決闘の約束

 帰宅し、まずは大荷物をリビングへ。

 適当に置いて済ませた。


「細かい片付けは後にして――風吹くん、なにか頼もうか」


 時刻は十七時。

 飯時といえば飯時だ。木葉はウーハーイーツを頼んでくれるようで、俺に選ばせてくれた。さっきのクレーンゲームで俺が勝ったからな。


 何にしようかと悩む。

 う~ん……。


 牛丼は前に食ったしな。


「なんでもいいの?」

「うん、いいよ。上限はなし~!」

「おぉ、気前が良いな。ピザとかいいのか?」


「え、マジ? ピザいいね! じゃあ、ピザとコーラにしよっか」



 木葉もピザが食べたかったらしい、意見の一致により注文を開始。



 三十分後くらいには到着予定だ。



 ――しばらくするとチャイムが鳴った。



「木葉、来たみたいだぞ」

「うん。あたしが取りに行ってくる」

「俺も手伝うよ」



 一緒に扉へ向かう。

 今日はピザパーティだ。楽しみだなぁ――と、玄関の扉を開けると、木葉が叫んだ。



「ちょ、うわぁっ! うそ!」



 配達員の顔を見るなり、木葉は後ろへ倒れそうになっていた。おいおい、どうしたんだ。そんな動揺して……って。


 この配達員の顔、どこかで!!



「…………」



 鋭い眼差しは、まるで人殺しの目だった。冷酷で優しさの片鱗がひとつもない。日本人離れした容姿。どこかのハーフかな。


 男性は、ウーハーイーツのバッグを背負い……部屋の中に入ってきた。って、上がってくるし!



「ど、どうしているの……パパ」

「パパ!? やっぱりこの人、木葉のお父さんかよ。あのショッピングモールでうろついていた」


「そ、そう……。『こがらし 葉月はづき』っていうの。――って、やば!」



 凩父は、殺戮さつりくマシーンのように俺を――ではなく、木葉を睨む。



「注文の品が届きました、ピザです。あとコーラも」

「パ、パパ……配達員は普通、部屋の中まで入ってこないから! チップあげるから、さっさと帰って!!」


「そうはいかん。このデコピン一撃で沈みそうな男は何者だ」


「その人は、微風 風吹くん。同級生」

「ほう、同級生とな。そんな回りくどい……彼氏なんだろう?」


「……ッ!」


 俺もだが、木葉も顔を真っ赤にする。

 やっぱりそう思われるよなぁ。


「その反応、実に分かりやすい。おい、そこの風吹丸といったな!」

「丸はつけなくていいです。はい、なんでしょう」


「この私とフェンシングで決闘しろ。私が勝てば木葉と別れてもらおう。君が勝てば結婚を前提に付き合ってよし!」


「マジっすか! 勝てそうにないので別の競技でお願いします!!」



 凩父、フェンシングの達人らしいし勝てるわけがない。そもそも、フェンシングなんてやったことない。精々、授業で受けた剣道だ。



「別の競技だと?」

「例えば、クレーンゲームとか」


「スポーツでもないのか。まあいい、そのクレーンゲームで勝負してやろう」



 いいのかよ!!

 あっさり競技変更。

 しかも、俺の得意なクレーンゲーム。余裕で勝てるじゃん。



「じゃあ、来週とかにでも」

「よかろう。……おっと、バイトの時間だ。では、私は配達があるのでな! だが、その前に木葉、その男とは何もないだろうね。体の接触とかあったら……パパは許さんぞ」


「ふぅん、パパはそんな目であたしを見るんだ」



 明らかに引く木葉。

 こういう時の娘は強いな。



「……ぐっ。分かった。あえて聞かないでおこう。では、さらばだ」



 背を向け、しゅたしゅたと軽快に去っていく凩父。なんだか風のような人だったな。



「はぁ、ごめんね、風吹くん」

「いや、案外面白い人だったけどね。てか、ハーフなのか?」

「うん。お爺ちゃんがフランス人」



 ああ、だからフェンシングなのか。フランス発祥のスポーツだしな。

 なんにせよ、戦う競技がクレーンゲームになってくれて良かった。なんとか勝てるだろう。


 今は、アツアツのピザをいただこう。



「木葉、リビングでピザを食べようか」

「そうだね、あたしもお腹空いちゃったし」



 リビングへ向かい、ソファに座る。木葉は、俺の隣に密着するように座ってくれた。

 それから、サブスクの配信サイトで映画を見ることに。


 なんかゾンビ映画が始まった。



「これ、ゾンビを飼ってるのか?」

「うん。ゾンビサファリパークっていうんだって」


「ほぉ、B級臭がぷんぷんするけど面白そうだな」



 そんな映画を見ながら、まったりをした時間が流れていく。

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