第七章 第一節 天空城の戦い

 例の魔法陣のある場所に到着した。そこにはケン配属の神官らが多数囲む。魔導石を置き、呪文をいっせいに唱える。


 魔法陣が発動した。


 「行きますよ。必ず我々は帰ります。それと鬼族の軍隊を早くここへ連れて来るのです」


 五人が異空間に入ると暗黒空間の圧迫感と浮遊感が同時に襲う。ラクシュにしがみつきながら必死に耐える王子。


 そして五人がたどりついた場所は、天魔の城である忉利天善見城。


 「ここが天界……」


 そこは天界の名の通り威厳のある光り輝く城であった。


 「よく魔導石をあんなにすぐ見つけたな。鉱山あったのか。倉庫に保管していたのか?」


 タウスが聞く。


 「ええ。まあ……」


 ケンがすこしうつむいた。


 魔導吸収物質石で照射することで体内に埋め込まれた魔導物質石をほぼ無力化できることが研究所の知らせであった。何もせずに無理やり鬼の体内から取り出して自爆することもない。しかも微力とはいえ魔導物質の力は残っている。いくら使用済みといっても石の力は強力なのである。しかし「鬼の体内にあった魔導石を使った」などとはケンはとても言えなかった。

 魔導吸収物質は偶然にもジラント王国の石炭炭坑内で見つかったことも内密である。魔導吸収物質とは冥界のものである。つまりは炭坑と冥界がどこかで繋がってしまう危険性もあるということである。地獄の鬼と戦えば確実に敗北する。それは避けたかった。極秘にし、かつ乱掘を禁じた。


◆◆◆◆


そのころファリドゥーン王国の城では……。


 「うむ、王城に鬼族がいたとは。ここは一般人立ち入り禁止だ。避難所になっている神学校にいきたまえ」


 「お前の避難所は天空の善見城だがな」

 

 そういうと青鬼が王にマスクをかぶせ昏睡状態にさせる。鬼の力の前には人間など無力であった。


 そしてそのまま王を連れたまま天空へと昇って行った。鬼の守護者にして四天王の一人、増長天であった。


◆◆◆◆


 「天帝様、この方がカーウース王でございます」


 暗黒の鎧を着た青鬼が暗黒の鎧を着た天帝に答える。


 「よろしい、増長天」


 「持国天と増長天よ、防備はよろしいかな」


 「はい、抜かりありません」


 「はっ」


 「サルワ」


 「そなたの存在自体が一騎当千。城の防備にかかれ」


 「はっ」


 「各自、準備にかかれ」


 こうして鬼の軍隊は城門へ向かう。王城内にはインドラとサルワのみとなった。

 

 「サルワよ、念のために王宮内で防備つくのだ。我の前のお前の部屋でな」


 「はっ」


 「我はカーウースを玉座の後ろにある特別牢獄に入れる」


(抜かったわ。まさか向こうから即時進撃するとは)


(イマに与えた魔導吸収物質の量産が間に合わない。これではわが軍は負ける公算大)


(では……滅びの戦いの前に食事でもして力を蓄えておくとするか)


 牢屋に暗黒戦士と王が入り、暗黒戦士が王の四肢を鎖で縛り……やがて絶叫と鎖の音が牢屋に響き渡る。虜囚となった王の両目を鬼が指でき……そのまま己のマスクを外し、ゆっくりと飴を溶かすがごとく舌を転がしながら最後は眼を噛み砕いて味わった。人間の眼の味を堪能したあとインドラは再びマスクを当て、牢屋を出る。人間の眼は鬼の視力を増大させることができる物質である。このため鬼族にとっては貴重な戦力強化物質なのであった。


