終章

 王子は仰天とした。帰りの魔法陣をくぐると軍隊が待っていた。


 勇者! 勇者! 勇者! の連呼とともに


 凱旋すると王の容態とアラの容態が心配であった。


 だが、生き残った鬼達が臓器移植を引き受けたおかげでアラは無事助かった。


 カーウース王は培養された工場で作られた人間の目を移植することで目が無事見えるようになった。王はこの時事実上半鬼族ともなったのだ。


 王子とミラは王宮墓地に行く。そこに埋葬されていたのはタウスとケンの墓。『勇者とともに歩んだ勇者、ここに眠る』と刻まれていた。


 泣きながら花束を置くと二人はテラスに向かった。


 王が宣言をする。


 「王子の結婚式を行なう。相手は鬼族の娘にして勇者の一人、ミラだ」


 大歓声が沸き起こった。


 そして王子はこう言った。


 「もう誰も不幸にしない。君も」


 鬼はただだきしめて泣きながらそのまま接吻した。


◆◆◆◆


 結婚式の日には炎の霊鳥が飛んだと盛んに噂されたという。


 復帰後のカーウース王は奇跡的に元気になった。まだまだしばらくの間ロスタムは「王子」のままのようだ。


 復興の槌音が始まった。


 ジラント王国側の石炭鉱山が木材バイオマス発電によって衰退したため大規模ストライキが起きたときには、王子も同席し、副産物である温泉を活用することで決着がついた。鉱員の雇用は守られた。しかし、これによりジラント王国の煤煙公害が消えた。


 北国の冬は寒い。逆手にとって採掘時に出る温泉を活用しプールや温泉といった観光地としたのであった。冬にはわざわざ神聖ファリドゥーン王国に行かなくても済むように。反魔導物質の存在も厳禁とし、封鎖した。


 大元帥アータヴァカからミラ、アラにはそれぞれ「ニシュムバ」、「シュムバ」の称号があらためて送られた。「三世界を破壊し、その後支配したサルワをも倒したアスラ」と「悪鬼の殺戮者」という二つの意味を持つ。さらにそれぞれ降三世王、勝三世王の意味も持つ。畏れられた二つ名は賞賛へと変わった。ミラ、アラはアスラとなった初の鬼族となった。またアータヴァカは自治領を放棄し、その代わり自由に三王国に居住した。アータヴァカは後に神聖ファリドゥーン王国の大元帥となったという。


 鬼達は体内にある魔導物質を捨て、普通の生活に戻った。文明生活も少しずつ戻って行ったという。そう、戦いの時に使われた魔導石とは鬼達が手術によって急遽きゅうきょ取り出したものであった。ミラ、アラ、ロスタムも魔導石を取り出した。


 三王国の姿は都市部を離れると汚染地域や津波被災にもエネルギー作物を植える光景が広がって行った。食物用ではない。燃料であるエタノールにするためである。


 ――私は笑顔が絶えない日々を手にいれました。王子とともに


ロスタム王子の冒険 ――暗黒竜の復活 終


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