第9話 どこかの視線
「
「うーん、そうだなぁ……スイテルヤに寄ってから決めるってことでいいかな?」
「うん、いいよ!」
亜南のウソ泣きと親によって締め出された日の翌日。
以前から好意を寄せられていた隣クラスの女子、
ポニテで運動部系の部活女子は、普段は部活に忙しくて中々会うことが難しい。それだけに今回一緒に出掛けられることになったのは幸運だった。
亜南や姫野に邪魔されないように昼休みに中庭で会ったうえ、ウワサ話も気にしないタイプだったのが幸いして、ようやく前進する感じだ。
後は無事に放課後を迎えるだけなわけだが……。
「お、陽斗。空上がお前のこと待ってんぞ?」
「亜南が? どこで?」
「いやー空上に直接声をかけられてマジでやばい! 可愛いわ、やっぱ。場所なんて教室に決まってんだろ。とにかく伝えたからな!」
教室に戻ろうとしたら律が声をかけて来た。そうかと思えば、亜南からの言づてを頼まれて嬉しそうにさっさといなくなった。
こういう時同じクラスにいるというだけのことが、あまりにも厄介すぎると思ってしまう。
亜南が座る席に近づくと、奴はわざとらしく顎ひじをつき、ニヤニヤしてその姿勢のまま俺を見つめまくってくる。
何なんだこいつ。あざとすぎるだろ。
「おやおやぁ? そんなに浮かれてどこへ行ってきたんですかぁ?」
「お前に関係無いだろ」
「へぇぇ……もしかして、懲りずにおデートかなぁ?」
「そう決めつけるのもどうなんだか。そういうお前は暇なのか?」
「おひとりさまだからって暇じゃないですよ。こう見えてわたし、多忙なものでー」
絶対嘘だな。一人で動くこいつの行動範囲は大体決まってファミレスだし、間違っても友達のような存在と出かけるわけがない。
まぁ男の娘という友達は抜かすとして。
「そうか。お前と違って俺は今日も忙しい。だから邪魔すんなよな?」
「するわけないじゃん。ウチも忙しいって言ったはずだけど、耳掃除してるのかな? それともして欲しい感じ?」
何を言っても反論してくるし、対抗してくるこいつと会話は成立しない。それに昼休みに亜南と話をしてると何かとウワサされかねないし厄介だ。
「じゃ、そういうことだからマジで邪魔するなよ?」
「あー……はいはい」
くそぅ。絶対邪魔してくるな。何で隣に住んでるうえに鍵を預けてしまったのか。スペアキーが届いたから家に入るのは問題無いとしても、勝手に入られるのはどうなんだ。
「あっ、陽斗くん」
何だ? 俺に近寄って来るなんて何をするつもりだ。
「ん? まだ何か……」
「これ、返しておくね。ほら、もうすぐ予鈴なるから受け取って」
「んん?」
「あーん、もう! にぶっ! 鈍すぎ!!」
俺のもたつきに焦ったのか、亜南は無理やり俺の手に何か硬い物を握らせて来た。何か怪しい物かと思ったが、どうやら俺の家の鍵のようだ。
俺はすでにスペアキーを持ってるのに、何で今さら鍵を返して来たのか。せっかく親公認で鍵を渡したのに謎な行動を取る奴め。
しかしこれで俺の家に勝手に入って来る心配はない。余計な神経を使う必要があるのは、隣の扉が開いている時だけで済むし解決だな。
「陽斗くん、お待たせです」
「大丈夫。待ってないよ。じゃあ、行こうか」
「うん」
鍵の件が不気味だったものの、放課後になり待ち合わせをしていた女子に会うまでに一切の邪魔は無かった。何かするでもなくまずは関係を長続きさせるためにファミレスに行って、それからどこに行くか決めることにする。
スイテルヤで軽くコーヒーを飲んだ後、待田さんはタワマンに行ってみたいと言い出した。待田さんは普通に一戸建てらしく、タワマンの中がどうなっているのか興味があるらしい。
これには俺も驚いてどうしようかと迷ったが――
「――えっと、部屋の前まででいいなら……」
「ありがと! さすがに皇くんのお家の中にお邪魔出来るほど親しくないし、そこまででいいよ」
「……だよね」
それはそうだよな。ただでさえやっと一緒に歩くことが出来ているのに、家の中にまでは行こうと思わないか。
そして俺の家の前まで案内したその時、異変が起きた。
まだ親が帰る時間でも無いのに、明らかに家のドアがわずかながらに開いていて、中から音が漏れ聞こえて来る。まさかだよな?
「ね、ねぇ、皇くん」
「うん……」
「何か、視線……感じない?」
「え? さすがに視線は感じないけど、ちなみにどこから?」
小柄な待田さんは俺の肩に掴まって隠れながら、家のドア周辺を指している。彼女には見えてないぽいが、ほんのわずかな隙間から確かに視線のような気配があった。
鍵は返してもらったのに、まさかスペアのスペアなんじゃないよな。
「皇くん、あの……今日はありがとう。また誘ってね! 帰ります」
「えっあ――」
もしやちょっと怖い場所だと誤解させてしまったのか。
それにしても……。
「おいっ!! 見えているんだよな? そこにいるのは亜南だろ?」
俺の家と亜南の家しか無いフロアで俺の声が響き渡る。
声の反響が静まったところで、俺の家のドアが静かに開き始めた。
「陽斗くん、おかえりー! おデートは楽しめた?」
何の悪気も無い顔で出て来たのはもちろん、
「マジかよ……マジで亜南がいやがった」
「ちっちっち、甘い、甘いんだよ」
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