第七章 第三節 決戦
「あれが暗黒竜の城……」
大軍の騎馬隊が
その城には人柱にされたもの、石化された人間の首、ありとあらゆる毒草……。様々な魔の彫刻。
醜悪で尊大な邪悪が集大成させればこうなるのであろうか。寄せ集めた悪の美の結晶でもあった。城下町にはだれもいなかった。彼らの井戸を見ると毒臭が漂よい、緑の液体があった。
吊してある肉には人間とおぼしきものがあった。丸焼きにされたものもある。そしてなんという事だろう。人間牧場があったのだ。男女ともに着ている衣類は上等だし栄養状態もよさそうだ。だが自害出来ぬよう鎖を繋がれたままだった。急いで友軍が鎖を解き放ち収容者を解放する。だが精神に異常をきたし茫然とした者も居た。そうか。だから毒草だらけの丘でまばらに通常の畑が広がっていたのか。あれは人間牧場に居る餌のための作物だったのだ。それだけではない。毒草は薬草にもなるのだ。また綿が取れる畑もあった。つまり人間牧場側が万全の態勢で半魔を次々生み出せるように出来ているのだ。人間の血を薄めさせて魔族の人口を増やし……産めなくなったもしくは種が高齢化した人間は最終処分として出荷されるようにまでなっていた。しかも人間牧場で精神を徐々に破壊することで真に絶望した人間に闇の種を植えると魔族にすることまで出来る。鉄格子の窓からは血の色をした池が見えた。
「これが魔界……」
ここに人間が喜びを感じさせるものを期待することの方が間違っていることは分かっていた。しかし、あまりの
突如おどろおどろしい声が響き渡る。アルトゥス達が外に出る。
「偽善に満ちた人間よ、闇に消え去るがよい!」
城を背景に翼をそなえた巨大な三首の暗黒竜が現れた!! それぞれの口腔に赤き光を充満させ、
「間に合え!」
ミスラの光をほとばしり全身を光に染め、光を爆発させた。
赤き光の一部を受け止め発散させた。だがほとんどの部隊は赤き光と共に消えていった。残されたのは光の大蛇の傍にいた小隊のみであった。人間牧場から脱出した人間達も消し炭となった。
光の力を弱めてみると、そこに城下町の姿はもうなかった。代わりに焦土と化したクレーターがそこにはあった。だが、絶望的光景はそれだけではなかった。
「魔がもう一匹現れたぞ!」
なんと騎兵隊が自分に弓矢を放って来、さらに剣で己の体につきたてようとするではないか!
声が轟いた。
「くかかかか。それがお前の守りたい人間の正体よ。我と交わりし者よ」
(なんだって!?)
(いや……やっぱり……?)
ある程度覚悟していたアルトゥスだがショックは大きかった。
――あの者の血がそなたの体の一部となっていた。私は光の力で増幅させたのじゃ。
体内に剣を納めた状態でミスラが思念を通じて答える。
――実は自分はすでに竜になって飛び立った時、ミスラの力によってヴィシャップ、いやマーサ時代の記憶が瞬時に蘇っていたのであったが。大蛇と交じったおぞましき夜の記憶も。
「……」
(そうさ)
「ああ、知ってたさ」
開き直った。
「ああ、そうさ。お前と交わったことも。その血のおかげでこうして竜になったことも。この忌まわしき『血』によってな!」
騎馬隊が騒然とする。
「我らの主が魔だったなんて!」
「なんてことだ、この世はもう終りだ」
「中から魔が取り込んでいたのだ。これは罠だったのだ」
「断じて違う!」
騎馬隊に一喝した。
「愚かな人間よ、お前らから先に死ぬが良い」
破壊の悦楽を求める竜が再び
「どんな姿であろうと、俺は魔を滅ぼしに来た。信じてくれ」
「いくぞヴィッシャップ!」
逆にこちらが口腔に光の渦を溜め込み、吐き出した。巨大な光の渦が一直線に暗黒竜に向かっていく。それを今度は暗黒のバリアで跳ね返そうとする。だが……。光の力はどんどん強まっていった。逆にヴィッシャップはどんどん強力な光線を発するたびに体が溶けていく!
「行け! 俺の思い。俺の希望! 光に帰るんだ。魔女マーサ!」
(知っていたのさ。血をもらい受けたときに人の血が混ざっていることを。絶望と悲しみの中に愛があったことを。その心を受け止められない自分がいたということも)
(騎馬民族がそれを絶望と闇に変えてしまったことも!)
だから光に返す義務があることを。この暗黒竜は人間の憎しみを反映した姿にすぎないということを。
――届け!俺の思い!
闇のバリアは耐え切れなくなり、光の筋を真っ向から浴びた暗黒竜。やがて、言葉では言い表せない断末魔が大地に響き渡った。光の筋がなくなると暗黒竜はそこにはもういなかった。城ごと光が消し去ってしまったのだ。
赤みがかった光の大蛇は力を失い、元の姿に戻った。だがそれ以降の記憶はなかった……。
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