第8話「捜査協力」

 次の日は休日だったが僕は教室に向かってみた。案の定というか、皆教室にいた。先生は僕の到着に笑った。

「六道君もですか」

 僕も笑って返した。何もしないのも落ち着かないと。

「それならば、今起きてる事件の解決に手を貸してくれませんか?」

 事件? と僕は首を傾げた。何やら物騒な響きだ。

「ほう、面白そうじゃないか。俺たちは探偵か何かか?」

「潜入捜査というか、囮捜査ですかね? とにかく、今困った事が起きてるので手を貸して欲しいんです」

 今日明日は休みだ。これと言ってやることもない。先生が言うには休みの日でなければいけないらしい。それならばと、探偵団を結成する。

「別に探偵ごっこをするわけじゃないですけどね」

 先生は僕らの意気込みに苦笑した。

 それは生徒間で起きていることらしい。先生の話では男女のトラブルだという。ある男子生徒に、他のグループの女生徒が怪我させられているのだと。

 だが証拠がなく厳重注意で保留にされているらしい。どうにか証拠を掴み、その生徒に罪を償わせたいのだが、なかなか証拠を掴めない。そこで囮捜査をする生徒を募っているという。

「じゃあ僕らが潜入するなら、カモメちゃんとヒトミちゃんが惹き付けて、僕ら男子が証拠を掴む感じですね」

「いいえ。海鳴君と六道君には女の子になってもらいます」

 は? と僕は怪訝な顔をした。ほほうと腕を組む王騎君。いやいや何でだよ。

「実はその男子生徒のいるグループ、男ばっかりなんです」

 そのため疑われることなく接触するためには女ばかりでないといけないという。

「いやいや、男いてもいいじゃん。女の子二人でいいじゃん」

 僕は慌てて手をブンブン振った。先生は笑った。

「そうですかね?」

「いやダメだ」

 王騎君は、机から体を乗り出し言った。

「仮にだぞ? 犯行を犯してる犯人が、カモメに惚れたとする。それでトラブルになったら証拠を掴めるかもしれない。だが、四対二だと、他の誰かも惚れるかもしれない。そうなったら、取り合いで引っ込むかもしれない。元も子もなくなるぞ?」

 た、確かにそうだ。なら四対四の方がいいかもしれない。

「じゃ、じゃあ、この話はここまでだね。他のグループに任せよう。女生徒ばかりのグループもあるんでしょ?」

「可能。服を買いに行くぞ」

 立ち上がり教室を出ていく王騎君に、ははは、と笑った先生は、お金は出しますと言った。いやいや、待て待て。僕の話を聞け。

「諦めて、ミツル君。私たちが、飛びっきりの衣装とウィッグとか選んであげる」

 鴎ちゃんが笑う。瞳ちゃんはこの機会に、自分の服も買ってもらおうと呟いていた。

 教室を出た僕らは五十番甲板に向かう。五十番甲板は審議会の会議室があるところだ。一番大きな甲板で、ショッピングモールのような場所もある。審議会をぐるりと囲んで円形に色んな商店がある感じだ。ファッションショップで僕らは女性用の服が売られてる場所に着いた。

 流れのままにここまで来たが、僕はまだ納得がいってない。なんで女装する流れになってるんだ。

「大体喋ったらアウトじゃないですか。やめましょう、無駄ですよこんなの」

 僕は言った。すると、誰かわからない声が聞こえた。

「ルル、いい加減諦めなさい。ワタクシ達は立派なレディーとなるのですよ」

 いや、誰だよ。どうやら王騎君の喉から出た声らしいが、完全に女の子の声だった。

「冒険に不要な特技すぎるよ……、オウキ君」

 呆れた僕に、王騎君はプンスカ怒って女声で言った。

「ルル、ワタクシの事はキキと呼びなさい。いいですわね?」

 いや、誰だよほんとに。どうやら僕がルルで、オウキ君がキキらしい。

「これ一日やると、次の日喉枯れて声が出なくなるけどな」

 どうやら本気らしい。とはいえそれじゃあ僕はどうしたらいい?

