第三章 第一節 旅の中で
旅の途中、銀で作られた王家のメダルを売った。
俺はもう追放されたのだ。
無意味なものだった。
こんなメダルなど、もう見たくも無かった。
そのお金で代わりに馬を買った。
移動距離が大幅に増えた。
太陽が出ていれば、馬に乗りながら砂漠の中で修羅剣をかざした。
すると一筋の光が見え、その仇敵の方向を示す。俺は馬を駆けながら砂漠を突き進む。
悲惨な過去を忘れるべく、道中の村では酒場で魔物狩りの案件を見つけては修羅剣で退治する。
魔物狩りで得た
闇のものどもを光に消し去り、血祭りにあげた。
暗き悦びがふつふつを湧き上がる。
だが、剣の威力はどんどん衰えていった。
道中で次々と魔物を退治し、とうとう名声は国中に広がった。
だが、人間を信用できなかった。人に愛されたことなど無かったからだ。
親ですら俺は暴力の道具であった。
それでも光を信じる俺とはなんだろう……俺は光に操られているだけなのではないか? 本当に光を信じていいのか? なぜ死なないのだ。
やろうと思えば俺を感謝してくれる村や街に定住することも出来た。
だが、それは仇敵を討ってからだ。
いや、出来なかったのはまた追放されるのが怖かったからかもしれない。
それでも神を信じているのか、ある村の祠では神官に寄付もした。
アフラ神の加護で生きているのだから、当然だ。だが、神官は寄付を拒否した。
「今のそなたから受け取ることは出来ない」
「神官様、なぜです!」
「今のそなたは光を復讐の道具にしようとしておる。アフラの教えとはそのようなものではない。このままだとアフラと修羅剣はそなたから離れてしまうぞ。正義と正義の衝突はこの世に戦乱と闇を生んでしまう。それは絶望じゃ。そなたの今の戦いは希望の旅などではない」
「ではどうすれば」
「己の復讐のためにするのではなく、人のために義務として戦うのでもなく、自分がして欲しかったことを他人に分け与えなさい。それが本当の光。今のそなたは魔物退治という大義名分で動いているだけ。そうではない。心から苦しんでいるもののために、これ以上自分のような者を出さないために戦うのです」
「ここにアフラ神だけではなく、ミスラ神も祭っておる。ミスラは武勇の神だけではない。本来は契約と救済の神。一人で背負い込むことはない。弱いことは罪でも恥でもない。弱いことを隠し、偽善を振りまくことが罪なのだ」
――ミスラ神 それは終末の世に救済をもたらすアフラの
俺は、ミスラに助けを求めた。光を復讐の道具にしていること、そして人間を信じられない自分がいること。そのことが許せない自分がいること。
――そなたの願いしかと聞き入れた。そなたはそなたのままで良いのじゃ。自分を信じ、自分を守り、自分のために泣くのじゃ。そのために我は契約する。
どことなく声が聞こえた。祈りを終え、眼を開ける。
「ふむ。いい顔になった。もう一度ここで精神を修養するがよい」
俺は数ヶ月この村の祠で羊皮紙の巻物を読み漁り、修養し、かつ生きているうちに手紙を書いた。
王子として仇敵を倒した後にやらねばならぬことを。
そしてこの世への願いを。今までの絶望の心も正直に。
それは遺書でもあった。
数ヵ月後、村から再び離れて行く途中、光の筋が少しずつ太くなりかつ青い光が輝いた。
剣は完全に蘇っていた。
それだけではなく仇敵である暗黒竜が近くにいることが分かった。
だが彼にはその前によるべき場所があった。
光の示す方向からそれ、故郷に向かったのだった。
そこはただの廃墟であった。
骸骨と瓦礫の山だけが残されていた。
女神像が無残にも打ち砕かれ、奴隷牢は鎖に繋がれたまま焼け爛れたと思われる骸骨が多数あった。
置き去りにされたのだ。
近隣の村から来ては郊外に墓地を作り、出来うる限り
場合によってはかつてあった王宮で夜を明かすこともあった。
このとき十四の齢を数えていた。
北にはアルボルズ山脈が見えていた。
光の筋はそこを指していた。
仇敵はもう目の前だった。
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