キスの続きと同棲のはじまり

 いつの間にか昼休みが終わっていた。

 ゲームのインストールが中途半端になったので次回に繰り越し。


 それにしても、ギャルと過ごす時間はあっという間らしい。



 お経のような授業がはじまり、俺は頭を抱えた。


 すると、隣の席の凩から何か飛んできた。


 なんだ、これ。


 紙飛行機?


 綺麗なレター用紙が使われているところ手紙にも見えた。まさか、なにか書かれているのか。


 凩の表情を伺うと“読め”みたいな視線を向けられた。


 なるほど――把握はあく


 俺は紙飛行機を解体。

 手紙を開く。


 すると……。



 そこには『キスマーク』だけがあった。



 ……こ、これはっ。


 ドキッとして視線を凩に向ける。

 凩はニヤニヤ笑って俺をからかってきた。


 くっ、やられた。


 ていうか、あのときのキスの続きを待ってくれているのかも。これはそういう意思表示的な?


 まさかな。



 * * *



 ――放課後になって誰も居ない教室。



「凩さん、ちょっと」

「うん、待ってた」


 こちらに向かって来る凩は、俺の机の上に座った。なんという圧倒的距離感……スカート短いからフトモモが――いや、そうじゃない。


 凩がちょっと切なそうに俺を見つめてくる。


 なんでそんな視線を……。



「待ってた?」

「今度こそ、キスしよっか」

「……っ」


「嫌?」

「嫌じゃないよ。でも、物々交換してないし」


「――ああ、そっか。そうだね。あたしはファーストキスをあげるから、風吹くんは何をくれる?」



 唐突に言われ、俺は頭が真っ白になった。ファーストキスをくれるんだ。


 もうこれは貰うしかない。


 けど、その前に俺も、その対価として何かを差し出す必要がある。これは絶対ルールだ。


 考えろ俺。

 ファーストキスに相応しいものを。


 …………。


 思いつかない。


 なにも浮かばなかった。

 そもそも、ファーストキスと同等あるいは以上のものなんて、俺にはなかった。


 だから、俺はヤケクソでこんなことを言った。



「俺をくれてやるッ!」

「――へ」


 目を丸くして驚く凩。

 困惑というよりは“え、マジィ!?”みたいな、ちょっと引き気味のような――いや、違うな。


 これは……。

 この反応は、まさか。


 よし、押し切るぞ。


「俺だよ、俺。俺の肉体を物々交換として差し出す」

「ぷ……ぷはははは! 風吹くん、凄い発想だね、それ」


 お腹を抱えて爆笑する凩だった。

 けれど、あまりに良い笑いっぷりだったので怒る気にもなれなかった。



「そんなに笑うなよ~。本気だぞ」

「ごめんごめん。まさか自分を生贄に捧げるとか」

「生贄とかいうな! 正真正銘の物々交換だ」


「馬鹿みたいだけど天才だね、うん」


 大笑いして涙まで流す凩は、そう言って俺の頬に手を添えた。あまりに突然だったから――味なんて分からなかった。


 気づけば、俺は唇を奪われていた。


 凩からキスされていたんだ。



「……」



 三秒にも満たない短いキス。

 でも、全てが幸せだった。


 俺、凩と……したのか。



「ごめん、我慢できなかった」

「嬉しいよ。凩さんからキスしてくれるなんて」

「じゃあ、風吹くんを貰っていいんだよね?」


「あ、ああ……もちろんだ。役に立つか分からないけどな」

「風吹くんを貰えるとか、キス以上の価値があるよ。じゃあ、あたしのモノなんだよね?」


「そうだ。俺は凩さんのものだ。自由にするといい」

「うん、自由にする。家へ持ち帰ってもいい?」



「んなッ!」



 な、なんだってぇ……?

 家へ持ち帰る?


 いや、俺はもう凩のものなのだから構わないんだけどね。でも、それってお持ち帰りされるってことだよな。



「あたし、マンションで一人暮らしなんだ。一緒に住もっか」

「マジかよ。いいの?」


「うん、風吹くんと一緒がいいな」

「……えっと、うん。凩が良いなら」

「決まりだね。じゃあ、同棲決定ね」



 手を引っ張られる俺。

 本当に凩の家へ向かうようだ。


 凩と一緒住めるとか、最高かよっ。

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