祝福の鐘

「おっちゃん、もう一回だ!」

「ほ~、まさかもう一枚あったとはな。いいだろう、回すといい」


 これでもう一度だけ回せる。

 愛衣に交換してもらったこの最後に賭けるしかない。


 今度は俺がレバーに手を伸ばす。

 木葉も手をえてきた。



「あたしも一緒に」

「そうだな。俺に力を貸してくれ」



 ゆっくりとガラポンを回していく。

 頼む……せめて三等以上が出ますように。



『……ガラ、ガラガラ』



 抽選機の中の玉が混ざっていく。重みや音からして、中身はもうそれほど無いようにも思える。これはチャンスか?


 いよいよ玉が落ちそうな気配があった。


 なにが、出る……?



 かたを呑んで見守る俺と木葉。それと、おっちゃん。



 排出口からは『青』らしき光が――!?



 やべぇ……!!



 だが、神風が吹いた。



 まただ、また風が吹いたんだ。しかも、今度は微風のような温い風。けれど、下から突き上げる強風がガラポンを撫でまわす。



「「「……!!!」」」



 青の玉を飲み込んだ!?

 こんな奇跡があるのか……!



 まだ勝負は終わってないってことか。どこのだれの采配か分からんけど、ありがたい。ギリギリ首の皮一枚で繋がっている。


 険しい崖っぷちに立たされているけれど、風が背中を押した。


 これで……!



 一周を果たしたガラポンは、今度こそ玉を吐き出した。



『――コロン』



 と、その玉は受け皿に落ちてコロコロと転がっていく。



「「「…………」」」



 その結果に全員が固まった。

 俺と木葉は何が起きたか分からなくて――でも、おっちゃんはハンドベルを豪快に鳴らしていた。鼓膜が破壊されそうなほどの爆音。


 だけど、それが祝福の鐘・・・・と分かるや否や、俺と木葉は飛び跳ねた。



「こ、これって……」

「金の玉じゃん!!」



 そう、受け皿には一等『金の玉』が転がっていた。

 虹ではなかったものの、一等を当てた。まさかの一等とは、これは奇跡としか言いようがない。



「おめでとう、ギャルの姉ちゃんとアンちゃん。ほら、持っていきな! 温泉旅行券だ!」



 手渡される豪華な封筒。

 中身を見ると【草津温泉】と書かれていた。マジかよ!



「わぁ、風吹くん。草津温泉だよ、それ! 凄くない!?」

「群馬だから割と近いし、ラッキーだな」

「うん、やったね! 一等とか凄すぎるよ。あーあ、一緒に行ける人が羨ましいな」


「なに言ってんだよ。木葉と一緒に決まってるじゃないか」


「マジ? いいの、あたしで」

「木葉じゃなきゃ嫌だ。でも、愛衣との約束もあるからなぁ、三人かな」

「これ、四名じゃないとダメっぽいよ?」



 そうだったのか。

 となると、流れ的に俺、木葉、愛衣、水瀬ってメンバーになりそうだな。とりあえず、先のことは保留にして、今は喜ぼう。



「それについては考えておく。ひとまず、一等ゲットだぜ!」

「さすが風吹くん。まさか一等を引いちゃうなんて」

「いや、木葉と愛衣のおかげさ。二人の力がなかったら、一等は出せなかった」


「そ、そうかな。そう言ってくれると嬉しいけど――って、そうだ。愛衣!」


「ああ……愛衣は怪我をしていたんだっけ。様子を見に行くか」

「大丈夫だとは思うけど、探しに行こう」



 福引のおっちゃんに手を振り、俺たちはドラッグストアを目指した。



 歩きながらラインで連絡を入れると、愛衣から連絡があった。



 愛衣:心配かけてごめーん。治療は済んだから、こっちのことは気にしないで

 風吹:大丈夫かよ。結構血が出てなかったか?

 愛衣:擦りむいただけだってば~

 風吹:けど、心配だぞ

 愛衣:それより、何等が出たの?

 風吹:一等だ。温泉旅行が当たった

 愛衣:マジ!? 本当に当たったんだ。やばくない!

 風吹:四名じゃなきゃダメらしくてな、愛衣も来てくれ

 愛衣:うん、絶対に行くわ!

 風吹:約束だ

 愛衣:もちろん。それじゃ、わたしは帰るよ~



 以降、愛衣の反応は無くなった。

 本当に帰ったらしい。



「木葉、愛衣は帰ったみたいだぞ」

「もう、愛衣ってば人に心配ばかり掛けて。ちょっと電話して説教してくる!」

「まあまあ怒るなって。愛衣のおかげで一等を当てられたんだから」

「けどー…。うーん、分かった。また日を改めて言っておく」

「そうしてくれ」



 温泉旅行を手に入れたところで、そろそろお昼へ。



「お昼どうする?」

「う~ん……あ! 三階に『金たこ』があるんだ。食べたい」

「ああ、あのたこ焼き屋の。カリカリで美味いよな。よし、決定だな」

「決定~!」

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