第五章 第三節 暗黒竜と暗黒竜

 咆哮がビルの廃墟に響く。後ろには王宮が。が、竜の口から桃色の煙が街中を充満した。


 「ねえちゃん!」


 「わかってる!」


 二人は急いで戦士に変わる。が、王子が煙を吸い込んで落馬してしまった。


 「王子!」


 迫り来る炎。竜馬が軽く王子を蹴り上げる。激痛が王子の体内をめぐる。竜馬は王子の炎の直撃を回避させた。


 「ラクシュ、よくやった!」


 王子は急いでもう一回馬に乗ると竜に向かっていく。その竜は黒き鱗を持ち、腹部が青き竜であった。


 「我はアスディーヴ。またの名を三代目タルウィ。ザリチュ、タルウィの子孫なり」


 「そんな馬鹿な! お前は勇者に殺された竜の子だというのか?」


 「いかにも。勇者に抹殺される前に生み出された子。そして新しい大魔の一人よ!」


 業火を三人に浴びせる。暗黒の武具で守られた二人はなんと光沢が消えている。


 うめく二人。王子は竜馬ラクシュにまもってもらった。そのラクシュも火傷を負っている。


 「新たなアラビア王国にようこそ。そして、父母の宿敵をここで果たさん」

 

 口腔こうくうに黒き光がたまっていく。


 「ビルに隠れて!」


 ミラの指示の下高層ビルに隠れた。が、ビルの瓦礫がれきごと吹き飛んで行く。そして、傷だらけの三人と馬が横たわる。王子が黒き血だらけのまま意識が無い。


 「王子、王子!!」

 

 横に倒れたままのアラが揺らす。

 

 「このまま死んでしまう!!」


 だが王子から、突然角が額から生えた。


 それだけでなく黒き血が鱗へと変化しながら傷口を塞ぎ、ゆらりと立ち上がっていく。防衛反応により本性を現したのだ。


 「こしゃくなあ!」

 

 今度は熱の息吹だ。だが竜人の姿をした形にはまったく効かなかった。ロスタムの首が伸びていき、爪が伸び、手には持っていた細い剣が巨大化していた。

 

 「死ね」


 ロスタムが言い放ち、剣がアスディーヴの首をはねる。ミラから教わった『暗黒切り』が竜の胴体を二つに分けた。


 はねた首から黒き煙が次々出てくる。


 ――この場から逃げなければ!


 黒き煙から思念が聞こえる。


 暗黒竜ロスタムは二人と一匹を手にすくい翼を背中から生やしそのまま王城跡から逃げ去った。


 だが力尽きそのまま砂漠に滑り込むようにして倒れた。



 眼を開けると……昨日宿泊していた宿のベッドの上であった。俺は生きている。

 

 「王子!」


 ミラの声が聞こえる。


 「王子!」


 その声はアラ。


 「気が付いたのね」


 「ありがとう、救ってくれて」


 「そして、ごめん」


 アラが頭を深く下げる。


 「なんで謝るんだ?」


 「緊箍きんこの輪と装備していた剣の力で王子は暗黒竜としての力を目覚めさせたのよ」


 「いざというときにはこうして守ってもらうようにな」


 「そうか……」


 (利用されたのか。だけどよ……それで俺は命が救われたんだよな?)


 「僕はあの忌まわしきザッハーク王の玄孫。君らは僕の当たり前の姿を引き出しただけだよ。それでも黒き獣の僕に付いて行くかい?」


 「当たり前じゃない。あなたはあなたなんだから」


 「王子の前にロスタムという友人と旅をしてるんだぜ、おいら」


 この答えを聞き、三人が抱きしめ会う。利用されていたとしても生まれた友情が本物であることに変わりはない。そんなことよりもこんな忌まわしき獣を受け入れてくれる存在がいて僕はうれしかった。たとえ鬼であっても。

 しかし、その思いは二匹の鬼も同じであった。鬼族以外の友人が生まれた瞬間だった。生死を越えたときに生まれた信頼から生じた友情であった。


 街は歓喜に包まれていた。魔族の支配から逃れることに成功したのだ。


 親書は翌日、村長に預けた。この国に新しい代表が選挙で選ばれるように。


 そして改めて王城があったアラビア王国の首都クワールに到着する。


 王族であるイーラジ一族の墓は見つかったが、街にも王宮には誰もいなかった。王族は名乗り出ない限り空白となってしまう。王宮には竜の爪あとは多数残されていた。


 墓に一礼すると王子らは帰路に向かった。


 神聖ファリドゥーン城門をくぐったときにはまたもや大歓声につつまれた。


 勇者!勇者!勇者!の歓声とともに。

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