ギャルのえっちな下着と物々交換

 凩が先程まで口をつけていたグラスを手にする。


 グラスの飲み口には、ほんのり湿ったものが。それを直視しただけで俺は興奮した。ぶるぶる震える手で口をつけようとすると、凩が顔を真っ赤にしながらも凝視してくる。


「なんだよ、凩さん。そんなに見つめられると飲みにくいんだが」

「だ、だって……! か、か、か……」


「か?」


「間接キスじゃん!」

「凩さん、今更かい? さっき俺のグラスにも口をつけたじゃないか」


「え……あっ!」



 まさか、素で気づいていなかったのか!?

 凩は両手で顔をおおって「あああああああああ!!」と叫んでいた。マジで気づいていなかったのかよ。


 というか、今がチャンス。


 俺は、凩がジタバタしている間にグラスに口をつけた。


 普通のコーラだけど……美味い。



 なんだろう、コーラなのに感じた事のない味だ。これが幸せの味なのだろうか。分からないけど、今俺は大人の階段を一歩半踏み出せた気がする。



 それにしても、凩は耳まで赤くしてうなっていた。おいおい、ホラー映画に出てくる妖怪のようにおぞましいことになっとるぞ。



「お~い、凩さん。大丈夫か?」

「も、もぉ……風吹くんのばかぁ!」



 涙目になってにらまれる俺。

 正直、可愛すぎて胸がキュンとした。


 凩って、普段はクールギャルだけどこんなに喜怒哀楽があるんだな。俺としたことが、一緒にいて楽しい――なんて思うようになってきた。



 ――カラオケは二時間続き、気づけば終了。



「ふぅ、いっぱい歌ったな」

「風吹くんにこんな才能があったなんて……意外すぎる」

「才能のない人間なんていないよ。誰かしら思いもよらないスキルを持っているものさ」

「あたしには無いから羨ましいよ」


「そんなことはない。知らないだけで凩さんにもきっとあるさ。ほら、潜在能力ポテンシャルとか言うじゃん」


「潜在能力かあ。引き出せば何か出てくるかな?」

「その引き出し方次第かな」



 ふぅんと納得する凩は、俺を見つめる。長い睫毛まつげ、エメラルドグリーンの瞳の中に俺の姿を映し出す。


 星空のように美しい――俺はそう思った。



「じゃあ、風吹くんが引き出してよ」

「え……俺が?」

「うん。あたしの潜在能力をね」


「俺は異星人の長老か? 難しい要求だな。他をあたってくれ」

「え~。まあいいか」



 笑顔でお会計へ向かう凩。

 だが、俺は伝票を取り上げた。



「凩さん、俺がおごるよ」

「え、いいよ。割り勘しよ?」

「これくらい構わないさ。これでも俺はアルバイトをしているんだ」

「え、なんのバイト?」


「それは秘密だな」


「その秘密を暴きたい。じゃあ、物々交換してよ」



 俺の『秘密のバイト情報』と交換?

 物々っていうか、等価交換的な。


 でも、そういうことなら俺は条件を呑むことにした。さて、ここからが肝心だ。



「構わないけど、凩さんは何と交換してくれるんだ?」

「うーん、パンツは困るし~…、ブラとか」

「なんて下着限定なんだ。いや、男としては嬉しいけど、俺の情報にそこまでの価値があると思う?」


「うん、思う。だって純粋に知りたいもん」



 うわ、まさに純粋な眼差し。

 なんだか条件をつけるのが申し訳ない。けど、俺と凩の関係は、こんな交換条件つきの方がいい気がしたんだ。なんでだろうな、理由は分からないけれど。



「う~ん……いいのか?」

「いいよ。今日はえっちな下着なんだよぉ」


「……ッ!!」



 耳元で、小声で囁かれ――俺は、頭がどうかなりそうだった。凩のえっちな下着! ずっと肌につけていた生の下着ってことだよな。


 ええい、凩が良いって言うんだ。


 なにを遠慮する必要がある!

 というか、遠慮する方が失礼だ。



「どうする、風吹くん」

「じゃあ、交渉成立で」

「仕方ないな。カラオケ店で外すのは嫌だから、外でね」


「分かった。さっさと会計を済ませよう」



 * * *



 ――会計を済ませ、近くの公園へ。


 ベンチに座り、凩は服に手を突っ込みゴソゴソしていた。やがて、ヒラヒラした布が俺の手元に落ちてきた。



「……こ、これ」

「はい、約束の品ね。恥ずかしいから、さっさと閉まって」


「あ、ああ……」



 早くカバンに入れろと催促され、俺は従った。さすがに他人の目には触れられたくないのだろうな。それに、こんな現場を誰かに見られたら通報案件だわな。


 俺はすぐにカバンに保存した。


 ……布の感触が手に残ってる。



「もー、風吹くんってヘンタイさんだよねー。あたしのパンツとブラを奪うとかさ~」

「おいおい、語弊があるな。これはちゃんとした物々交換・・・・なんだぜ。奪ったわけでも、金で買ったわけでもない。原始的な契約取引をしたのだよ」



 そう、物々交換とは石器時代からあったらしいからな。古代の風習であり、現代でもありふれた取引方法のひとつ。


 アニメグッズをSNSで交換する人もいるし、ゲームでも物々交換は割とある。物々交換アプリとかあったら流行りそうな気がするけどな。



「むぅ、そう言われると持ち掛けたのも全部あたしだわ……。もしかして、あたしの方がヘンタイ……」



 が~んとショックを受ける凩。

 まさか天然なのか。

 たまにポンコツなところもあるし。

 そこが可愛くていいけど。



「人類の大半はヘンタイさ」

「真理ねぇ。って、そうじゃないわ。風吹くんのバイトよ! なんのバイトをしているの? ちゃんと教えてもらうわよ」



 そうだった。

 物々交換として俺の情報を教えなければならない。


 ずっと隠し通すつもりだったんだけどなあ。まあ、凩になら教えてもいいか。



「俺は、投資家の親父に頼まれて“仮想通貨”の運用をしているんだ。それが上手くって、おこづかいを結構貰ってる」


「か、仮想通貨? え、すごくない!?」


「まあ、知識は親父から得ているんだけどな」

「いやいや、凄すぎるって。高校生で仮想通貨とか、天才じゃん」



 おそらく凩は、仮想通貨がどんなものか理解していない。たぶん『なんか凄い!』みたいな雰囲気で感じているだろうな。


「普通さ。スマホでも出来るし」

「でも、株とかじゃないんだね」

「株もやってるよ。けど、今は仮想通貨だな。というわけで、こっそりそんなバイトをしている」


「かっこいい。風吹くんって思った以上に色々出来るんだね。そういう意外な能力を持つ男の子、あたしは好きだな」



 俺は力とか表に出さないタイプだからな。誰かに褒められるだとか、認められるだとか、そんなこだわりはとうの昔に捨てた。


 けど、凩に褒められるのも認められるのも心地いい。幸せな気持ちになれた。俺はもっと……もっと、凩と一緒に居たい。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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