 「人間め。なかなかうまかったぞ」


 食事を終えた鬼は血を拭いそのままさらに別の部屋に入る。后の部屋であった。次期皇帝となる息子ジャヤンタもいる。


 「我が妻シャシー、阿修羅族の后よ」


 「天帝様」


 「ここは落ちるかもしれぬ。一時退避してはくれぬか」


 「愛すべきインドラ様、私も一緒に戦います!」


 「ならぬ!」


 「そこにいるサムアと共に鬼族のわが故郷、ジャムジードこと閻魔王が支配する地獄へ行くのだ。大丈夫だ。死にやせぬ」


 「いやです。私は死して地獄に向かいます」


 「やむを得ぬ」


 そういうと妻の腹部を殴って妻の気を失わせた。


 「魔族のサムアよ、わが息子ジャヤンタよすまぬ。わが妻と一緒に閻魔王のもとに避難してくれぬか。我の乗獣ギリメカラに乗っていくのだ」


 「了解しました」


 インドラは魔法陣を描き、ギリメカラを呼び出す。


 「ギリメカラよ行くのだ。サムア、ジャヤンタとともに我が妻を下界……閻魔天の元へ。それと万が一の時にこれをもって行け。これは暗黒竜ダハーカの鱗。ギリメカラに埋め込めば真の力を発揮する」


 しかし、ジャヤンタはサムアの懐に鱗の包みを入れ、ギリメカラから降りた。


 「父上、我も戦います!!」


 「共に地獄に行くというのか? わが息子よ」


 「いえ、我々は勝ちます。そのために私は作られたのでしょう? 阿修羅と鬼の血を引く兵器として」


 ジャヤンタの姿は父と違い黒の長髪、しかし父と同じ石膏のような白き肌。額には角もない。顔立ちは母そっくりだ。


 「よくぞ言った」


 暗黒の戦士がうなり声にも似た笑いを響かせる。


「謁見の控え室の守りをそなたに任せる」


(わが子よ、我は誇りに思うぞ)


 インドラは宝物殿に向かうと壁にかけてある雷帝鉾ヴァジュラを手に取り玉座に戻った。



 一方サルワの居室の横にある部屋には妻ウマがいた。


 「サルワ、私も一緒に戦います」


 「嬉しいぞ。だがその時は万が一私が倒れてからだ、わが妻ウマよ」


 「はい、サルワ。私も人食い鬼のはしくれ。最後まで戦い抜きます」


 「私は鬼族を嫁にもらったことを誇りに思うぞ」


 この時巨大な一つ目を持つ暗黒騎士が呪を唱えががら下界に逃げる。広目天であった。


 (この城はもう終わりだ。閻魔様の元へ行って出直さねば)


 また娼婦も逃げようとしていた。ジャヒーである。巨大な孔雀に乗って下界へ降りる。


 (落城後に落ち着きを取り戻してからこの城を攻め入ればいい。そうすれば我が天魔女王よ)


◆◆◆◆


 ロスタム王子の友軍である鬼兵隊が到着した。全員暗黒物質による武装をしている。


 「今だ、奇襲攻撃!」


 多数の軍隊がいっせいに飛び出した。


 その時……。


 「鬼族だけだと思ったら大間違いよ!」


 背後には人間の軍隊。多数の魔術師兵であった。


 「城壁をぶっ壊せ!」


 一気に城壁が壊れた。次々敵の鬼族を撃破する。


 確かにに魔導物質はそう簡単には壊れない。だが、衝撃は思いっきり食らう。さらに鬼が持つ捧の衝撃を何度も食らう。鎧を着たまま死んでいく敵の鬼兵。衝撃に耐えられず中身である肉体が破裂していた。


 「我も地獄へ!」


 「イマ王の下へ!」


 これが増長天と持国天の最後の会話であった。


 増長天は虎人の捧に叩きつけられそのまま意識が途絶えた。


 「国と種族を守れない武将に、死を!」


 タウスの横で暗黒物質の鎧の隙間から青き血がどくどく流れ出る物体があった。


 「せめてもの思いです。イマ王の下に行くのなら引導を渡しましょう」


 そのまま吹き飛ばされ、持国天は天空から下界に突き落とされた。絶叫が天界にこだましやがて消えた。


 自軍の被害も甚大であったが反魔導物質の刀の量産は間に合っていなかったのか、かろうじて勝利した。


 「敵の城に突入!」


 王子と五人が続く。


 「降伏させよう」


 最後の戦いが迫っていた。

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