第10話 本気でも嘘でも

 なんてこった。一体いつの間にスペアを作っていたんだ?

 それとも俺を締め出した時に親からもらっていたんじゃないよな。


「お前いくら何でもやりすぎじゃないのか? スペアキーで俺の家に入りまくりじゃないかよ!」

「陽斗に渡したその鍵、ダミーだから」

「へっ? ダミー……ニセの鍵!? え、でも感触は……」


 さすがに自分の家の鍵の感触を間違うはずが無い。しかし仮にダミーだとしたら一体どこの鍵を握らされたのか。


「その鍵を使って試してみれば?」


 何の鍵なのか不明だし不安なので、スクバに入れておいた鍵を出して家の鍵穴に差してみた。


「入らないぞ……」

「うん、そうだろうね。もしかしたら、隣のに入るかもね?」

「隣……お前の家?」


 うんうんと頷きながら、亜南は俺の反応を待っている。

 試しで鍵穴に差し込むと何の違和感も無く鍵が奥まで差し込まれて行く。


 顔だけ出してた亜南がようやく家の中から出て来たかと思えば、


「それ、ウチの家の鍵だもん」


 などと、亜南は悪びれることなく白状した。

 

 今度は失くさないようにスクバのポケットに入れといたのが亜南の家鍵だったとか、シャレにならないぞ。


「何で亜南の家鍵を俺に渡したんだよ!」

「不公平だなぁと思ったから。ウチは陽斗の家に入り放題なのに、陽斗は自分の家にしか入れないじゃん? だからもし気付いてくれたら入ってくれてもよかったかなぁと」

「いや、気づくわけねーし……入れるわけねーし」

「それは残念。じゃ、交換!」


 いまいち納得出来ないが亜南の家の鍵を俺が持っていても仕方が無いので、返してやると、亜南も俺の家鍵を返して来た。


「え、いいのか?」

「別にいいよ。ウチも納得いかなかったし」

「……というと?」

「陽斗の意思で渡してくれたわけじゃないじゃん? 優愛さんに頼まれたから嫌々ながら預けたんでしょ?」


 そういやそうだな。俺から預けたというんじゃなくて、親から強制的に頼まれたからこその預けだった。


「嫌々というか、まぁ……」

「だからウチも真面目に考えを変える時が来たんだー」


 こいつが真面目とか、何を言ってるんだって話になるが。

 ここで茶化すと手を出して来そうだし、俺も真面目に聞いておこう。


「例えばどういう考えに?」

「ウチね、もう決めたんだー」

「決めた? 何を?」


 いつになく真剣な表情を見せてるような気がする。もしかして俺への態度を改めて、真面目な女子にでも変わるつもりがあるのだろうか。


「陽斗に対して本気になろうかなーと」

「うん? 本気? からかうのをやめて本気で喧嘩でも売って来るのか?」


 成績は亜南の方がいいし、腕っぷしも俺より上。この前のヘッドロックも結構痛かった。あらゆる面で本気なんか出されても勝ち目がないぞ。


「違うし! そうじゃなくて、陽斗が本気になれる女子を目指すの。陽斗って、イケメンじゃないじゃん? なのに無駄に女子にモテていい気になってるから勘違い野郎になっちゃってて痛い奴だし、男子の敵も多そうだからウチが変えてやるの!」


 はっきり言うな。イケメンじゃないのはしょうがないし、男のダチも少ない。そういえば女子の友達もいないような気がする。


「――つまりどういうこと?」

「陽斗の彼女になるんで、よろしくー!」

「…………何だって?」

「だからー、彼女! 陽斗が散々失敗に終わってる行動の成功パターンのやつ!」


 誰のせいで失敗してるんだって話になるが。


「真面目ってのはつまり?」

「陽斗のことは、今までぶっちゃけどうでもいい存在っていうか、その辺に落ちてるホコリ程度にしか思って無かったんだ。でも、考えを変えたの」


 その辺のホコリってひどいことを言う奴だな。


「おひとりさま好きなお前が冗談だよな?」

「違うし! 本気でもあるし、嘘でも無いよ?」

「家の鍵のことはどうすれば……」


 鍵を返してもらったのはいいとしても、後で親に怒られるのは確定だ。そうかといって今の状況で預けるわけにはいかないよな。


「うん、もちろん陽斗からウチに自分の意思で預けてもらいたいかな。だって、気持ち入って無いの分かるしバレバレだし。優愛さんに頼まれて投げやりな気持ちで預けられても嬉しくないし」


 隣に住む幼馴染ってだけではつまらなくなってきたってわけか。

 俺の今までの行動を邪魔して来たのは、こいつの趣味だと思われるが……。


「で、具体的にどうすればいいんだ?」

「そんなの知らないし。陽斗が自分で考えればよくない? とにかく、優愛さんに怒られたとしても嫌々で預けるの禁止だから! 以上! じゃあまた明日ー」


 あっくそ、逃げられたか。素早過ぎるだろ。

 亜南が俺に本気? 


 この状態で鍵を預ける段階に進むのは、さすがに難易度が高いだろ。

 とりあえず親に説教されてから考えることにするしかなさそうだ。

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