クレーンゲーム対戦②

 お金はあるけど時間はない。

 残り三分を切ったようだ。

 俺は急いで愛衣から教えて貰った台でキーホルダーを取りまくる。


 なんのアニメか分からないけど、ユニークな美男子キャラだった。いったい、なんだこの異世界系のモンスターみたいなの。


 可愛らしいけど腹黒さが垣間見える。

 正直いらないが、そうも言ってられない。


 ひたすらアームを動かし、俺は景品を取りまくった。



 ――そして。



 タイムリミットとなった。



「そこまで!」



 木葉が終わりを告げた。

 これで勝敗が決まる。

 凩父は余裕の表情。

 もう勝利を確信しているらしい。


 だが、勝つのは俺だ。



「風吹くん、見たところ今日は残念な日になりそうだね」

「まだ分かりませんよ」


「そうかね。では、まずは私の獲得した景品の数を出そう」


 木葉がカウントしていく。

 一個、二個……俺と別れる前の七個を超えた。まさか、あれからまた取っていたのか。嘘だろ……!


 ついに十個を超えた。

 しかも全部、ぬいぐるみばかりじゃないか!


 そしてついに合計数が出た。


「パパは……合計十三個ね」

「じゅ、十三個!? 馬鹿な、初心者が取る数じゃないぞ!!」


 なんて数を取ったんだよ。

 このゲーセンかなり取り辛い方なんだけどな……今日はサービスしていたのか? それとも最強の裏技・店員召喚を使ったのか!?


 そんな素振りはなかったけど。



「すまないね。ずっと調子が良くて数百円で獲れてしまっていたよ」

「く、くそ……」

「その表情、終わったという顔をしているね。……さあ、もういいだろう風吹くん。木葉とは別れてもらうよ」



「……なんてな」


「!?」



「お義父さん、勝負は最後まで分からないんですよ」

「ほう、なら数を示してもらおうか!!」

「いいですよ」


 まずは『フィギュア』だ。


 カウントして合計六個となった。



「なんだ、足りないじゃないか!! ふざけおって……行くぞ、木葉。この程度の男と付き合う必要は無い。お前には外交官の息子が待っているんだ。将来は安泰だぞ」


「ちょっと待ったァ!!」



 木葉を連れ去られそうになった瞬間、俺は叫んだ。



「な、なんだね? 勝負は決まっただろう」

「決まってないですよ。俺はまだ出していない景品があるんですから!!」


「な……なんだと……!!」


 ポケットからキーホルダーを十八個出した。ボロボロと出てくる小さな景品。


 これでフィギュア六個とこのキーホルダー十八個の合計で二十四個。


 圧倒的な数により、俺は逆転した。



「俺の勝ちです!!」

「ば……馬鹿な!! そんな……そんな……くそぉぉぉ!!」



 凩父はひざをつき項垂れた。

 これで完全決着だ。



「風吹くん、マジ!! どうしたのそれ!」

「このゲーセンの隅にキーホルダーの獲れる小型タイプのクレーンゲームがあったんだよ。山積みにされていて雪崩を起こすなんて簡単だった。もちろん、ガチャガチャじゃないから確認したければしてくれ」


「ううん、信じてるよ。この勝負、風吹くんの勝ち!」

「よっしゃあああああああ!!」


 木葉と抱き合い、さっき密かに去った愛衣に感謝した。会長のおかげで俺は木葉と別れずに済んだ。後で改めて礼を言わないとな。



「……勝負事に負けたのはこれが初めてかもしれん」



 ヨロヨロと立ち上がるお義父さんは、ほとんど覇気がなかった。まるで幽霊だ。



「俺を認めてくれますよね」

「仕方あるまい。これ以上駄々を捏ねても醜いだけ。娘を失望させるだけでなんのメリットもない……分かった。風吹くん、君を認めよう」


「おぉ!」


「ただし!!」

「!?」


「そのキーホルダーとぬいぐるみを交換してくれないか」

「へ?」


「……それ、私が大好きな“邪神くん”なんだよね。……交換してくれないか」

「え、ええ!? お義父さん、アニメ好きだったんですね」

「今時、配信サイトでたくさんのアニメが見れるからな。たまたま見ていたのだよ」


 そういうことか。

 俺はこのアニメを見たことないけどな。

 でも、このキーホルダーとぬいぐるみを交換か。俺の方が得じゃないか。


「いいですよ。物々交換しましょう」

「おぉ、さすが風吹くんだ! 話が分かるな、君」

「いえいえ」


 交換を終え、俺は大量のぬいぐるみをゲットした。それをそのまま木葉へプレゼント。


「ジャッジのお仕事をしてくれた報酬だ」

「いいの? ありがと!」


 木葉は喜んで受け取ってくれた。

 けど数が数だから俺が半分持つことになったけど。



「やれやれ、二人の関係はすでに私の知らない距離感になっているようだな。……そうか、老兵は死なず、ただ消え去るのみ……邪魔者は早々に消えよう」



 そうカッコつけて背を向けるお義父さん。

 いや、まてまて。

 そのセリフどこかで聞いた覚えがあるぞ!?


 誰が言った言葉だったかなぁ……。



「風吹くん、帰ろっか」

「そうだな。無事に勝てたし、これで木葉との生活も継続なんだよな」

「うん。この生活を続けていこう。だって、すっごく楽しいもん」

「ああ、俺もだ。だから……木葉、お見合いは……」

「しないしない。そんなの興味ないし! あたしが興味あるのは、パパより強い風吹くんだけ」


 そう笑顔で手を繋いでくれる木葉。俺は幸せ者だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る