第32話 ガチで何かが変わる日
何だか久しぶりに教室にいるのは気のせいだろうか。亜南に支配された時間が以前より長くなったせいもあるかもだけど。
「よっ! 陽斗! 久しぶり〜」
などと気さくに声をかけてくるこいつの名は――。
「亜南にフラれて消えたかと思ったぞ、安川!」
前までは
今ではあまり絡まなくなったというのもある。
「おいおい、毎日教室で会ってるだろ! 冷たい奴だなぁ。まあいいけど、空上さんとは上手くいってんだろ? どこまでいった?」
「特には……」
「はぁ? 冗談きついぞ? このオレが玉砕したのはお前と付き合う為だと思っていたのに、何も起きていないとか嘘は良くないぞ」
玉砕は俺の責任じゃないんだが。
「いや、マジで」
「手くらい出したんだよな? なぁ?」
しつこい奴だな。格下げして正解だ。
それともまだ亜南に未練があっての発言か?
だとしたら。
「陽斗くん、おひさー!」
「あっ、陽斗だ! やっほ! 今日空いてる~?」
――などなど、またモテ期が訪れたかのようにクラスの女子からお声がかかる。
朝の時間に顔を合わせたというのもあるかもしれないとはいえ、これは嬉しい。
「今日はもちろん、空いて――うっ……」
気楽に返事をしようとする俺にどこからか刺さるような視線。
その視線の先を見るまでもなく、奴は俺と女子たちの間に立っていた。
「そ、空上さん……やべえ、じゃ、じゃあまた今度な! 陽斗」
などと、安川はあっさり撤退。
続いて真っ青な表情に変わっていく女子たちも、音を立てずに自分の席へと戻って行く。
こいつ――いつの間に殺気を武器にするようになったんだ。
「今日の予定が何なのか聞かせてもらえる? 陽斗くん」
この声のトーンはマジな奴だ。
昨日のあの潰すよ発言は、どうやらそういう意味らしい。
「きょ、今日の放課後は亜南とスポーツ勝負……かな」
「正解! 偉い偉い」
「よ、よせって!」
「恥ずかしがらなくても誰も気にしてないよ?」
亜南の言葉とは裏腹に、みんなの視線は俺に向けられている。みんな見ている前で、亜南は俺の頭を激しくなでなでしてきた。
亜南は今まで同じ教室にいても、自分の存在を消して俺のすることを放置してきた奴だ。
それがどういうわけか、俺に対する支配欲……もしくは独占欲というものをあからさまに出すようになった。
昨日の出来事で何か俺に対する気持ちに変化を示してきた――と、思うべきだろうか。
しかしこんなことをされたら、もう女子たちは俺に近寄ってこないんじゃ?
「俺が気にする……」
「あ、そう? じゃあ、教室ではしないことにするから。休み時間まで我慢する!」
「えっ」
「じゃ、陽斗くん。また後で!」
怖い、怖すぎる。もしや一晩経って人格を改変でもしたのか。
言い方はさすがに教室バージョンのようだが。
視線の痛さと態度は亜南そのもののように感じる。
放課後に始まるはずのスポーツ勝負まで俺の精神は保てる――だろうか。
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