第五章 第二節 鬼の本性 ※
暗黒戦士に変わるまでの間は無防備となるため王子が懸命に二人を防御する。闇の渦を作りながら甲冑を身に
――くぅぅふぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
――ぐぅぅふぅぅぅぉぉぉぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
まるで呼吸のような声で二人は「
「王子、これが暗黒戦士となった代償よ」
血だらけの口元の手をふくミラ。服も血だらけだ。
「おいらは人食いだからな」
王子の振るえが止まらない。砂漠にうずくまり悲鳴を上げる。
「しっかりしろよ! こういう光景を無くすためにおいらはがんばってるんだろ! 仕方ないじゃないかよ! こうでもしないと今度はおいら達が食われるんだぞ!」
「王子、ごめんね。これが鬼の本性なの」
「ずっとおいらはタウスとケンに見られないように我慢してたんだぜ」
「それにこうでもしないとおいら、さっき出会った魔族同様発狂してしまうんだよ」
その台詞を聞きごめん、ごめんと泣き崩れる王子。二人はなりたくて暗黒戦士になったのではない。人の血肉を求める魔導石を体内に埋め込まれているのだ。わかってはいるけれど。
鬼たちは着替えた服を着て崩れた街で宿を借り一夜を明かす。二人は食事などいらなかった。すでに満腹だったのだから。しかし、王子も食事に手をつけることはなかった。タウスとケンがいたらなんて言うのだろう……。王子は離れて初めて二人の存在の重さを知った。そしてあのとき二人の信頼を裏切った自分を悔やんだ。王子はベッドで泣き崩れた。そして鬼の本当の怖さを身をもって知った。
一方ミラはいつもの夢を見ていた。中規模程度の町の襲撃は警戒されないようにいつも子鬼が最前線配置されるのだ。人間や獣族の子らが学校に行く姿が望遠鏡から見える。いいなと思いながら偵察を続ける。今夜、この村を襲うのだ。
(なぜ、僕らは何でこんな酷いことをするの? 僕らも学校という場に行きたい――!)
惨劇は闇夜に起きた。ミラらは血だらけの鎧を身に
「もうこれで痛みは感じないはずだ。せめてお前はこの村から出て助かれ」
周りを見渡すと鬼達は兜の中で泣きながら人や獣族を襲っていた。中には身も心も闇に染まった欲望に突き動かされるだけの鬼達もいた。その時マスクを外した鬼がいた。素顔は背丈は高いもののまだ十歳の男の子が体内に埋め込まれた魔導石を抉り取る――!
「モラ君、やめてー!」
鬼の体内に埋め込まれた魔導石を自分で無理やり
その光景を見た人の子はミラにこう言ったのだ。
「ありがとう。でもいいよ。この傷じゃ僕はもう長くないよ。だからここで貴方に食われたい。鬼さん、僕をせめて楽に殺して。それに鬼だってこの戦は苦しいんでしょ?」
その子から流れ出たのは涙――!
「わかった。ありが……とう。すぐ……終わるよ。待っててね……」
ミラは泣く泣く言うと子の首を風の刃で落として、絶命させた。生前の望みどおりその子をゆっくりと食べた。刈った命に敬意を払うべく己のものとする。すると己の体から樹がしなるような音が響く。人を食するごとに体内の魔導石が先端部分が根のごとき形となりながら大きくなる。魔導石の力が増幅し鬼としてさらに強くなったのだ。己の牙と爪と角と背丈がわずかに伸びていく。眼球を食べ視力が増強され、脳を食らったことで知能が高まった。人間を己の一部にする能力は魔族同様、鬼族も持っている。死体は臓器で散乱する。
「こんな事してまで強くなって何になるのよ!」
「姉さま。もうこんな殺戮は嫌だよ、人間のように静かに文化のある生活したいよ」
「死体だけでなく生者も捕えて天界に引き上げよ。食肉工場へ運ぶ」
暗黒の鎧に身を固めたアータヴァカが震えながら命令した。泣いているのだ。
「殺戮者」という意味の<シュムバ、ニシュムバ>の異名を持つ鬼兄妹の夢はここで終った。ベッドの上でミラは泣いていた。
「ねえちゃん、またあの夢を見たんだね」
「私、鬼の気持ちをわかる人と出会えるのかな」
(王子ならわかってくれるのかな?)
アラは答えない。人間に拒否されたときの絶望がどれほど苦しいか。それはよく分かっていた。
翌朝、二人は王子とともに人間になりすましたまま街を出る。街からはなれ、砂漠の真ん中で二人は角を出す。
「王子、先に言っておくけど今度は逃げることはできないぜ。おいらはおいかける。同じ過ちはするなよ」
「それにおいらは王子を守る使命があるからな」
「それに血に飢えただけの魔族が幸せとは思えないよ」
「見て」
遠方には街の人が自由に外に出るようになっていた。
「魔族がいなくなったからだよ。獣人も半獣人も人間も襲われていたの。その事実だけは理解して。食うか食われるかの世界は我々だけにしたいの」
これを聞いて王子は二人の食事時だけは竜馬ラクシュに乗って去ることにした。
アラビア王国の首都にたどりつく。そこには
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