第一章 第二節 人間をやめし者の救い
薄暗い
薄暗い牢の中から突然闇の渦紋が巻き上がり老婆が闇の渦から現れる。闇の者は闇から闇へ自由に瞬時に移動ができる。
「サーレヒーよ……お前はこのままじゃと精神が死ぬじゃろ」
「俺の名を……お前はだれだ!」
「何、わたしは人の心を読むことが出来るのじゃよ。この『背徳の塔』と呼ばれるものを視察しにきただけじゃ」
その声は獣の声が混じる声であった。少年はこの者こそが闇の者であり自分を救いに来たものだと確信した。
「ところで、お前、このままだと本当に人間を失うぞ?」
「それでもいい。自分は……」
「人間を辞めたいんじゃな……?」
「どうしてそれを……」
「そなたは心の病でどの道人を意識することが出来なくなる。そうじゃろう、少年」
獣声がより黒くなっていく。
「そこでじゃ、どうせ人を辞めるのならこの籠に入って牢を出て、抜け出してみないか……。 ……この憎い人全て殺すのじゃ……そう……人を辞め、人を殺すのじゃよ」
「おばさん冗談を……」
「冗談などではない……真の神と契約し、真の姿となれば新しい命として生まれ変わる……そなた、人を辞める勇気はあるのか……」
じっと少年の眼を見据えた。
「ただしそれには憎しみが必要じゃ。それも並の憎しみではない。世界そのものを憎む強い憎しみがないとその神と同化できぬ。そして強き苦痛があるじゃろう……」
「もうどうでもいい。闇であってもそれが安らぎなら。人が人の意識であるうちに闇に帰りたい。たとえそこがアーリマンの世であっても」
「本当じゃな?」
無言でうなずく。
「そなたは賢明な判断をした。今すぐに死に至るその苦しみを解放する。待っておれ……」
すると、そのおばばの指から突然赤き霧が吐き出された……。
その霧を不意に吸ってしまい、気を失う。
老婆は少年が倒れるのを見ると……次に何か呪文を唱えた。
به تاریکی دعوت کنید
(
すると少年サーレヒーの寝顔が安らかになった。
――では我も闇に戻るとするか
老婆は床に魔法陣を描きあげると二の腕で少年を掬いゆっくりと沈んでいく。
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