第三章

第三章 第一節 特訓

 王子と鬼は登山していた。


 仲間とはぐれてから二日がたっていた。


 「ほら、手を繋いで」


 小川を渡るときにミラが差し出す。鋭利な爪が伸びている。鬼だからしょうがないのだが。自分の手を傷つけないように握り締めた。


 だが握って驚いたのはミラのほうだった。なんと王子の手がたこ豆だらけだったのだ。


 「どうしたの? この手!」


◆◆◆◆


 「一杯素振りの練習してたんだ。特訓で」


 「何のために?」


 「鬼退治のために」


 沈黙の時がしばし流れた。ミラがようやく口火を切った。

 

 「……いろんな意味で呆れたわ」


 本当に呆れたようだ。


 「今気がついたけど、たぶん王子には大剣どころか中型の剣すら、無理よ」


 「え?」


 「だって握る力ないでしょ?」


 「あ……」


 「それにね、人間や獣人、半獣人の驚異ってむしろ彼ら自身なんじゃないのかな。盗賊とかね」


 「第一、こうして角隠したら人間と区別できないでしょ?」


 ミラが手をぐっと握るとなんと頭上にあった角が埋まっていく。


 「あっ!?」


 ミラが手をぐっと握るとなんと角がもう一回出ていった。


 「王子、じゃあね。いいこと教えてあげる」


 そういうと枝を折った。


 呪文を唱えると黒き煙を帯びた剣が出来る。


 「やっ」


 枝を振ると簡単に他の枝が折れた。風圧で簡単に折れた。


 「王子、たぶん王子に向いているの細い剣でかつ特殊な力が働いている剣だと思うよ。魔法剣の使いだね。今のは『暗黒切り』って言うんだよ」


 「でもさ、特訓の前にちょっと遊ばない?」


 そういうと今度は土を握り、呪を唱えると黒いボールができた。


 「こうやって枝と玉があるだけで球技として楽しめるの」


 「大丈夫、枝や玉には人間に害になるようなレベルの魔素はないから」


 (ふっ、嘘だけどね)


 「でね、こうやって……」


 鬼はなんとそのまますくい投げをすると直球となって木に当った玉がそのまま幹に食い込んだ。


 「これ、君達が考えた『ソフトボール』というスポーツだよ。かつての文明時代といったら怒るかもしれないけど、そういう球技があったんだ。男の場合は野球なんだけどね。もちろんボールは本当はこんな黒い玉じゃないよ。ちゃんと人工皮革だよ」


 「人工……皮革?」


 「詳しいことはいいの」


 「ね~ちゃん! キャッチャー役なら引き受けるぜ!」


 「アラ!」


 「ヘヘ~ン。オイラ監視役と警護役引き受けられちゃった~」


 「監視ってどういうことよ」


 「万が一ねーちゃんがやられることがあったら助けに行くって事に決まってるだろ。もっとも遠くから見張ってるぜ」


 「あ~あ、せっかくの自由が」


 「なんか言った?」


 「なんでも。そんなことよりキャッチャーやって。」


 「よっしゃ!」


 そういうと葉っぱを集め呪を唱えると黒く覆われたミットを作り上げた。


 「行くわよ!」


 そういうと剛速球が放たれ、弟が見事にキャッチする。玉を受け止めた重い音が山に響き渡る。その光景を見るや呆然する王子がそこにいた。


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