第28話 中に?それとも外希望? 

「ううーん……」

「あっ、そろそろ気付く感じ?」

「……」

陽斗はるとはどっちがいい? 中に入れる? それとも外がいい?」


 何だ? 

 亜南あなみは俺に一体何を聞いているんだ?


 意識を閉ざした状態から考えられるこの状況。

 どう考えても、俺はどこかの部屋で寝かせられているんじゃないのか。


 しかし妙だ。


 上半身はTシャツ、下半身は――この感覚だけで判断すれば全て脱がされているような気がする。


 どこかに運んだのはいいけど、まさか途中で放置した?

 それで今は外にいて、室内に入れるかどうかを聞いているのか。


 下半身露出で外にいるなら間もなく逮捕案件。

 そうなら答えは一択だ。


「な、中がいいです。というか、さっさと中に入れてくれ!」

「りょーかい! じゃ、勢いよく突っ込んであげる」

「え?」

「せーのっ!」


 よく分からないが、亜南によって俺の両足は勢いよく熱い液体の中に入れられてしまった。


「――うあっちいいいい!! はぁっ!? ふ、風呂!?」

「半分せいかーい! で、目の前にいるせくしぃなウチにいう言葉は?」

「……ここはどこで、何でお前も一緒に入ってる? 俺の服をどこにやった?」


 ツッコミどころ満載のこいつに色々言いたいが、現状把握だけでもしておきたい。


「あーはいはい。目の前にいる幼馴染が生まれたての姿になってるのに、そこはスルーすると。そういう態度でくるわけね」

「何が生まれたてだ! しっかりバスタオルつけてるだろ!! 湯船に浸かりながらバスタオルは反則だぞ!」


 それに引き換え、俺の下半身は間違いなく露わ状態。

 つまり、こいつに全て見られた。


 不公平にも程があるし、Tシャツだけ脱がしてないのも意味不明すぎる。


「どうせなら全部脱がせよ! 何だよ、Tシャツだけずぶ濡れとか……」

「あ、それ。陽斗のTシャツじゃなくて、スパからもらったTシャツだから問題無し」

「……スパ?」

「バイトしたじゃん。短期間だけど。もうお忘れですか?」


 ――ということは、ここは姫野に紹介されて夏休み期間に仕事した風呂屋か。

 俺に反撃喰らわして意識を閉ざさせて運べるとしたら、姫野もいないと不可能だ。


「姫野はどこにいるんだよ?」

「佐紀ちゃんは休憩中。今は営業時間外なんだー。特別に入れてもらってるんだから、お礼言っときなよ?」


 営業時間外という時点で、夜遅いってことか。


「今って何時?」

「深夜だけど? 心配しなくても陽斗のママさんには連絡済みだから問題無いし」

「そういうことじゃないっての! で、バスタオルをつけてるにしても何でお前も一緒に入ってるんだよ!」


 そろそろのぼせてしまいそうだ。

 こいつを早く何とかしないと、また意識がやばくなる。


「陽斗の顔真っ赤だけど、なになにー? もしかしてウチの魅力でやられてきた?」

「…………」


 やばい、自然と首が動く。


「マジなんだ。へー……じゃあ、特別に間近で見せてあげよう! 陽斗のも見ちゃったわけだし、バスタオルをつけっぱじゃ怒られるしね。じゃあいいよ、陽斗の手でバスタオルを剥がしても」


 などなど何かほざいているが、もはや何も頭に入ってこない。

 もう後はなるようになれ。


「もしもーし? 陽斗ー? おい、そこのへたれ! バーカ? 陽斗ちゃん、ウチの裸を見るチャンスすら掴まないのか? そんなに興味が無いのかー?」


 駄目だ、もう。

 目の前が真っ暗すぎる。


「そいつ、のぼせて何も聞こえて無くない?」

「あれ、佐紀ちゃん?」

「お湯を抜きに来た。とにかく、そいつをとっとと湯からあげて冷やした方がいいよ」

「そ、そうするー! ごめーん」

「部屋にキンキンに冷えたヤツあるから、それ使えばいいよ」

 

 どうやら俺はまたしても意識を閉ざしたようだ。

 

「陽斗、ごめんね。次こそちゃんと甘やかしてあげるから……生きろー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る