第26話 反撃と罠のち、甘やかし 1
足だけではどうにもならなかった。しかし全身を自由に動かせるというのなら全然話は違って来る。
幸いにしてこの場に姫野の姿は無く、見事に俺と亜南の二人だけ。
こんな絶好の機会は滅多に無い。亜南は外や家では恐ろしく力を発揮するが、学校の中ではかなり抑える傾向にある。
そうじゃないと目立ってしまうからだ。力を抑えている今なら、非力な俺の力でこいつを抑え込めるはず。
「……で?」
「え?」
「束縛状態から解放されたから何かするつもりなんだろ? それとも本当にトイレに行くのかな?」
くっ、こいつ……全てお見通しでわざと俺に隙を作った?
いやいや、そんなまさか。
「いやっ、もちろんトイレに――」
「へぇー……何だ、結局手も足も出してこないわけか。ヘタレだもんね。仕方ないかーヘタレな陽斗じゃ。はぁーあー」
もちろんこれは奴が完全に油断をする為の弱気な態度をしているに過ぎない。それくらい用心しないと、こいつは全く油断も隙も生じないからだ。
「じゃ、じゃあ俺はトイレに行くし、そのまま帰るからな!」
「あ、そう。じゃあついて行こうかな」
「――え」
それは困るぞ。非常に困る。
まさか男子トイレの中に入ってくるつもりじゃないよな。
「だってさ、用も無いのにこんな居心地の悪い部屋に居続ける意味なんてなくない? どうせ帰る家が同じなんだから、陽斗について行くのは変でも何でも無いと思うけど?」
風紀委員の部屋に無関係な男女の生徒がいるだけでもやばい。その点は亜南の言うことが正しいか。
いやでも、この部屋じゃないと出来ない。
そうなると先に部屋を出てもらって――。
「だ、だよな。じゃあ亜南が先に出ていいぞ。俺はこの部屋を掃除してから行くから」
「漏れそうなんじゃなかったっけ? また漏らしたらこの部屋大惨事だけど」
「何で部屋で漏らすんだよ! そんなガキじゃないんだぞ」
「ガキのくせに……」
相変わらず一言以上多い奴め。
「と、とにかく、ここに閉じ込められて暴れたわけだし、ホコリだけでも綺麗に拭き取っておかないと。これは俺がしないと駄目だから、廊下に出てていいよ」
「…………はいはい」
少し怪しまれたが、珍しく素直に言うことを聞いてくれた。
あとは俺に背中を見せた時を狙えば完璧だ。
「部屋を綺麗にするんなら完璧にやりなよ?」
「分かってるっての! とにかくお前は早くこの部屋から出てくれよ」
「漏れそうだから?」
「そ、そうだよ! さっと掃除してすぐにトイレ行きたいんだってば!」
渋々ながら、亜南は俺に背を向けながら廊下へ出ていく。
今だ。今なら。
俺は亜南の両脇に素早く手を差し込み、奴の両腕を確保。
これなら身動きも取れずに抵抗もままならない。
「大人しくしろ! これならいくら俺より強いお前でも、反撃も出来ないぞ」
「――あぁ、うん。だろうね。分かりやすすぎて拍子抜け」
「強がりは何とでも言える。これでお前は俺に完全に捕まった! このままソファに後退するから大人しくした方がいいぞ!」
今度は俺がこいつに電マをお見舞いしてやる。
「…………ハァ」
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