「ミツル君は喋らないでいるしかないわね」

 鴎ちゃんが言う。ちぇっ、逃げ場はなしか。もういいよ。やってやんよ。

 僕らは服を選ぶ。僕は黒のワンピースを選んだ。これには鴎ちゃんと瞳ちゃんが呆れた。

「男ってどうして黒ばかり選ぶのかしら?」

「俺をミツルと一緒にするなよ?」

 そう言って持ってきた王騎君の服はトップスは明るい赤色のブラウス、黒のフィッシュテールスカートを履いて、麦わら帽子を被っていた。

「うん、なかなかいいわね」

 王騎君のファッションはなかなかよかったらしい。僕がダメな点を教えて欲しい。

「私に任せて」

 鴎ちゃんは、白のドレスシャツにピンクのカーディガンを合わせて、グリーンのプリーツスカートを僕に持ってきた。

「着てみて」

 先生は手で口を抑えて笑っている。ちくしょう! 他人事だと思って! 先生が持ってきた案件なのに! 黒のバケットハットまであとから持ってきて、ノリノリじゃないか。

「可愛いと思うわ」

 瞳ちゃんも、頷く。

 鴎ちゃんは、白いベアトップに黄色のフレアスカート。

 瞳ちゃんは、青いチュニックに白のスキニーパンツを買ってもらった。

 次は美容に行き、ストレートパーマを当ててもらう王騎君と僕。鴎ちゃんと、瞳ちゃんもカットしてもらうなどしていた。

 王騎君の金色のくせ毛だった髪がサラサラになり風になびく。僕の黒の髪は別にどうでもいい。茶髪の鴎ちゃんと紫色の髪の瞳ちゃんは、艶が違うような気がした。

 その後ウィッグ専門店に行き、僕と王騎君に合うウィッグを選ぶ。

 王騎君はロングストレート。僕はツインテールにする。ここで先生が堪えきれず爆笑した。

「怒りますよ!! 先生!!!」

「すいません、似合いすぎてて。ふふふっ、はははははははははは!」

 小物やネイル等買い物していく。もう悲しくなってきた。

「何が楽しくて女装なんてするんだよ……」

「あら、それは違いますわよ」

 また出た。もういいよ。喉枯れるんだろう?

「ルルはいつもオシャレに気をつけていないからわからないんでしょうけど、レディーのファッションには、たくさんの魅力がありますのよ」

 そうかもしれない。そうかもしれないけど、僕がする意味はないだろ。

「ルルは、この機会にオシャレとは何か? それを追求すべきだと思いますわ」

「そうかな?」

「何事も気持ちからですわ。勝負と思って挑まねば負けますわよ」

 僕は無言になって歩いた。鴎ちゃんが少し心配そうに言った。

「ごめんね、ミツル君。嫌なら……」

「ううん、わかったよ。やろう。化粧とかも教えて欲しい」

 決行は明日。とにかくやれるだけの事をやろう。

 次の日、先生の紹介で、という名目で合コンが行われた。先に合流して待ち合わせ場所に着いた僕らは、既に待っていた四人の男子と邂逅した。

「お待たせしましたわ。今日はよろしくお願いしますわね。ワタクシ、リーダーのキキと申します」

「私はカモメ。よろしくね」

「ウチはヒトミです」

「……」

 鴎ちゃん、よろしく頼むよ。

「この子はルル! ちょっと男子と喋るの苦手で……」

「ウチも苦手な方だから、お願いします」

 瞳ちゃんは明らかに大人しめなので、同じ感じなんだという印象を与えられる。

 とにかく、男子たちも挨拶してきた。

 僕は犯人である男子を見つめた。あいつが何かしてきたら隠れている先生が証拠写真を撮る算段だ。何故そこまでしなければ行けないか。それは場所の指定があって、店が決まっていたためだ。いつもここらしい。監視カメラの位置は犯人は把握していて暴行に及ぶ時必ず死角にいる。

 二人きりになった時迫るそうなので注意が必要だ。店は八十四番甲板にある。外周に近く、それも監視の目が届きづらい理由だ。

 そもそも外周近くは外部障壁が解除された時危険な場所になりやすいのであまり立地条件としては良くない。そのため穴場であり、人も少ないのだ。

 店の中に入りみんな席に着き、注文を決めていく。

「えっと、ルルどうする?」

 最後に僕の番が来た。僕はメニューを見たあと、予め用意していたスケッチブックに筆談した。海老とレモンのセビーチェとヴィシソワーズを書いて、顔というか口元を隠しそっと見せる。

 犯人が見てくる。なんだ? なんか文句あるのか? こっちはもう限界なんだ。勘弁してくれ。

 化粧しているとはいえ、まじまじ見られたらバレてしまうかもしれない。

 あまり話しかけらないようにしていたつもりだったが、「ルルちゃんはどうなの?」などと聞かれるため、とにかく筆談で対応した。ううう……、何でこんなことしてるんだろう。

 話題は好きなものの話になる。鴎ちゃんは音楽が好きらしい。色々な歌手やグループの曲名を出して共感を誘う。僕の好きな歌もあった。なんかいいな。

 瞳ちゃんは映画が好きらしい。男子達もあの映画は見たよ等、色々言っていた。鴎ちゃんは恋愛映画の名をあげるが、瞳ちゃんは特にホラーが好きらしい。王騎君……、キキも話に参加しまくる。

「ワタクシ、ホラーも好きですが冒険物が好きですの」

 特に海賊物は好きらしい。男子達はわかるわかると相槌を打つ。そして男子達は僕に聞いてきた。

「ルルちゃんはどういったものが好きなの?」

 僕はスケッチブックにアニメと書いた。何のアニメ見た? と聞かれ、僕はつい好きなロボット物のアニメを書いてしまった。

 鴎ちゃんと瞳ちゃんの間に挟まれていたんだが、鴎ちゃんが「馬鹿」と誰にも聞こえないような小声で言う。いいじゃないか、ロボット好きな女子もいるだろ。

「へぇー、ルルちゃんロボット好きなのか。じゃあコイツと合うかもね」

 僕は見た。少し太めの丸眼鏡を掛けた男の子が照れながら頭をかいている。そしてそいつは僕に様々な質問を繰り返してきた。どうやらホントにターゲットにされてしまったらしい。この子、犯人じゃないのに。

