第6話 攻撃開始!?

「――うぐぐぐ……あ、亜南に聞きたいんだけど聞いても?」

「うん、どうぞ?」

「な……何で俺はヘッドロックをかけられているんですかね……くはっ……くぅぅ」

「して欲しそうだったからだけど?」

「……そ――んな、こと……一言も――ううぅ」


 カップルが利用しそうなホテルに案内され、部屋に入ると何故かそこに亜南がいた。案内してくれたギャル女子の姫野は未だに姿を見せていない。


 姫野が部屋に入って来たら二人同時に説教してやる――そう思って亜南に近づき、気づいたら奴にヘッドロックを喰らっていた。


 こめかみの部分に微妙にちょっとした柔らかい感触が当たっているが、奴は気にするそぶりを見せず、思いきり力を込めている。感触の不意打ちと意外なくらいの強い締め上げで、見事に技を決められている状態だ。


「いーや、スケベ野郎な陽斗は今頃ウチの感触に感動してる。素直に吐け!」

「……ほどよいんじゃないですかね」

「ふーん。まだまだってことか。りょーかい」


 何がまだまだなのか。自分だけで納得しないで欲しいんだが。

 訳も分からず亜南に締め上げられていると、部屋のドアが勢いよく開く。


 部屋に入って来たのは、両脇に容器を抱え、個包装された何かを口に咥えた姫野だった。何かを用意するとか言ってたが……。


 姫野はベッドの上に二本の容器と個包装を無造作に落とし、弾力あるベッドに腰掛けてすぐに俺と亜南を見た。


「……あぁ、さっそくしたんだ?」

「んー……まだ始めてもいないよ」

「だろうね。彼を見ても状況、よく分かってないし」


 くっ、何という力だ。全く解けそうに無いぞ。それなのに亜南と姫野だけ分かったような会話をして腹が立つ。


「くっ、い、いい加減離せって――」

「とっくに力抜いてるけど、そんなに感触に浸っていたかったのかな?」


 勢い任せに亜南から抜け出そうとしたら、姫野に向かって突進していた。


「う、うわっ――!?」


 勢い余って彼女にぶつかり、押し倒してしまったようだ。

 ふわっとした香りこそするものの、何かがおかしい気がする。


「…………理解。、そういうことしたくて部屋に呼ぶタイプか。事前に分かって良かったんじゃない?」

「どうだろうね。多分、ウチには出来ないと思うけどね。最弱だし」

「適当にお茶持って来たから飲んでいい。クッキーは今、割れた」

「ありがとー! そろそろそこのバカを突き飛ばしてやったら?」


 さっきまで感じていた亜南のような感触が、姫野から全く感じられない。押し倒したからといって狙ってその部分に触れているわけじゃないけど、あるべきものが無い気がする。


「あんた、いい加減どきなよ!!」


 姫野の低い声と同時に、両手で胸を押されて突き飛ばされた。

 その突きは亜南の強さとはまた一味違うような感じだ。

 

「って、ええ!? 姫野って男……なのか?」


 長いサラサラな髪だし細身のギャルのはずなのに、目の前に見えている薄着の姫野はどう見ても男そのものだった。


「失礼な奴だな。男の娘、知らないのか?」


 なるほど。今まで口数少なくしていたのは、その野太い低い声を隠す為か。


「知ってるけど初めてだから驚いただけで、何かごめん」

「まぁいいけど。お茶でも飲みなよ」

「ど、どうも」


 怪しげな容器かと思ったらただのお茶だった件。亜南の奴はお構いなしにお茶を飲み干している。


「――で、この部屋と亜南と姫野。一連の流れはどういう意味が?」

「オレはあんたにこの部屋を紹介した。自分の部屋に連れ込む前にフラれるって聞いたから、ここなら問題無いんじゃねーの?」

「余計悪いだろ!」


 自分の家ですらフラれるのに、ホテルに連れて来るとか最低にも程がありすぎだ。姫野という見た目ギャルが男の娘なのはまだいいとして。


「それで、亜南は何を考えてるんだ? 俺に何をさせるつもりで……」

「このホテルのこの部屋がさー、佐紀ちゃんの部屋なわけ。ウチもしょっちゅう遊びに来てるんだけど、陽斗も利用するなら使っていいって言うからー」

「へ? 姫野の……部屋? でも、このホテルって場所なんじゃ?」

「ここ、オレの実家だから。この部屋だけ自由に使えるだけで、変なことで使う気なんて無いし」


 まさかの実家とか。それなら何も言えないけど、何とも言えなくなるな。


「で、ついでに言うとウチと佐紀ちゃん、同じ趣味なわけ! ここなら聴き放題だし」

「は?」


 亜南の趣味というと悪趣味なASMR――あぁ。同類か。


「それはともかく、俺も今度からここに?」

「連れ込むんなら別に構わないけど」


 そんなこと出来るわけないんだが。

 それよりも攻撃がどうとか、その意味を知りたい。


「遠慮しとく。要するにこの部屋が亜南と姫野の趣味部屋ってことなんだろ?」

「そそ。そういうこと! 陽斗もここで慣れとけば?」

「遠慮する!! ってことだから、亜南。家に帰るぞ」


 何を慣れろというのか聞かないでおこう。暗くなる前に外に出ておかないとますます気まずくなるし、亜南を連れて帰らないとだな。


「おけおけ。佐紀ちゃん、またねー!」

「また。期待してる」

「うん! 明日から始めるー!」


 ギャルな男の娘と亜南と悪趣味か。それは分かったけど、さすがにここに連れ込めるような度胸だけはつきそうになさそうだ。

 

「明日が何だって?」

「陽斗にとってはちいせぇことだから、気にすんなよ!」

「何だよそれ……」

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