二人きりでカラオケと間接キス

 凩とライン交換後、俺は一日中ソワソワしていた。授業に集中できないまま――放課後を迎えてしまったのである。


 教室内には、俺と凩しか残っていない。



「凩さん、なんで帰らないんだ?」

「はぁ~、誰かさんが誘ってくれないからでしょ」

「誘う? 誰が?」

「風吹くんって鈍感? まあいいわ。それより、あたしと一緒に帰ろうっていうか、カラオケとか行かない!?」


 俺の机の上に座る凩。

 スカートが短いので、むっちりとしたフトモモが宝石のようにまぶしい。というか、女子って机の上に座るの好きだよなあ。


「カラオケ? 言っておくが、俺は音痴おんちだぞ。音楽の成績も壊滅的なんだ」

「ウソが下手だね、風吹くん」


「なっ! なぜそう思うんだ?」


「君、ラインの『日記』に熱唱動画を投稿してあるよね~。さっき見ちゃったんだ。歌、ヴィジュアル系のボーカルみたいで上手すぎ~」



 ――しまった。

 昨晩、風呂で歌った動画を公開したままだった。悲しいことに、家族は誰も見てくれていなかったのだが、さっきライン交換した凩は見ていたらしい。


 てか、恥ずかしいっ!!


 急に顔が沸騰ふっとうしてきた。

 死ぬ、死んでしまう……。



「こ、凩さん!! あの動画は忘れてくれ! 頼むからあああ!」

「あは、どうしようかなぁ~。じゃあ、カラオケ一緒に行ってくれる?」


「分かった! 分かったから、あの動画は無かった事にしてくれ!」

「うん。忘れたからさ、行こっか」


 手を伸ばしてくる凩。

 細くてスラッとした手が俺の腕を掴む。掴まれちゃった……。


 まるで一本釣りのマグロの気分だ。

 俺はいつの間にか凩に釣られてしまっていた。だけど、悪くない相手だ。ギャルに喰われるなら喜んで身を差し出そう。



 * * *



 学校を出ると、そこは夕焼け空。

 残る生徒も少ない。


 俺は、凩によって連行されていた。


 駅前にある激安カラオケ店へ入った。アプリ会員を済ませておけば、手続きは簡単だった。どうやら、凩は会員登録済みらしい。


 さくっと機種を選び――ドリンクバーへ。


 凩はコーラを、俺はウーロン茶を注いで持っていった。ついに個室へ向かい、二人きりで入った。



「……来ちゃったな、凩さん」

「う、うん。さすがに緊張するね。あはは……」

「だな。俺、女の子と……ギャルとカラオケとか人生で初めてだ」

「うん、あたしも男の子とカラオケははじめて」


「うそだろ?」

「本当だもん。いつもヒトカラですけど、何か!?」



 なんだか悲しんで訴えかけてきたので、俺は察した。そういう俺もヒトカラだったけどな。


 そうか、これからはヒトカラ料金とはおさらばか。


 いや、そこじゃないな!


 女子とカラオケぇ!?


 今になって現実味が帯びて、俺の頭がクラクラして息も荒くなった。……あぁ、ドキドキする。


 けど、せっかくカラオケへ来たんだ。俺の誰も知らない『美声』を凩に聞かせてやろうじゃないか!



「悪い、凩。でも、俺もヒトカラしていたし、気持ちはすごく分かるよ」

「マジ!? 風吹くんも!? なんだ、同じじゃん」

「まあな。よし、曲を入れるぞ」

「うん、先どうぞ」


 俺は、いつも歌っている曲を入れていく。


 さっそく音楽が流れ始め、カラオケスタート。


 凩に見られて緊張はあったものの、歌という人類の生み出した文化の極みに救われた。


「~~~♪」



 そうして、俺は歌い終えた。


 直後、凩は涙して拍手していた。



「……しゅごい」

「え、どうした、凩さん。なんで泣いてるの?」


「風吹くん、スゴすぎ! 美声! 天使の歌声!! 上手い、上手すぎるよ。君にこんな才能があったなんて……あたし、感動して泣いちゃった」


「まあ、歌ったのはバックナンバーの『青い春』だけどな」

「センスあるぅ! あたし、風吹くんのこと見直しちゃった!」



 感激する凩は、勢いで俺に抱きついてきた。マ、マジか……!


 ふわぁっとしたマシュマロのような感触に包まれて、俺は頭が真っ白になった。



 カラオケに来て良かったぁぁぁ!!



 その後、凩は俺の隣に密着するようになっていた。もしかして、今ので高感度がかなり上がったのかな。


 ……よし、試してみるか。



「なあ、凩さん」

「うん、どうしたの?」

「そのジュースを交換しない? 物々交換・・・・だ」


「あー、コーラ飲みたいんだ? いいよ」


 あっさり物々交換してくれた。

 俺の飲みかけのウーロン茶を手に取り、凩はごくごく飲む。……ちょ、早っ。てか、間接キス……。


 という俺も、さっきまで凩が口をつけていたコーラが目の前にあった。


 の、飲むぞ……。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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