第17話 幼馴染ちゃんねる 前編

「面白いよねーこの人たちって」


 休みの日の自分の部屋。

 なぜかベッドの上には、何の悪気も感じない幼馴染が寝転がっている。


「……見てないから知らないな」

「あっ、そうなの? ノートパソコンなんか置いちゃってるくせに、全く使わないのはもったいなくない?」


 亜南と違い、俺は動画をあまり見ないし登録もしていない。ベッドの枕元にノートパソコンを置いていたのも、コンセントが近いというそれだけのことだ。


「そんなの俺の自由だろ。それに、俺はお前と違って動画を見るために使わないしな」


 ノートパソコンでやっていたことといえば、気になったことを検索したりたまに簡単なゲームをした程度で、動画はあまり見たことが無かった。


 それだけに、亜南がハマっているというASMRの存在も最近まで知らなかったくらい疎いといえる。


「うわ、無駄! 無駄にも程があるんだけどー……どうせ検索もアレだろ? 彼女をどうやって家に入れられるのか? とか、部屋に連れ込んだ後はどうするか。とかアホな検索しかしてないんだろー!」

「ちげー! 俺は真面目なんだよ! そもそもいつまで俺のベッドを占領してるつもりだ? いくら幼馴染だからって無防備すぎるぞ」

「ほぉー? 無防備……ウチが?」


 あまりにも無警戒すぎる。亜南なんぞに手を出すはずもないとはいえ、ラフな格好をしているだけでも目のやり場に困る。


「陽斗」

「あん?」

「ウチを陽斗のベッドでぼっち状態にするのはひどくない?」


 またおかしなことを言い出す奴め。

 俺のベッドの大きさはシングルよりやや広めで、多少寝返りを打っても落ちない。


 だからといって二人並んで寝るほどの面積は無く、もし横並びで寝てもどっちかの腕や足がはみ出してしまう。


 亜南は細身ではあるものの小柄ではないし、そういう意味でも二人同時に寝そべるのは困難といえる。


「はぁ? そもそもお前が勝手に寝転がってるし、どうも出来ないだろ……」

「つべこべ言わずに寝ろ!」

「うわっ!?」


 ちょっとの油断だった。


 ごろごろと寝転がる亜南に対して体に力を入れて話してたでも無かった俺は、腕を力強く引っ張られただけで簡単に引きずり込まれていた。


「…………」

「……何とか言えば?」

「俺の今の状態はどういう?」

「ウチを覆うようにして今にも襲いそうな体勢」


 それは嘘だな。目の前が真っ暗な状態にある時点で、目を開けられないくらいどこかに顔をくっつけているし、片足はベッドからはみ出ていて床に届いている。


 つまり今の状態は、奴によって身動きが取れないということを意味しているはずだ。


「はが……せ。今すぐ解放し……ふぐっ――」

「あーはいはい。というか、自分のベッドの大きさくらい把握してろよ」

「してるわ!!」


 勢いよく頭を動かしてようやく解放されたが、どうやらお得意のヘッドロックをかけていたらしい。


 そして今、目の前には亜南の横顔が見えている。


「感想は?」

「お前の顔が見えている」

「どういう妄想をしてたのか知らないけど、ウチが横になってたくらいで陽斗の全身がはみ出るなんてあり得ないから!」

「……意外に華奢なわけか」

「ウチのことをチラ見しかしてなかった陽斗がアホなだけ! 分かったか!」


 こいつの言うとおり、亜南のことはほとんど見てなかった。目をまともに合わせることもあまり無いししてこなかったというのが現実だ。


 しかしベッドの上に寝転がった状態で、初めて亜南をまともに見ている。だからといって緊張は生じないけど。


「分かった。で、次は何を?」

「動画を一緒に見ろ! ウチがいつも見てるヤツを見せてやる!!」

「……お前のオススメってアレだろ? 卑猥な音の……」

「違うし! とにかく見ろ! 話はそれからだ!!」


 すぐ真横にいるから逆らうのは危険だ。

 

 声色が明らかに怒っているし噛みつかれても厄介なので、大人しく俺はそのページに向かってクリックをすることにした。

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