第七章 第四節 殺戮者

 一方、ケンたちは……。


 ケンは必死にタウスに回復魔法を唱えたが……。


「よ……い。魔法など効かぬ。これ……こそ近衛兵としての……れ」


 内臓の欠片を吐き、そのまま息を引き取った。


 二人の鬼は魔導物質の鎧を纏っているとはいえ衝撃による傷は大きかった。すぐにケンから回復の光を受ける。


 「元の姿に戻ればお前らなぞ瞬殺できる。お前らを疲弊させれば、あるいは殺せば戻れるというもの」


 「その回復役から殺せばいいのだ」


 瞬時に移動した。


 そして、背後から犬人を貫いた。黒き血が流れる。


 「なかなか効率的……じゃないですか。ならばこれはどうです?」


 ケンは呪文をとなえ指に火を灯すと最後に魔導物質に火をつけた。


 「やめろ!!」


 「ふせて!」


 爆発する王城。壁まで吹き飛んでいた。隣の部屋まで粉々であった。


 爆発したあとには青い血だらけの男とどうにか起き上がった二名の鬼、そして肉片となった獣人の死体という光景。


 「おのれ! このくらいの傷……」


 だが、立ちあがれない。


 ただの爆発物質ではない。使用済みとはいえ魔導物質なのだ。サルワとて生身の体ですむわけがなかった。青き血が大量に床へ流れていく。


 魔導物質を着たものですら吹き飛ばし、鎧の傷が粉々になるくらいの爆発である。二人が奇跡的に助かったのは瞬時に伏せたからである。


 鎧そのものの傷は少しずつ癒えるが、着ている中身の鬼の傷は甚大だった。


 手をだらりとさげる鬼。手をも負傷した。骨折して手が動かせない。少しでも動かすと激痛が走る。


 そこでミラは呪をとなえ、魔導物質で構成された鎧の一部である右靴の底が刃物になるようにした。


 「手が使えなくてもね、魔は殺せるんだよ」


 そのまま踏みつける鬼。ミラの鎧に青い粘液が付く。


 阿鼻叫喚あびきょうかんの声が待合室に響き渡る。


 アラも呪をとなえ、左靴の底に刃物が生じた。


 「死ね」


 少年の透き通った刃の声が響く。そこへ……。


 「おやめください!」


 瓦礫がれきをかきわけ駆け寄ったのは同じ天界に住む妻。


「命だけは、お願いです。私はサルワの妻ウマと申します」


 見ると青鬼であった。同じ鬼族――!


 あまり懇願するその顔を見て踏むのをためらった隙に……。


 なんと切り込んできたではないか!


 そのまま鎧の傷が癒えていないアラの胸に突き刺さる。


 「夫の敵!」


 だがミラに蹴飛ばされた。その後、もう一回夫の方に再び蹴り飛ばす。


 「そんなに死にたいのなら夫婦仲良く死ね」


 殺戮者の異名を誇る二人は同時に冷酷な声をあげた。鬼らは二人を肉片にするまで踏み続けた。


 鬼の一人は突き刺さった刃を引き抜く。呪を唱え元の姿に戻る。


 「ねえちゃん、大丈夫だよ。ちゃんと治療すればこんな傷」


 だがそのまま意識を失った。力尽きたのだ。


 「アラ!」


 泣き崩れる鬼。しかしいそいで友軍のもとに駆け込んだ。


 鎧を少しだけ変形させる。鎧の背中に出来たフックに弟の衣服をかけて移動する。


 友軍にアラを渡す。急いで治療しないと助からない。


 しかしミラはそのまま引き返した。戦場へ。


 「待て!!」


 「お前も怪我ぐらい治せ!」


 受けたのは回復魔法だった。どうにか手首は動かせるようになった。


(王子を守らねば)

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