救いの手
【※木葉視点です】
彼は行ってしまった。
出来れば
寂しくないといえばウソになるけど、
溜息を吐いていると、
「凩、まるで恋する乙女のような溜息だね」
「……うっ。いや、そんなことは……ないですけど」
「嘘が下手だな。凩、本当は教室へ戻りたいのかな」
「当然です。風吹くんが浮気しないか心配で……」
そう、あたしはずっと風吹くんのことが気になっていた。ここ最近は四六時中、彼のことを考えているほど。
好きで好きでたまらなかった。
もっと見つめて欲しい。
もっと話がしたい。
もっと遊びたい。
「大丈夫ではないかな。田中くん――いや、微風くん」
「え……」
「女の勘だけどね」
「先生の勘って当たるんです?」
「失礼だな。これでも私は男性経験はないのだ」
えぇ……ダメじゃん。ていうか、先生に男性経験がないのが意外すぎて驚く。こんな黒髪美人なのに。
でもちょっと独特というか、変わっている。
「はぁ~…」
「やれやれ。凩はなんでそんなにあの微風にご執心なんだ。言ってはなんだが、彼はかなり地味だし、イケメンという部類でもない。不器用に生きているタイプだ」
「顔は関係ないです。一番大切なのは中身。性格ですよ」
「ほう、私には分からないが、そんなに良い性格をしているのか」
「だって、あたしは風吹くんの隣の席ですもん。毎日、彼の仕草とか行動とか目の当たりにしているんですよ。風吹くんって気遣い凄いですし、細かいことも気づいてくれるんです」
まともに会話するようになったのは『物々交換』だったけど、でも、あれがキッカケであたしと風吹くんの距離は一気に縮んだ。
でも、それ以前からわたしは彼が気になっていた。
誰かを助けていた、あのワンシーンが今も頭から離れない。
「そうか、同じクラスで隣の席だったのか。それは青春だな……羨ましい」
「か、からかわないで下さい」
「いや、からかってなどいない。凩、ぶっちゃけ聞くが、どこまでやったんだ?」
先生は、興味津々にそう聞いてきた。
でも、その質問の意図があたしにはイマイチよく分からなかった。下着を交換したり、抱き合ったり、キスはしたけど……。
でも、それを教えるのは恥ずかしすぎる。ので、あたしは誤魔化すことにした。
「だ、抱き合ったくらいです」
「抱き合った? 具体的に」
「えっ! 普通の
「なんだ、つまらん!」
なんだか知らないけど先生は呆れていた。なんでー!? 普通のことを言っただけなんだけどなぁ。……って、もしかして、えっちしたとかそういう事を聞きたかったのかな。
そんなの言えるわけないッ!
「あ、あたしと風吹くんは真剣なお付き合いをしているんです!」
「そうは見えなかったけどな」
「うぅ!」
しまった。ついついバレバレな嘘をついてしまった。さすがに見破られてしまった。あたしとしたことがバカバカ。
「ひとつ忠告しておくぞ、凩」
「はい、なんでしょう?」
「保健室の先生として言っておくが、避妊はきちんとするようにな」
「――――んなぁ!?」
とんでもない忠告に、あたしは顔が熱くなった。
保健室の先生だから当然かもしれないけど、そんな真顔で、真面目なトーンで言われると焦るって!
いやでも大切なことなのは間違いない。
「その慌てよう。どうやら、初体験はまだのようだね」
「うぅぅぅ…………」
あたしは、両手で顔を覆い項垂れた。
この先生、カウンセラーみたいにズバズバとぉ!
このままでは恥ずかしさのあまり死んでしまいそう……。あぁ、もう身が持たない。早く帰って来て、風吹くん。
「まあ、羽目は外し過ぎないようにな」
「は、はいぃ……」
保健室なのに地獄だわ。
もう勘弁して~…。
* * *
――あたしは寝ていた。
ふと目を覚ますと空は茜色に染まりつつあった。……そっか、あれから寝ちゃったんだ。結局、風吹くんは現れなかった。
……もしかして、あたしのことなんてどうでもよくなっちゃったのかな。
転んで足を痛めた、あたしなんて足手まといだもんね。
「帰ろう……」
ベッドが起き上がり、保健室を出ようとすると扉が開いた。
「木葉……!」
「風吹くん!?」
「遅くなって悪い!! 午後から小テストは続くわ、休み時間は担任とかクラスメイトに邪魔されるわで全く動けなかったんだ。まったく今日に限って災難だよ。でも、迎えに来たぞ」
手を差し伸べられる。
あたしのとっての
……やっぱり来てくれた。良かった。来なかったらどうしようかと思った。
愛衣や水瀬など敵は多いし、てっきり誰かと帰ってしまうのではないかと思っていた。でも、風吹くんはあたしの元へ来てくれた。
「遅いぞ、風吹くん」
「こ、木葉……泣いているのか。本当にごめんな」
「ううん、いいの。保健室へ来てくれたこと、すっごく嬉しい」
「実を言えば、愛衣とか水瀬にも会ったけどな」
「そうなんだ。誘われなかったの?」
「そ、そりゃな。でも、俺はどうしても保健室へ……木葉に会いたかったんだ」
その言葉を聞けて、あたしは嬉しすぎた。風吹くんに見せられないような表情をしてしまいそうになり、背を向けた。
「ど、どうしたんだ、木葉! 遅れたのは申し訳なかったけど」
「ち、違うの。これは、その……えっと!」
あぁ、ニヤケ顔が止まらない。今のは顔は絶対に見られたくない。どうしようどうしよう……。
……そうだ!
振り向いて一瞬で間合いをつめて、あたしは風吹くんの胸に顔を埋めた。これで見られないっ。
「こ、木葉さん!?」
「遅れた罰だからね!」
「わ、分かった。罰っていうかご褒美だけど受け取っておく」
いつの間にか足は治っていた。
もう動ける。
風吹くんと一緒に家へ帰ろう。
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