 やってしまったようだ。とにかく不審がられないように、会話をスケッチブックに書いて伝える。席を変えて僕の前に来てまで話す男の子には、ちょっとウザイかなと思ってしまった。申し訳ないけどね。

 キキは他三人と陽気に話している。よくあの声がもつな。鴎ちゃんはなんとか僕のフォローをしようとしたが、話がコア過ぎてついてこれない。瞳ちゃんはお花を摘みに行った。

 太っちょ眼鏡、いつまで話すんだ? そう思うくらい語っている。何とか話について行くが、これでは意味がない。僕は、あの……、と書いて聞いた。

 皆さんの中でリーダーは誰なんですか? と。それはまだ聞いてなかった。すると、犯人が手を挙げた。

「俺が一応リーダーやってるよ」

 じゃあやっぱり海底ダンジョンで引き付けられたりするのだろうか?

「まぁそうだねー。それはキキちゃんもそうだろ?」

「そうですわね。でもなんとかなるものですわよね」

「君たちは大蛇の部屋までクリアしたかい?」

 キキに犯人が尋ねる。

「大蛇? いいえ、どこのことですの?」

「やっぱり、引き返し組なんだね? 俺たちは大分掛かったけど倒すとこまでいったからさー」

 キキはなかなか上手いな。女性グループでは、あれはクリアするのは難しいだろう。わざととぼけて見せたのだ。

 犯人は長々と武勇伝を語る。自分が突進に上手く対応し立ち回ることで倒したと。他の男子は自分達も頑張ってやったと言う。どうすれば対処できるか、自慢げに話す男四人。

 ご機嫌取りには上手くいったようだ。その後もゆっくり話しながら楽しんだ。そして今日はお開きになった。

 店から出た後ある人物に後ろから話しかけられた。僕は……、来たか!! 僕に来たか!!! と思い振り返った。

「ル、ルルちゃん、実は二人きりで話したいんだけど……」

 それは眼鏡の太っちょだった。いやいやいやいや! お前かーーーい! ほかの三人は前にいて帰ろうとしている。僕は仕方なく皆と別れた後、その男と二人で一つ奥の八十九番甲板に移動した。

 話ってなんですか? とスケッチブックに書いて返答を待った。

「あのね、その……、僕ね。ルルちゃんすごく可愛いと思うんだ。それに話も合うし。だから、だからね! 僕と付き合って欲しい」

 彼は僕の肩を強く掴んで迫ってきた。

「キスしていい?」

 んーー、と唇を近づけてくる。一応言っておく。僕はずっと首を横に振っている。お構い無しか? こいつが犯人なんじゃない?

 僕は両手で押しのけ拒絶の意を示した。

「お願いだ! お願いだよぉ! 僕と、僕とお付き合いしてください! 好きなんだ! 大好きだ!」

 いい加減しつこい。僕は走って逃げた。

「あ、待って! 待ってよ!」

 男は泣いていた。情けない。そんなんで女性がおっけーするわけないだろ。

「待て」

 唐突に、犯人のリーダーが前にいた。僕は止まり怪訝な顔をした。

「アイツと付き合ってくれないか? 頼む! あれでも良い奴なんだ」

 僕は首を横に振る。すると、犯人は苦笑した。

「そうか、なら……」

 死んじまえ、と僕を甲板から落とした。

「俺の仲間を傷つける奴には容赦しない」

 そう言ったのが聞こえた。僕は落ちていく。まずい。ロープを体から探す。ない! なんでだ。まさか、どこかでスられていたのか? このまま落ちるとホントに怪我をする。

 と、そこで王騎君がロープ移動で飛んできた。僕の手をガシッと掴み助けてくれた。

「王騎君! 助かった」

「ワタクシの事はキキと呼びなさい! ルル」

 まだその設定続けるのな。とにかくロープで上に登る。上では先生が犯人と太っちょを捕らえていた。

「こいつは悪くない。こいつは悪くないんだ! 俺がやった! 俺の意思だ」

 犯人の台詞に、太っちょは泣いていた。先生はとにかく犯人を現行犯逮捕した。後で聞いた話によると、仲間が誰かとトラブルを起こすのが多かったそうだ。

 それを咎めることをせずに、相手を怪我させてしまっていたようだ。余罪も認め、計画的な面もありその男子グループは連帯責任で全員追放となった。

 その次の日、教室にて朝のホームルーム前に僕は王騎君に尋ねた。

「よく間に合ったね、あの時」

「……ぁ、……ぇ、……ぉぁ、……ひゅ」

 え? なんて? と思ったところで、ああ声が出ないのかと気づいた。ほんとに掠れ声で、もう爆笑してしまった。

 帰りに鴎ちゃんがある写真を渡してきた。そこには、鴎ちゃんと瞳ちゃん、キキとルルが写っていた。

 いや、いらないよ、こんな写真。いくら記念って言ったってね。でもとりあえず、部屋に持って帰って飾ってみる。うん、僕なかなか可愛いな。

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