第五章 第四節 聖杖伝説

 ミスラ像の前に立つアルトゥス。


 その石の杖を引き抜こうとした時に声が聞こえた。


 ――そなたは竜の血を引くのじゃな。


「なぜ私は竜の血を引いているのですか? ミスラ様?」


 ――それを知るとそなたは正気を保てなくなるぞ。しかし、いずれ知るときが来よう。じゃが、そなたは人間だ。その竜の力を正しく使うことをここに誓うか?


 「誓います」


 ――ならばそなたに祝福と契約を授けよう。我は武勇と契約と太陽と救いの神ミスラ。救いを求めるものが居る限り祝福を与えん!


 像が光りだす。声が聞こえなくと、いともも簡単に神官や戦士たちが誰も引き抜くことが出来なかった石の杖を引き抜くことができた。


 その杖は石で作られたものであるにもかかわらず軽かった。

 だが試しに他の神官達が持とうとするとすさまじく重く、持ち上げることすら困難であった。


 気が付くと手の甲にあざがあった。紋章であった。これが契約の証!


 さらに杖から光が輝くではないか。これがカーグという王子が持つ剣と同じ効力を持つのであろうか


 「その杖はまだ本当の力を出してはおらぬ。本来の姿は剣なのじゃ。ミスラは裁きの神でもある。救いや祝福を求める姿には杖を、裁きの時には光を出すのじゃ」


 「暗黒の者に裁きを与えるのじゃ。そなたの力で」


 「ただし、その杖を剣にするには修羅剣が必要じゃ。カーグ藩王国の墓標に突き刺さっている。その修羅剣の光をミスラの杖に当てるのじゃ。さすれば石の中から剣が出るじゃろう」


 「暗黒の者に立ち向かう前にカーグ藩王国に向かうのじゃ」


 「神官様、いろいろお世話になりました」


 いろいろな指導者に頭を下げ、馬とともに去っていくアルトゥス。


 姿が見えなくなると神官たちの笑みが消え、神官長に神官達が詰め寄った。


 「アルトゥス本人に言わなくてよろしいのですか?彼は暗黒竜と交わった者であること、その血をもらい受けてしまった半魔であるということを。彼はもう人間ではないのです。いつ暗黒竜になるかわからないのですよ?そのような人物にいくら杖が扱えるからと言ってなぜ貴重な杖を与えるのです!」


 しかし、神官長はいった。


 「よいのじゃ。ミスラの杖に選ばれたということは暗黒には堕ちることはない。万が一堕ちることがったら杖がアルトゥスを罰するじゃろう。ヴァルナ神がな。」


 「わかっております。しかし、魔となったものに渡すことがいいのかと説いているのです!」


 「彼は魔には堕ちぬ。わしは彼が敵対国である遊牧民族にミスラの教えが伝わり、光を取り戻してくれればよい。人が滅びようとしているのに敵国も民族も関係なかろう。それだけじゃ」


 そういうや否やいきなり後ろからドン!と背中を突かれた。背中に赤い染みが広がる……。


「なぜじゃ……ミスラの教えは万国の教えのはず。暗黒の者こそ、罪を背負うものこそ、救うべき者のはず……」


 「貴方は国家に反逆したのです。もっともアルトゥスは後で利用いたします。その杖が剣になったところでマルダース王国に奉納していただきます。じきに兵もそちらに向かうことでしょう。そのほうがカーグ藩王国にとっても幸せでしょう。」


 仮面をかぶった神官が淡々と語る。暗殺術であった。


 さらに突き刺された刃は臓物をえぐり出し、参道に肉片をき散らす。他の神官の刃も次々神官長の体に突き刺さる。


「そなたらはミスラ神の……前で……罪を犯すのか……」


 そう言うと神官長は事切れた。

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