同棲生活、二日目

【※風吹視点です】


 無事に木葉と合流を果たした。

 保健室を脱出。

 安静にしていたおかげが、木葉は普通に歩けるようになっていた。


「回復したようだな、良かったよ、木葉」

「走るのは無理だけど、歩行は可能だよ」


「そうか。もうおんぶできなくて残念だ」

「え、じゃあ……する?」


「冗談だよ。誰かに見られたら恥ずかしいし」

「え~、別に良いのに」



 いいのかよ。けど、他人からジロジロ見られるだろうし……うん、止めておこう。


 学校を去り、そのままマンションを目指した。


 今日も木葉と一緒に暮らす。


 あれから、俺は親父に連絡して許可を得た。生活用品も送れってくれているようだった。多分、もう到着した頃合いだろうか。



 他愛のない話を続けていれば、マンションの前に到着。



 見覚えのある車がクラクションを鳴らした。車の中からこれまた見覚えのある顔が現れて、俺はつい苦笑した。



「親父、待っていたのかよ」

「当然だろう。我が息子が婿むこりしたのだからな」

「む、婿入り!? なにを誤解しているんだよ、親父! 木葉が困っているだろう」


「そうは見えないが。むしろ“嬉しすぎて死んじゃいそう”みたいな表情だがな」



 親父は冷静に木葉を分析。

 そのせいか木葉はますます縮こまった。

 本当にそう思っているっぽいな。


 とりあえず、俺はスーツケースを受け取った。この中に着替えとか生活用品が入っているようだ。


 頼んでおいたタブレットとかノートパソコンもあるはず。これがないとバイトができないからな。



「荷物を運んでくれて、ありがとう親父」

「なんだ、素気ない。せっかくなんだ、子供の顔でも見せてくれよ」


「気が早すぎるわ、帰れ!!」


「ちぇー。まあいい、二人の邪魔をしても悪い。老兵は死なず、ただ消え去るのみ。さらばだ」



 なんかカッコイイこと言っているけど、消え去ってもまたひょっこり現れるじゃないか。


 そうして親父は俺に荷物を渡すと背を向け、車へ乗り込んだ。少し、ほんの少し寂しそうに走り出していく。



 ――あとでお礼のラインを改めてしておくか。



「木葉、待たせたな」

「ううん。風吹くんのパパってイケメンでカッコいいよね~」

「いやいや、騙されるな木葉。あれは見た目だけだよ」


「えー、そうなんだ?」

「ああ、いつもはふざけているし、冗談ばかりだよ」

「面白いじゃん。今度、風吹くんの実家にもお邪魔してみようかな」


「えぇ……」

「うわ、すっごく嫌そうだね。でも、いつか挨拶しに行かなきゃでしょ?」


「あぁ、そうだな。――って!!」


 自然に納得しちゃったけど、それって結婚を前提にした話だよな!?


「ん? どうしたの?」

「……いや、木葉。それってどういう意味なのかなって」

「それ? ん? あたし何か言ったかな」


 ニヤニヤっと笑う木葉は、俺に何か言って欲しそうだった。……くそっ、木葉も親父タイプだったのを忘れていた!


 顔が熱くなってきて、俺は別の方向を振り向いた。


「木葉、もう家に戻ろう」

「風吹くん、どこ見てるの~?」


「明けの明星だ!」

「それを言うなら、宵の明星じゃ……ていうか、顔が赤いような」


「ぐっ! いいから入ろう」

「仕方ないなぁ。まあ、挨拶は行こうねっ」



 やっぱり、とぼけていたんじゃないかっ!



 * * *



 ようやく玄関へ。

 先に木葉が上がり、俺は続いて靴を脱ぎ「ただいま」を言って上がった。すると、木葉は「おかえり」と自然に返してくれた。


 たったの一言なのに、俺はビックリするほど嬉しかった。


 多分、今ちょっと夫婦ぽい雰囲気だった。


 そのせいか気持ちが高揚して、思わず木葉を抱き上げたい衝動に駆られた。けど、その思いを出来る限り奥深くへ押し返した。

 襲うように見えたらまずいし、そんな度胸もなかったからだ。


 だけど、それくらい木葉の「おかえり」は破壊力が凄まじかったのだ。


 ……あぁ、俺は幸せ者だな。



「どうしたの、風吹くん。さっきから変だよ?」

「難病にかかったかもしれない」


「へ!? うそ、風吹くん、どこかヤバイの?」



 慌てる木葉だが、そういう意味ないんだがな。



「いや、大丈夫だ。病気と言っても目に見えないものだ」

「そうなんだ。精神的なものってことね」

「そそ。誰でも掛かる病気さ」


「そんなのあるっけ?」



 木葉には思い当たる節がないらしい。

 なんだか残念だが……いや、意外と気づいているのかもしれない。これ以上は触れまい。



「それより、先に風呂かな」

「ご飯はまだウーハーイーツで頼んでおくよ」

「昨日といい悪いな。飯は俺がお金を払うからさ」


「けど……」


「タダで住まわせて貰っているしな。飯くらいは出すよ」

「分かった。出前は風吹くんに任せるよ」

「おう、俺のセンスに任せくれ」

「期待してる。じゃ、あたしは着替えてくるから覗かないでね」



 微笑む木葉は、自分の部屋へ戻っていく。

 覗かないでねって、そんな愚かな行為はしないのだが……えて言うってことは覗いてくれって意味なのだろうか。まさかな。



 ――風呂を済ませ、少しまったりしていれば注文の品が届いた。


 ウーハーイーツは『モスモスバーガー』にした。


 これが意外や木葉の大好物だったらしく、奇跡的に大当たりを引いた。



「さすが風吹くん、分かってるね! このとびきり和風ソースがすっごく美味しいんだよねぇ」



 肉汁たっぷりのハンバーガーを頬張る木葉。俺も同じものを味わった。和風ソースが濃厚でくどくない味わいだ。


 美味すぎる食事を進めていると、木葉は思い出したように言った。


「あ、そうだ。後でヤンデレメイド・エイルさんのフィギュアと福引券の交換しよっか」

「そうだったな。物々交換の約束だったもんな。福引券は、明日にでも回してみるか。ちょうど休みだし」


「そうだった。明日は土曜日だったね」



 そう、すっかり忘れていたけど休日だ。

 明日から木葉と何をしようか。

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