第六章 第二節 進撃の決断
王は王子らにどうすればいいかを聞いていた。
この時ケンは驚きの言葉を発した。
「こちらから逆に進撃するのはいかがでしょう。王子、その鬼の剣を持って天空の鬼の城へ進撃するのです」
一同は驚愕したが、国民を守るためには最適な選択でもあった。
保護した鬼らにとってもかえって安全であった。
「行きます。父上」
「王、急いで議員に召集をかけることを提案します。彼らは鬼なのです。食糧が必要でしょう。とりあえずアラビア半島で自我を失った魔族の残党の肉を輸入されるのはいかがでしょうか。国民も鬼族にはまだ慣れておりません。
「いい案だ。神官長」
「それにタウス近衛兵様」
「宮廷神官長様、私にご命令を」
「我々たった五人で向かいます。戦争は議決が必要ですが、探索なら必要ないでしょう。もっとも正当防衛が必要という場合も生じますが。」
「神官長!?」
「王子、私の本当の顔は元魔族でありながら神官長という身分です。ですが半分嘘です。なぜならタウス様のように近衛兵でもあるのですから。国と王子を守るのが我々の使命です。王子が行くというのなら私らも行きます。その鬼族の希望という重責を持った鬼族の子らとともに」
洗った首輪をはめる犬人の顔は「鬼」であった。
「そしてもう一回国書をジラント王国まで送るのです。使者は我々が送ります」
「そして巨大な金棒も彼らに作らせてください。おそらく暗黒の鎧の中をも砕くはずです。そして我々の軍隊として大元帥アータヴァカが指揮するのです。鬼族と共存させましょう」
◆◆◆◆
出立の前夜に王宮のバルコニーで、王子とケンが出合った。
「王子、隠していたわけじゃないのですが申し訳ありません」
「ケンってすごいよ。いつも的確で冷静で。僕はケンにはかなわない」
「そんな事ございません。それに私の仕事は一族の使命ですし」
「え?」
「私の一族犬人族は元々代々ザッハーク様に仕えた近衛兵や特殊兵です。私の祖父はかの勇者ファリドゥーン様の養父ビルマーヤ様とも戦ったそうですよ。あっけなくやられたそうですが」
「そういえばそんな故事が……」
「我々犬人族もアフラの光を浴びて魔族であることを捨てました。そして人間が持つ文化のすばらしさに触れたのです。犬人族のほとんどは人間と同化して普通の生活に戻っていきました。ですが私はこの故事が好きでいつのまにか王族に仕えるのが夢になったのです。ザッハークの子孫である王子に仕えたい、しかも人間にも奉仕したいと。宮廷聖職は私にとってうってつけの仕事でした。そして神官試験に合格して私は貴方にお仕えすることが出来ました」
(そうなのか)
「今度は人間と王子のために戦える。鬼のためにも戦える。私は幸せですよ。この後、どんな過酷な道が待っていようとも」
星を見上げるケン。ケンの身内の話を聞いたのはこれが最初だった。決死の覚悟だからか。
「ケン、ありがとう」
挨拶すると王子は寝室に戻った。
王子がいなくなったテラスに神官が訪れた。
「神官長、これが鬼の体内にあった使用済み魔導物質です」
「すまない。これを移動時以外には使いたくないものですが、いざというときに私が使うかもしれません。この石を頂戴いたします。王子や王子が大切にしている女性を守るためにも」
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