第四章 第三節 脱出
一方、角を持った魔は人と人の子を連れ、下水から街の郊外へと逃れようとした。だが甘くはなかった。
すでに避難口も見つかっていたのであった。
「その子をどうするのかな?裏切り者よ」
出口の周りを犬人と剣が取り囲む。その光景を見届けると、ビルマーヤの周りに突風が吹きすさぶと突如腕の一部がもりあがり、剛毛が生える。
背に持っていた大剣で兵士を次々なぎ倒す。あっという間であった。
「おっとそこまでだ。赤子と妻はもらうぞ」
悲鳴に近い声を上げて、最後の犬人が妻に刃をつきつける。
「赤子を始末したら王の念願はかなう。亡骸さえ見せれば王は喜ぶであろう。王は生死の区別は問いていないのだからな」
しかしそのとき、妻は背負っていた赤子を紐解き、落とした!
混乱する犬人。しかし、赤子は落ちる前にビルマーヤがすくい取る。そして次に足で剣を突き飛ばし、さらに巨大な腕で右腕を叩き潰した。鈍い音とともに犬人の右腕が肉片となっていった。
絶叫がマンホールにまでこだました。
「これですむと思うなよ。ザッハーク万歳!」
すると懐から手に出したのはなにかの粉末であった。呪文を唱え若干の火が指先に灯る。その火を粉末に当てた。
爆発音が響く。
この粉末は東方より伝わった火薬であった。妻もろとも爆死したのであった。
「なんてことだ……。俺は魔である俺が、本当に人類の希望を担うことになってしまった!」
それは嘘が真になった瞬間であった。妻がいれば人の子も人として育てることが可能であろう。しかし、果たして半魔達の国でこの子は人として育っていけるのであろうか……?
赤子は笑っていた。この惨事にも関わらず赤子は笑っている!
(この子ならもしや……)
そう思うと、この地を後にした。
殲滅された瓦礫から物音が次々する。
地下街の下にさらに石に覆われた棺の部屋を作ってあったのだ。ちょっとやそっとでは崩れ落ちない。そこは地下街で一生を終えた者のための墓場であった。
「これしきのことで抵抗運動が終るとは笑止」
指揮者ガーウェにとってこれくらいのことは計算済みであった。
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