余談
その後……西方の国の廃屋では肉の
やがて
いや、アエーシェマが残した人間の子孫。その名はアスモデウス。
悪の悲劇は西方の国でも繰り広げられることになった。
そしてアルボルズ山脈には黒き鱗を持ち、腹部が青き竜が魔法陣の東方を飛んでいる。竜は天空にある城を根城にしていた。
その山の
「ふざけるなよ……! この借りは倍にして返す!!」
捨て台詞を吐き捨てるとジャヒーは鬼が治める
その忉利天にある天空城から一部始終を見つめる暗黒騎士が六名いた。
「よいのですか? 鬼族にとって重要な『人間牧場』を失ってしまいましたが」
蒼白き肌をもつ三つ目の破壊神がたずねる。鬼族には珍しく角がない。額にある目は閉じてある。後ろには馬人族サムアらが控えている。サルワの配下となったのだ。
「よい……いずれはまた……阿修羅族と戦おうぞ」
インドラは下界を見下ろしながら静かに行った。
「それまではかの国の国民を襲い、食えばいいであろう」
「これで大魔の実権はインドラ様とサルワ様に移りましたな」
全身黒の鎧を着、兜と一体化した耳が異様に大きい鬼が答えた。多聞天だ。インドラ同様、
「それこそが目的」
兜の割れ目からインドラが牙を
「阿修羅族の動向は我が調べます」
全身黒の鎧を着、兜の表面には巨大な赤き目を頂き、素顔を兜で隠す大きい鬼が答える。広目天だ。頭部の頂に角を持つ。巨大な赤き目と己の目は己の臓器の一部でもある闇の兜と神経細胞が接続しているため、はるか遠くの物が見える。闇の兜の割れ目からやはり牙を覗かせた。笑みを浮かべていた。背後にはジャヒーもいた。アンラマンユを捨てた娼婦ジャヒー。闇の衣を着たジャヒーもベールで素顔を隠す。今度は鬼族の娼婦となっていた。
「魔族と鬼族の対立にもなってしまいましたな」
広目天が下界を見下ろすと大量の
「我の配下は死体を貪る鬼ゆえ、死者も残してくれないと困りますな」
黒き甲冑を着た青鬼が言う。増長天だ。増長天も闇の兜の割れ目から先端が割れた舌を出す。飢えているのだ。額から角が見えている。
「その通りでございまする。地獄へ行く死者を減らすことは獄卒の食糧が減るということ」
答えたのは青銅の鎧を着た者、地獄の主イマ王であった。
「人の血さえ飲めればよい」
黒き甲冑を着た赤鬼が空を見上げて言う。持国天だ。同じく額から生えた角を持つ。闇の兜の割れ目から二本の鋭利な牙を覗かせた。吸血鬼でもあるのだ。
「四天王らよ、今はまだその時ではない。彼らは強すぎる。彼らは裏切った魔族と共に科学と魔力の英知をも手に入れた。食物たる人間を狩る時以外は力を蓄え、休むのだ」
その時三尸が天帝の耳元に来た。虫の知らせとはまさにこのこと。
「ギリメカラ、お前も飢えておるよの? 病魔の霧を振り撒いてもいいぞ」
インドラの乗獣である黒き象は答えた。
「主上、仰せのままに」
「多聞天よ、食肉工場ラインは完成しているな?」
「はっ、地上から持ち去ったラインをすでに組み立ててあります」
「アータヴァカに命じよう。培養システムと食肉工場の維持のために人間を狩れと」
「はっ」
「鬼の人口は急激に増える。このままでは我らの食糧は尽きる。そこで培養システムと食肉工場だ。医薬品も出来る。もっとも我らは上等の生肉を狩って食うがな」
「仰せのままに」
「彼らを大量に狩ったあとに地上の虫を殲滅させよう。その時は出番だな、サルワ。いや大自在天よ」
呼ばれた暗黒の破壊者は高笑いした。望み通りの命令であった。
◆◆◆◆
別邸にて王妃は無事人間の子を出産した。三つ子であった。王妃の子である王位継承権を持つ三つ子は成長するにつれて国は引き取り、全員養父であるのファリドゥーンの元で育った。三つ子が成長するとファリドゥーンは竜に化身し、王宮内で三つ子を修行をしたそうである。これが晩年のファリドゥーンの姿であった。後に長男が神聖ペルシャ王権を承継する。次男がジラント王国を、三男はアラビア王国を承継した。
王位即位時に改名をし、長男は神聖ペルシャ王サルム、ジラント王トゥール、アラビア王国イーラジと名乗った。ジラント王国は後継者が決定するまでファリドゥーン王が暫定王位についたがこれにより正式に王も独立したことになった。しかし二重王位の座により激務となってしまった勇者ことファリドゥーンはその十数年後にこの世を去った。
ファリドゥーンはその後神聖ペルシャ王国の名誉王として五百年もの間在籍することが議会で決まったという。
ペルシャの大地に黄金時代がやってくる。
この三兄弟の子孫でありザッハーク王子の血を引くロスタムが王子時代に竜や鬼と戦い繰り広げる冒険譚はこのお話の百年後のお話となるため、その話を語るのは別の機会としよう。
光と闇の戦いはまだ終らないのだ――!
第三部 暗黒竜の絶望 完
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