第30話 わしづかむ!?
「んー……んっ? 舌を全然動かして無いけど、何で?」
「……られれれ! (氷だけでいっぱいいっぱいだからだ)」
どれくらい凍らせたんだってくらいの氷を舌だけで溶かすだけでもだるいのに、亜南の指が俺の口の中で暴れているからどうにもならない。
そんな状態を知らずにこいつは。
「へたれにも程度ってものがあると思うんだけど。陽斗も赤ちゃんの時代があったと思うけど、それを思い出して指しゃぶりすればいいだけのことなんだけどなー?」
好き勝手言う奴だ。
こういう舐め切った態度の奴の指を絡めるようにして舐めてやれば――きっと嫌がって大人しくなるはず。
「れらぁっ!!」
「あーっ、うん。そうそう。そんな感じだよね、赤ちゃんって」
「……
「こんなにも舌を絡めてくるってことは、もしかして味が欲しい系? 氷だけだと味気ないもんね。んじゃあ、何か味探してこようかな!」
そういうと亜南はあっさり俺の口の中から指を出し、唾液まみれの指を眺めながらしてやったりな表情を見せている。
「この指に何かつけてきてあげるけど、何の味が希望?」
「……何でもいい(もう何が何やら)
「まぁとにかく、陽斗はそのまま大人しく寝ておくように!」
何も効果が無かったどころか、幼馴染の変態っぷりに引いてしまった。
大体、指の味なんてほぼ無いに等しいというのに。
亜南の指に期待なんてしてはならない。
それはともかくここで起き上がって反撃に出たいところ。
しかし舌は痺れているし、のぼせてからの回復があまりに遅すぎてそれどころじゃない。
「――で? それ、その青っぽい色の指は何?」
嬉しそうな亜南はすぐに戻って来た。
しかし人差し指が青くなっていて、明らかに変な何かをつけてきたらしい。
「あ、これ? これはシロップ」
「それってかき氷にかけるアレ?」
「そそ。好きだろ? ただでさえ甘いウチの指をさらに甘くしてやったこの心遣い! 陽斗には思う存分に舐め回してもらわないとね!」
味はともかく氷はすでに溶かした状態なのに、亜南の指だけ口に入れるのは難易度が高すぎるだろ。
何とも言えないし、意識を落とされた割に報酬的なものが見合わない気がしてならない。これは指じゃなくてもっと別の何かに変えてもらわなければ。
「指はもういいから、他のにしてくれ」
「えー!? せっかくシロップ漬けにしたし、気にせず舐めればよくない? 何でこの期に及んで拒否るわけ? さっきあれだけ舐め回しておいてさー」
俺の意思じゃなくてほぼ強制だったのに冤罪じゃないか。
「そうじゃなくて、もっと亜南の反省っていうかそういう気持ちを感じたいから、指じゃなくて、えっと……」
「はー? あぁ、はいはい。そういうことね」
「……分かったのか?」
「陽斗的に、大人の謝罪が欲しいと。そういうこと?」
ようやく分かってくれた。
何かをしろってことじゃなくて、単純に頭を下げてごめんって言ってくれればそれだけで俺は――。
「満足感が得られればいいな、と」
「あー……ね。とりあえず、ウチの気持ち、心をわしづかみたいと! そういう意味?」
そう言うと、亜南は自分の胸に手を置いた。
「わ、わしづかみっ!?」
「あ、心を……の意味だから。でも、顔を真っ赤にしてしかもその変な手の動きを見せてるってことは、別の意味でのことを妄想した系?」
「どう見てもそういう意味に感じるだろ、そこに手を置かれれば」
「それはまだ早いんじゃない? へたれだし、弱いし……だから指しゃぶりから始めてあげたのにそれはなくない?」
ちくしょう、何で俺が悪いみたいになってるんだよ。
「じゃあどうすればいいんだよ……」
そもそも悪いのはどっちだったのか。
助けに来てもらったはずがこいつに遊ばれ、反撃しようと思ったらやり返され。
挙句、元バイト先のスパでのぼせて力が入らずこいつの好き勝手にされかけてる。
つまり悪いのはやはり亜南であって、俺じゃない。
要はこいつに謝ってもらうのが最優先ということになる。
――のに。
「だから陽斗の心、気持ちを素直にウチに伝えてくれるだけでいい。そしたらウチ的にはぎゅっとわしづかまれるっていうかー、全て許してくれるんだーってなって開放しちゃおうってなる」
何故か指しゃぶりから、謎の告白タイムに突入しかけている。
しかし俺が素直に気持ちをぶつければ、もれなく特典であるわしづかむ権利を得られるというのは間違い無さそう。
風紀委員長だった待田さんに実質フラれたようなものだし、俺から近づくことも無くなった。
そうなると女子への告白も、付き合うという選択肢も限定的になったのは確定。
こうなれば、幼馴染のこいつしかそれっぽい言葉をかける相手がいなくなったことを意味する。
何かしら言い放つしかないってわけだ。
そうすれば――。
「納得いかない気がするけど、それはともかく亜南に言いたいことがある」
「うん、遠慮なく言って?」
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