第11話 閑話:アナミ、動く

 珍しく佐紀ちゃんが連絡してきた。

 陽斗のことだと思うけど、本当にそれでいいのか聞いてきた感じだと思う。

 

 そんなのとっくに出てるし、おひとりさまを堪能してた頃からちっとも変わってないから答えは決まってる。


「うん、うん……もうすぐ夏休みに入るしさすがに動くよ」

「合鍵……は?」

「いったん返しといた」

「切札だったのになぜ?」

「駄目だよ。陽斗の気持ち入ってない鍵に嬉しさなんて無いし」


 鍵は正直どうしようかなとも思ったけど、納得出来るはずも無かったから返しといて正解。あんな渡され方して嬉しくなるのは無いでしょ。


 それに陽斗のママさん情報によれば、どのみち陽斗はウチに鍵を預けて来るのは確実。だったら少しは考えさせることも必要だしね。


 そもそもあの野郎の気持ちはまだまだお子様。どうせ現実世界から逃亡して、ウチが告ったところで逃げるに決まってる。


「オレ、はどうすればいい? 協力した方がいい?」

「佐紀ちゃんって商店街に顔利くじゃん? 頼まれてもいい? 夏休みにやりたいことがあるんだよねー。そこに顔利くなら、お願いしたいなーと」

「……聞いてみる。けど」

「うん、女子率多いんでしょ、そこ」

「……ん」


 それでもあのバカにはいいクスリになるし、やらせる価値はある。もっとも、男子と女子じゃ内容が違うだろうし、あいつの体力が他の女子にいくかは別問題。


「多分大丈夫。陽斗、体力ないし最弱だから」

「オレも陽斗のダチに根回ししとく。空上がいるって言えば釣れるから」

「陽斗のダチって、おなクラの? というか友達なんていたんだ、あいつ」

「一応いるっぽい」


 陽斗に男友達か。それはいいかもね。そこまで効き目が無くても抑止になればいいくらいで考えておこう。


「うん、じゃあ佐紀ちゃん。よろー」

「ん。進めとく」


 これで先のことは何とかなるとして、でもその為にはあのバカから直接の気持ちで預からないと始まりそうにないかな。


 動いて、あのバカを動かしてやる。

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