第2話 不敵に笑う幼馴染
「……何だよ?」
「そっちこそ何ですか?
翌日。
一緒に登校するでもない
たまにあることだが、お互いに避けようとするのに奴も同じ動きをしたことで、一時的に出入り口付近で見つめ合っているという不本意な光景が生じている。
その光景を見られてどういうわけか、周りでひそひそ話が開始された。
今まで亜南とは見知らぬ同級生扱いであり、少なくとも噂されるような怪しい関係として言われることが無かった。そんな関係性なのにひそひそとされるとか、正直言って気分が悪すぎる。
「どうもしてない。そういうわけだから、左に避けてもらえると助かる」
「あーはいはい」
さすがに分かれよと思いながら俺が左に避けようとするも、どういうわけか亜南は右に避けて来た。絶対わざとだろ。
これはさすがに警告しないと駄目だ。ということで、不本意ながら奴に近づき声をかけた。
「……おい」
「いくら小声でも、女子に対する言葉遣いは気をつけた方がよろしいのでは?」
「くっ……」
「それと、興味のない女子の顔に不用意に近づくのは……」
「――っ」
これは完全なる油断。他の女子と接する時もここまで近づいたことは無かったのに、気づけば亜南の髪の香りが分かる位置にまで顔を近づけていた。
背は俺の方が若干高く、気にしなければ奴の顔に近づくことなどあり得ない。それがまさかの動きを見せてしまったことで、教室の中は無駄ににぎやかになっている。
らしからぬショートボブな亜南の髪が間近すぎて思わずのけぞると、一瞬亜南の口元が不敵に笑ったような気がした。
まさか――わざと?
俺をからかって奴に何のメリットが……いや、女子を遠ざけることが目的か。
そんなアクシデントがあった影響か、この日俺に話しかけてくる女子は誰もおらず、ムカつきながら放課後になった。
「じゃ、また明日な」
「あ、うん。またね陽斗くん!」
「またー」
「はーい」
――といった感じで、クラスの女子たちは帰りのあいさつだけは何とかしてくれた。同じクラスの女子の何人かも、数か月だけ彼女になったことがある。
奴のせいであっさり別れているものの、別に嫌われたわけでもないのでそこだけ救われている感。
学校を出て久しぶりにぼっちの状態で歩いていると、前方に奴の姿があった。文句の一つでも言ってやろうと思ったが、俺から声をかける行為はあまりに危険すぎる。
なぜなら――
「よぉ、陽斗。声かけねーの?」
「奴が前を歩いてるってだけなのに、かける意味なんてねーよ」
「空上って陽斗の幼馴染なんだよな? だったら意識する必要なくね?」
「してねーし!」
――といった感じで、ここぞとばかりに茶化してくるダチ、
「いつもとっかえひっかえしてる陽斗を生温かく見守ってくれてるんだから、たまにはおごってやればいいんじゃねーの?」
「うるせーな。だったら律が声かければいいだろ」
「いや、無理。空上に声なんてかけたら他の野郎に文句言われる。陽斗は知らないだろうけど、空上は人気あるからな」
亜南が人気あるだって? ワイセツな音を流しまくるアレが?
そういう迷惑行為をしてくるせいか、いつも別の女子と一緒に歩いている時は全く視界に入ることが無かった。それなのに今日は何でこうもうざいくらいに目につくのか。
律とくだらない話をしながら前方を気にしないように歩いていると、いつの間にか奴の姿が消えていた。
まさか瞬間移動でもしたのか?
などとくだらないことを思っても仕方ないので、たまにはダチとファミレスの《スイテルヤ》に寄るのも悪くないということで寄ることに。
店内に入ると、夕方の割に空いていてすぐに案内された。
さすが店の名前は伊達じゃない。
「お、おい、陽斗。右斜め前方にいるのって……空上じゃね?」
「……らしいな」
おひとりさま好きだし、ここにいても不思議は無いな。いないと思ったらまさかここで遭遇するとは想定外だが。
「おかしいだろ……」
「? 何が?」
「あんな可愛い女子がぼっちでファミレスとか。やっぱオレ先帰るわ。声かけて一緒に食っとけマジで! じゃーな!」
よく分からない解釈をした律は、何も頼まずにとっとと外へ出ていく。残された二人用の席で、俺は見事にぼっちとなった。
仕方ないので適当にラテを注文して、飲んだらすぐ帰ることにするはずが……。
奴にすぐ気づかれ、俺のいるテーブル席の前に立っていた。
「何か用?」
「……おひとりさまでファミレスとか、楽しいのか?」
「楽しいけど? そういう陽斗は女子の代わりに男子連れて来たくせに、やっぱりフラれた系? だからって安易に近づいて来るのは最弱すぎ」
「ちげーし」
くそう……案内された席がそこだっただけなのに何も言えない。
何でダチにすらフラれたことにされてるのかも納得いかないが、ここで声を張り上げるわけにもいかないし圧倒的に不利すぎる。
こんな俺を見て不敵に笑うとか、何なんだこいつは。
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