第45話 ガチな甘さで始めよう! (完)

「こらっ! 陽斗!! いい加減起きろー!」

「……はへっ?」

「ずっと起こしてるウチにいつまではずかしめを受けさせる気? ウチの身にもなれっての! 起きろー!!」


 あれっ?

 確か俺はのぼせた亜南を寝かせて、俺も体力を回復しようとずっとそばにいてやったはず。


 それなのに亜南が俺を起こしているとか、どういう状況なんだこれは。

 これはきっと悪夢だな、きっとそうに違いない。


すめらぎ! おい、もうすぐ教室移動だ。寝ぼけてないでさっさと目を覚ませ!!」

「はいっ!? えっ? せ、先生ですか?」

「先生だ。少なくとも空上そらうえではないな」


 目覚めたらまさかの教室。

 ――ということは、亜南の告白と裸のアレは夢なのか。

 

「あ、教室移動ですよね。分かりました。ありがとうございます!」

「お礼を言うのは先生ではなく、彼女の方だな。きちんと謝っておくように!」

「……彼女」


 落ち着いて自分の席から周りを見回すと、すでに他の生徒の姿は無く残っているのは亜南だけのようだ。


 しかも舌を出して挑発しまくりだ。昨日の出来事は夢だったとか冗談じゃないんだが。とにかく席を立って奴に問い詰めねば。


「おい、亜南!! どういうことだよ!」

「ウチが何か? ウチは親切心で起こしてあげてただけですけど?」


 やはり戻っているな。


「何が親切……いや、というか、何で俺たち教室にいるんだよ?」

「話すと長くなるけど、サボる?」

「どうせこれも夢落ちなんだろ? サボってやるよ!」

「現実逃避は良くないなー。まぁいいけど。先生にはウチから言っとくから」


 何が先生だ。全て夢だろこんなのは。何てことは無い。そんなことを思いながら学校の廊下を二人だけで歩く。


 いくら教室移動だからって誰もすれ違わないのが何よりの。


「で、どこまで行くんだ?」

「何か勝手にキレてるし、頭を冷やしてもらうためにも屋上に行くし」

「望むところだ!!」

「……あのさ、陽斗はウチのことが嫌いじゃなくて好きなんだろ?」


 どうせ夢の話だろうし、そのまま素直に打ち明けてやる。このまま屋上に上がってしまえば悪夢から覚めるだろうし。


「好きに決まってるだろ。好き以外にあるかっての! 責任も感じてるし嫌いになるわけないだろ」


 そんなことを告白しつつ、屋上へ上がったところで……


「はぁーあ。ようやくかぁ……本っっ当に、長かったー」


 ――などと、開放感のある屋上で亜南が腕を思いきり伸ばして解放感を露わにしている。


「長いかどうかなんて人それぞれだろ。少なくとも俺の方が長かったぞ。それこそガキの頃からの付き合いだし」

「つまり、初めて出会った頃からと?」

「そりゃそうだろ! でもガキの頃にそんな告白めいた言葉なんて出せるはずもなかっただろうしな。でも今なら素直な気持ちで『好き』って言えるな」


 ものすごく単純な言葉だ。どうせこれも夢落ちだ。何度でも言える。

 

「ん、うん……陽斗からの告白は嬉しい。陽斗もウチが好き。陽斗に甘えたい……肩も胸の上も、全部陽斗に預けたい」


 まさかの涙とか、マジか。


「俺も同じだ」

「ん、ウチも」


 何にしてもこいつにとっても俺にとっても、ぐだぐだと続いていた関係――それが俺の素直で単純な一言で終わりを告げようとしている。


 終わるといっても関係が終わるという意味じゃなく、恐れなくてもいいという意味だ。ずっと俺に想いを抱き続けていた、何の怖さも無い可愛い幼馴染。


 亜南との関係はきっと俺が今までフラれ続けてきた数多の彼女候補以上のものになっていくはず。さっき見せた涙も、甘えた態度も声も仕草も……全て俺とだったと思い知ったからだ。


「な、なんというか、鈍すぎた……よな?」

「鈍いんじゃなくて大馬鹿野郎の変態野郎なだけだし」


 え、あれ?

