おひとりさま好き幼馴染に鍵を預けたら、ガチ恋モードに移行されました。

遥 かずら

第1話 フラれた俺を笑うヤツ

陽斗はるとくん、ごめんなさい! いい人だし優しいし、一番に想ってくれてるのは嬉しいけど、私の中ではどうしても一番にならなかったです。だからごめんなさいっ」


 ――またフラれた……。

 大体いつも、ある程度の期間が経ってから突然のようにフラれることが多い。


 この記録は高1の入学時から始まり、高2の夏手前に至るまで三ヶ月ごとにループしている。三ヶ月ごとに一緒に歩く女子が変わることから、勝手に軽い男子と認定されているのも原因の一つだ。


 自分で言うのもなんだけど俺は決して特別イケてる男子じゃない。それなのに、かろうじて付き合う期間が途切れないという、いいのか悪いのか分からない状態が続いている。


 そしてフラれる時は決まって自宅に呼んだ時だ。何故か家に入る直前になって突然フラれてしまう。ずっと何でなのかと思い悩んでいたが、何となくその原因が判明しつつあった。


 そしてが今まさに、ニヤニヤしながら俺を覗き込んでいる最中だ。


「そこぉ!! 俺が気付かないとでも思ってんの?」


 俺の自宅は賃貸マンションの一室。中学の時に区画整理に引っかかり、近所丸ごとタワーマンションで暮らすことになった。昼間や夕方にかけて家族はもちろん、他のフロアも静かなもので、付き合い始めの彼女を呼ぶのには最高の環境だったりする。しかし問題はすぐ隣に住んでいる奴の存在にあった。


 自宅の扉と隣の扉はすぐ隣。普通だったら気にすることなく過ごせるはずなのに、よりにもよって隣には腐れ縁とも言うべき幼馴染が住んでいる。

 

 そしてどういうわけか、俺が毎回フラれる原因を作り出しているという厄介な隣人だ。そいつは俺と女子が来るのを見計らって、隣の部屋でわざとそういう音声を流す悪いクセがあった。


 それだけでもクレームものだが、原因を作り出しているうえ、俺がフラれる様子を確実にこっそりと眺めているからタチが悪い。


「何のことかさっぱりだなぁ。ウチは廊下の空気を入れるために扉を開けてるだけに過ぎないんだけど?」

「嘘つけ! さっきまで18禁なASMR動画を流してただろうが! じゃあ何でニヤけたツラして俺を見てんだよ!!」

「いやぁ……いつもおモテになられてる陽斗が、何~んでいつも部屋に連れ込む直前でフラれるのか、何が原因なのかウチにはさっぱりなもので」


 俺が出した結論――原因は全てこいつにあるということだ。


「お前のせいに決まってんだろ!! 俺にちょっかい出すとか悪い冗談にも程があるぞ。何とか言え! 亜南!」


 幼馴染の隣人――空上そらうえ亜南あなみ

 

 すめらぎ家と空上家は昔から近所づきあいがあり、俺と亜南も園児の頃からずっと付き合いがある。それ自体に何のありがたみも無く、お隣さんというだけの関係を構築し続けてきただけに過ぎない。


 百歩譲って幼馴染の隣人は許すとしても、こいつの悪趣味な嫌がらせだけはどうしても許しがたい。それさえ無ければ、俺のフラれ記録は更新することが無かったからだ。


 人の趣味にケチつけるつもりは無いが、まるで狙ったようにして音を出してくるから疑いたくなる。


「ぼっちなウチの楽しみと言ったら、それくらいしかないんすよ。それなのに趣味ですら文句を言うなんて、陽斗はそこまでちいせぇ男に成り下がったとか言わないよねぇ?」


 くそぅ、いちいち頭に来させようとする返しがムカつく。

 

 亜南は俺の家と違い家の人が海外に仕事に行くことが多く、ほとんど帰って来ない。そのせいか一人だけで楽しみを見つけるを堪能するようになり、気づけば俺に悪趣味なことをお披露目することが増えた。


 クラスにいる女子達と遊びに行くよりも、おひとりさまを満喫する方が楽しいらしく、俺が知る限りいつも家の中にこもっていることが多い。


「趣味に文句なんて無い。ただ何でよりにもよってのタイミングで楽しむんだよ! 同じフロアに俺の家とお前の家しかいないって言っても音漏れはマジでやばいだろ」

「ちっちっち。ちいせぇことは言わんでもよくない? 陽斗の家の人は夜まで帰って来ないし、気にしなくていいじゃんか!」

「いや、俺が気にしなくても他のじょ――」

「18禁のASMRごときが原因でフラれるとか、ウチのせいにするのはどうなん? 何なら明日直接聞いとくけど」

「それはやめろ! 亜南に関係ねーし」


 駄目だこいつ……俺を完全におちょくって楽しんでやがる。

 こんなぼっちな幼馴染に屈してたまるか。


「まぁ、アレだよ。ウチが代わりの女子を紹介するから!」

「お前女子の友達いねーだろ!」

「つくづく陽斗は女子に失礼な奴だな! そんなんで長く付き合おうとする彼女なんて出来ると思ってんの? 甘ぇぜ、陽斗は!」

「うるせーな。とにかく明日余計な真似すんなよな!」


 念には念を入れるようにして、亜南を睨みつける。

 すると、亜南が扉を閉めながら何かボソッと言い放った。


「どうせ本気じゃなかったくせに……」


 よく聞こえなかったが、どうせ負け惜しみなセリフに違いない。

 とにかく仕切り直しだ。


 また明日から別の女子に告って交際をスタートしなければ。

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