にうつ伏せになり施術師さんにマッサージしてもらう。

「あー! いい! そこいい!」

 皆さん絶賛されていた。何かいやらしい雰囲気になりそうな場面ではあるが、決してそういうことはない。健常なマッサージ店だ。ツボを押したり凝ってるところをほぐしてくれたりする。

血流がよくなり疲労回復にはもってこいだ。赤居さんは気持ちいいのか眠ってしまっているくらいだった。六道君は足つぼで痛がっていた。空色さんは優雅にツボを押されている。

 そして皆さんのマッサージが終わった後、店を出ようとした。

「先生はやっていかないんですか?」

 六道君が言う。

「私は今日はいいですよ」

「ダメ。先生もやっていって」

 赤居さんが引っ張ってきた。やれやれ、仕方ない。私はマッサージ台にうつ伏せになった。施術師さんと皆に囲まれている。

 なんだか恥ずかしい。海鳴君が施術師さんにツボを聞いていた。そして押してくる。

「そう、そうです。いいですよ、上手いですね、君」

 施術師さんが海鳴君に言う。僕も私もウチもと、四人は施術師さんにツボを聞いて私のマッサージを始めた。

「先生は日頃疲れてるでしょうからね。僕らがマッサージしてあげますよ」

 全く、私が皆さんのために連れてきたのに、私が世話になっている。嬉しい限りだ。

 マッサージを終え今度こそ店を出た私たちは、夕飯を食べることにする。食堂へ向かってもいいのだが、どうせならと寿司屋に行く。五十番甲板まで来た私たちは、高級寿司店に入る。

「この前の宝石の分がありますからね。ここは私が奢りますよ」

 ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドは寄付してくれると言ってくれたので、その分のお礼でもある。

 正直空色さんは手に入れた宝石を欲しいとねだるかと思っていたのだが、案外素直に渡してくれた。この程度ではダメだと鑑定して思ったのかもしれない。希少価値の高い宝石はいくらでもある。

 その中でも中級クラスの宝石だった。やはり超希少な宝石でないとお眼鏡には適わないのかもしれない。彼女の財産から考えても仕方のないことだ。

 寿司屋で皆さんマグロやアオリイカやブリやいくらなどを頼んでいく。アカガイ、アワビ、いわし、サーモン、クルマエビ、くえ、カンパチ、かわはぎ、カレイ、かに、あなご、うなぎ。

 めちゃくちゃにマナーも考えずバクバク食べる海鳴君と六道君。赤居さんは大トロを頼んだ。

「他人のお金で食べる大トロは美味しい」

 それを聞いた海鳴君と六道君は、俺も僕もと注文していく。唯一空色さんだけは慣れているのか、丁寧な食べ方でタイ、アカガイ、マグロ、イクラ、ウニ、玉子、イカ、海老、大トロ、コハダ、あなご、かっぱ巻きの順に頼んで食べていた。

「ふぅー、おなかいっぱい。ご馳走様でした」

 六道君がそう言う。海鳴君はまだ食べていたが、他の皆が食べ終えたのを見て食べるのをやめた。

「明日への備えは万全だな」

 海鳴君はそう言うが、私は何も起こらないことを願った。あの場所で何も起きるはずがない。スクール長がお祝いパーティでも開いて、あの場所にある宝の説明をするのだろうか。

 何にせよ無事明日が終わればそれでいい。いつも通りの日常であることを祈ろう。

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