 さっきまでの子猫みたいな可愛さはどこに行ったんだ……。


 いやいや、聞き間違えだよな。


「そんな照れること無いのに。亜南……夢の中みたいに俺の肩に寄りかかっても――」


 そう言いながら亜南の肩に手を置いて、俺に寄りかからせる。

 ――はずが。


「バッカじゃないの!? 調子に乗んな! そういう真似が似合うようになるまで数年かかるってこと忘れんなよ?」

「数年って……え、だってお前さっき……というか、夢じゃないの?」

「はん! 夢とかで逃げるなよ? ウチをその辺の、それこそ陽斗が今まで楽勝に連れ込もうとしてきた女子どもと同じに見てるんなら、それは間違いだかんな!!」

「えーと、俺のことは――」

「好きだけど? だから何?」


 こいつ……素直じゃ無さすぎるだろ。 

 こんな素直じゃない奴にはお仕置きが必要だ。


「い、いい気になるなよ亜南」

「……!?」


 多少強引ながら亜南の頭を寄せ、口を重ねた。勢い任せなせいで感触は不明だったが。


「……気は済んだか?」

「あ、うん……えっと、この行為はあのー俺の素直な気持ちを表したもので……つまり」

「キスくらいでバカなの? でもそれが陽斗にとっての責任の取り方ってことなら許す」

「え、責任?」

「取るって言ったじゃん! 昨日!」


 夢でも無ければ悪夢でもない?


 -----


「――で、あの後に陽斗のママさん呼んで、陽斗を運んで寝かせたわけ。ウチはとっくに着替えてたからなかったことにしてあげたけど、ママさんは気付いてた」


 嘘だろ?


 のぼせた亜南を寝かしつけたはずが、俺の寝落ちとか。

 しかも親バレ。


「学校へはどうやって?」

「車で運んで、陽斗の席で寝かせておいた。お分かり?」

「……マジかよ。どれだけ寝まくったんだ俺は」


 のぼせた本人よりも俺の方が疲労困憊だったとかシャレになってない。


「それはともかくさ、先生には伝えておいたから」

「……何を?」


 何か嫌な予感しかしないが。


 そもそも教室移動とか以前に、先生は俺の彼女が亜南なのだと普通に言っていた。

 まさか……


「陽斗が落第しても怒らないで大丈夫です。ウチが面倒見ることが確定したので! って言っておいたよ」

「はぁ!? え? テストの結果はどうなるんだ?」

「受けても受けなくても陽斗はどうにもならないから、良かったね」

「嘘……だろ!?」


 マジな言葉だったのか。まさか亜南のあの言葉の意味って。


「それってつまり――」

「うん。ウチが陽斗をもらってあげる! 陽斗はウチのことが好きなんだし、ウチも陽斗のことが好きだから当然だよね! 責任も取るって言ってたし」

「あっ……」


 あああ……


 そうか、あの時のぼせた時のことを全て覚えていて、しかもこいつはそれをガチで受け止めていたと。


 どうりで甘えやら何やらをさらけ出してきたわけか。


「あーうん……」

「何か文句でも言いたそうだけど?」

「いや、亜南が甘えることが出来るのも俺だけってことが分かったし、それならそれで受け入れるしかないなと」


 色んな女子にあれこれ手を出しかけたのも、結局こいつにちょっかいを出そうとしてただけだしな。


 こうなるのは鍵を渡してから目に見えていた。


「好きだからいいじゃん?」

「っていうか、徐々にでも甘えてくれる……んだよな?」

「そこはガチなんで! ただいつも甘えると思ったら大間違いだし、いい気になるなよ? でも好きだからいいよね、それで」

「まぁ、うん。俺もいいよそれで。好きだし」


 むしろ亜南との恋はこれから始まるってことか。


「よしっ! 佐紀ちゃんにも教えてあげないとね! 陽斗と一つになりましたーって!」


 何か誤解を招きそうな言い方だな。

 ――じゃなくて。


「へ? 何で姫野が出て来るんだ……」

「まぁまぁ。細かいことは気にすんなよ!」


 姫野のこともそうだし、怪しい壁の穴のことも聞きたいことはたくさんある。でも、そういうのもこれから始めていけばいいってことだろうな。


「これからガチでよろしく! 亜南」

「まぁ、程々でいいし。教室とかで甘えてくるのはやめてよね」

「するわけないだろ!」


 やはり可愛くない、いや可愛い。

 でも、ずっとこいつとそういうやり取りをすることになると思うと……。


「えー? してくれてもいいのに。これからも好きだし、ずっと好きだからよろしくね、陽斗!」

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おひとりさま好き幼馴染に鍵を預けたら、ガチ恋モードに移行されました。 遥 かずら @hkz7

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