第二章 第五節 闇を打ち払え!

 石の門を開け、剣を掲げながら火が放たれた村の中で魔物の一群に攻め入る勇者。さっそく呪文を唱えた。


――nəmasə. tē. gaospəṇta.

――nəmasə. tē. gaoš. hudā̊.

――nəmasə. tē. frāδəṇte.

――nəmasə. tē. varəδəṇte.

――nəmasə. tē. dāϑrō. baxtəm.


 詠唱を終えるとなんと剣が唸りをあげるかのような音を出し、意識を両手にあつめその先、神を感じた。


 勇者の剣が閃光のように輝き、古代文字が浮かび上がる。彼の目は鋭く、決意に満ちていた。熊と竜を合わせたような魔物の巨大な爪が迫るが、勇者は一瞬の隙を見逃さず、華麗にかわす。剣が空を切り裂き、魔物に深く食い込む。血飛沫が舞い魔物は崩れ落ちる。


 勇者は息を整え、次の一撃に備える。甲殻類と人間を伏せ持つ姿の魔物の攻撃は激しさを増し、地面が揺れるほどの力で襲いかかる。しかし、左手に閃光が生じ魔物は瞬時に消え去った。甲殻類には剣よりも魔法が利くと思ったがやはり。


 次の敵は蒼の翼を持ち角を持ち蒼の皮膚を持つ亜人だ。問答無用で空から鉤爪を振った。勇者は片手で放ったとは思えぬ速さの、袈裟斬けさぎりによって葬った。 


 次の敵は一つ目の虎人だ! 攻撃は瞬時に左足を引いて下がり、鉤爪や剣は空を切った。強烈な金属音が響き、空気が震う。肩をかすめ二撃目もかわす。勇者は身体を旋回させて……斬撃さんげき!! 敵討ちとばかりに別の魔物が必死に反撃してくる。しかし、魔物の巨大な右腕は勇者の刀に止められていた。刀を弾き、両者いったん距離を置く。

 

 刹那せつな――!


「ぐぎゃあああ!」


 断末魔が響く。一刀両断だ。


 さらに鳥人が急降下して剣を振り下ろす。


 間一髪でよける。


 そして鳥人に剣の光を浴びせた。


 なんとどんどん溶けるようにして消えていくではないか。


――a haϑra. vīspanąm. narąm. nāirinąmca. taoxma. upa.barat̰.


 詠唱を終えると今度は魔物の頭上に電撃が落下した。すさまじい雷魔法だ。俺はこんな力を持っていたのか。


「撤退だ、一旦引くぞ!」


 あちこちで撤退の声が聞こえた。


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【あとがき】

この呪文は実際の「ヴェンディダート」に書かれた文言を使用しております。つまり本物の呪文です。ペルシャ語ではなく古代ヴェンディダート語という言語になります。

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