第27話 反撃と罠のち、甘やかし 2

 いくら怪力な亜南でも、両腕をしっかり俺の腕で抑えられれば何も出来ない。

 この作戦は大当たりだ。


 あとは少しずつ後退、あのソファめがけて押し倒すように反転させれば完璧。

 俺の見事な作戦にまいったのか、亜南は全く抵抗するそぶりを見せない。


 二人掛けのソファまでは数十センチ。

 俺も後ろの一部しか視界に入って来ないが、チラ見だけで何とかなる。


「……何だかなー」

「何だよ?」

「陽斗ってやっぱり……んーまぁいいや。何でもない」


 いつもはズケズケと言うくせにはっきりと言わないのは珍しい。

 俺に両脇を拘束されて、あきらめの境地に入ったかもしれないな。


 そんなこんなで、ソファまであと少しのところに迫った。

 後は勢いよく体の向きを変えて、亜南を押し倒す姿勢に変えるだけだ。


 よし、やる。やってやる。

 一瞬の隙を作ることになるが、何とかなるはず。


「覚悟しろよ、亜南!」

「……」


 スルッと腕の力を抜く。

 そのまま亜南の肩を掴み、向きを変えながら正面に――。


「甘い、甘いよ……陽斗」

「えっ――?」

「やぁぁぁっ!!」


 亜南の顔を正面に押し倒した――はずだった。

 それなのに俺の頭は床にあって、亜南の顔が上にある。


「うっううう、い、痛ぇ……何が起きた……んだ」

「残念でしたー! 少し胸に手を置いただけだったね」


 こいつの言うとおり、俺の手のひらはわずかな膨らみを感じた。

 しかしその感触を確かめる前に俺はこいつによって倒されていた。


 襟元を激しく掴まれ、気づけばこのザマだった。


「何を、した……んだ?」

「正解は背負い投げ!! 油断したら駄目って言ったよ?」

「な、投げ技……? そんなバカな……というか、これはあんまりだろ」

「うん、これ以上バカになったら困るから手加減してあげたけど、多分立てないと思う。だから、今日はもういいんじゃない?」

「くっううぅ……こんなはず――じゃなかったのに……」


 俺は亜南に抱きかかえられながら意識を閉ざした。

 せっかくマウントを取れるチャンスだったのに。


 俺の反撃から亜南の罠発動まで、全てこいつの思惑通りだったと気づくのは、数時間後のことになる。


 俺を落として一体どうするつもりがあるのか……。 


「佐紀ちゃん、もういいよ。入って来て一緒に運んで!」

「そいつ、大丈夫? ヤワにも程があり過ぎない?」

「平気。手加減したし。でもこれで、ウチは思いきり陽斗を……あはっ」

「……本気なのは知ってるけど、ガチでやるならいい加減はっきりさせた方がいいと思う」

「うん、そうするつもり」

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