第二章 第二節 就任式

「おお、暗黒竜王子が見えるぞ」


 魔たちが騒めいた。それはアジ・ダハーカと呼ばれた竜であった。俺と同じ暗黒竜で三口、三頭、六眼をそなえ、尾は再び三つに岐がる。美しきも惨酷な多頭竜にして暗黒竜であった。


「なんでもジャヒー様の寵愛を受けてるのだとか」


「千の術を扱い傷口からは蛇、トカゲ、蠍などが出るらしい」


「アーリマン様の化身であるとか」


「なんでも人間どもの世を滅ぼす最終兵力であるらしい」


「静かに! お見えになった」


 ザリチュが言った。


 闇がゼリー状にゆがみ、そこから現れたのは巨大な暗黒の大蛇であった。同時に闇の王にふさわしい漆黒の翼も持つ。


 「父上、ご機嫌うるわしゅう」


 アジ・ダハーカの三つ頭が下がった。


 「皆の者よ。今日は一つの魔であったものが要職につく大魔の在任式である。努力に努力を重ねた魔は名誉と栄光を手にすることが出来ることを証明した。この者に続くことが出来るよう、努力にはげむがよい」


 澄んだおどろどどろしい声が響いた。


「これで不在だった大魔の一人が就任する。タルウィをここへ!」


「主よ、ありがたき幸せ」タルウィは主の前でひざまつく。


 暗黒の大蛇はそれを聞くと呪文を唱えた。


نمازگزاران تاریک و مؤمنین تاریک را برکت بده.

قسم ميخورم و اعتراف ميکنم .

من تعهد ميکنم که اونو هسته تاريکي کنم

قسم ميخورم که از تاريکي حرف بزنم .

قسم ميخورم که در تاريکي عمل کنم .


(暗黒を信じる者よ、闇を信じるこの者に祝福を。

我は誓い、ここに告白する。

我はこの存在を「闇種子やみしゅうじ」にすることを誓う。

我は闇の中でこの者と対話することを誓う。

我は闇の中で共に行動することを誓う)


 アーリマンはさらに闇のしずくを落とした。しずくが落ちたタルウィの額には小さな紋章が浮かんだ。


 暗黒竜王が宣言した。


「新しい大魔に栄光あれ!」


 ――闇の間で歓声が響いた。


力が弱き魔にはただの黒のゼリーにしか見えなかった。それでも圧倒的闇の前で暗黒竜王という希望に歓喜したのであった。

 タルウィは王がゼリー状の闇ではなく、やはり美しきも惨酷な巨大な暗黒の大蛇である姿をずっと見ていた。

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