第六章 第二節 ミスラの剣

 宴会の席を逃げ惑うアルトゥス。厨房ちゅうぼうを潜り抜け、多数ある部屋を出るとそこは昼に訪れたカーグ十四世の墓だった。だが、兵たちが追いつく。


 「これは好都合。さあ、貴様の持っているその石の杖をここで剣にするのだ」


 周り中剣や槍に囲まれたアルトゥス。仕方なく従った。その中には見覚えのある顔があった。なんと武装した兵の中にミスラ神殿の神官ではないか!


 「わが国がほしいのはその光の剣。これで暗黒の者を倒し、王権を強めるのよ」


「だましたな! 神官長から全部最初から!」


 吐き捨てるように言うアルトゥス。


 「ばかな。神官長は本気だったのよ。その剣の復活のためだけに。だが敵国の人間に渡す馬鹿がどこにいると言って全員切りつけたわ」


 怒りがふつふつとこみあげるアルトゥス。剣を差し向けられながらカーグ14世の石の墓に刺さっている剣を引き上げようとした。


 ――光を求めるものよ、その怒りを正しきことに使うのだ。今剣の力を杖にさずけよう。そして本当の姿もお前に見せてやろう……。


 声が聞こえたかと思うと、剣が突然輝きだし、剣を引き抜いた。それだけではなかった。持っている杖と共鳴し、杖の石が剥がれ落ち、つばが小さい光の剣となって変化した。


 さらに光が爆発し、剣が己の体に吸い込まれていく。それは光の爆発。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 雄叫びがこだまし、光の爆発がさらに膨れ上がる。


 「ぐはあああああ。まぶしい!」


 周りを囲む兵士全員目がくらんだ――!


 気がつくとそこには頭部は狼、胴体と尾は赤みがかった黄金の大蛇がそこにいた。


 ――これが俺の本当の姿!? 俺は人間ではない? なぜだ!


 そこに血の記憶が呼びかける……。しかし、まだ意味不明な内容であった。燃える村、黒き血を浴びる自分。


 だが、記憶にひたっている場合ではなかった。兵士に囲まれていたのであった。たじろぐ自分。あわてて叫んだ。


 「立ち去るがよい!」


 轟くように己の声が発した。逃げ去る兵士達。やがて墓標の周りにいる兵士がいなくなった。


 (元の姿に戻りたい……)


 そう思ったとたん、また光の爆発が起こった。もとの姿に戻った。服装ももとのままだ。

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